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ブレインロット:インターネット時代の新たな懸念

過剰包摂社会としての現代
情報はスマートフォンからさまざまなコンテンツにアクセスして見ることができます。
自分が望んでいると思って見ていたコンテンツが実は意図してないところで、見させられているということもあるかもしれません。
ショート動画などをはじめとした瞬間的に視覚変化の起こるものは人間のドーパミンを常に出し続けることでその人の時間を奪っていきます。

『僕』はこの過剰にドーパミンを出し続けることによる人間の文化形成を「ドーパミン・カルチャー」と呼びました。

そして、現在、ブレイン・ロットという現象が英語圏からZ世代、α世代の人たちを中心として出てきてこの低品質なコンテンツの連続的な摂取を揶揄してきました。

現代におけるこのブレイン・ロットについて今回は解説してみようと思います。
前回、noteに書いたときに反響があったのでその補足と詳細を書いてみました。




はじめに

インターネット文化における「ブレインロット」とは?
近年、海外、特に英語圏のインターネット文化において「ブレインロット(Brain Rot)」という言葉が注目を集めています。2024年には、オックスフォード大学出版局が選ぶ「今年の言葉」にも選出され、一般投票と専門家による審査を経て決定されました 。
この言葉は、主にソーシャルメディアやインターネットで消費される低品質なコンテンツ、またはそれらの過剰摂取によって引き起こされる精神的・認知的な悪影響を指します 。

具体的には、TikTokなどのショート動画プラットフォームで流行している、面白おかしいだけの動画や、際限なくスクロールしてしまうような中毒性のあるコンテンツ、いわゆる「ドゥームスクローリング(Doomscrolling)」などが「ブレインロット」を引き起こすコンテンツの例として挙げられます 2。皮肉なことに、「ブレインロット」という言葉自体がミーム化し、インターネット上で拡散されているという現象も起きています 。

ブレインロットの定義

オックスフォード大学出版局は、「ブレインロット」を以下のように定義しています 。 

取るに足らない、または挑戦的ではないと考えられるコンテンツ(現在は特にオンラインコンテンツ)の過剰摂取の結果として、人の精神的または知的な状態が低下すること。
また、そのような低下を引き起こす可能性があるとされるもの。

興味深いことに、「ブレインロット」という言葉の起源は、現代のインターネット文化よりもはるかに古い1854年にまで遡ります。ヘンリー・デイヴィッド・ソローの著書『ウォールデン 森の生活』の中で、複雑なアイデアが軽視され、知的な水準が低下していることを嘆く際に、この言葉が使われていました 。ソローは、この現象をヨーロッパで流行したジャガイモ疫病になぞらえて「ブレインロット」と表現しました。

ブレインロットの背景

現代のインターネット文化における「ブレインロット」という言葉は、2007年頃にTwitterユーザーが恋愛リアリティ番組やビデオゲーム、オンラインでの暇つぶしなどを指す言葉として使い始めたのが始まりとされています 4。2010年代にはオンラインゲームのコミュニティなどで使われるようになり 、2020年頃からDiscordなどのオンラインコミュニティでミームとして広まり、一般的に使われるようになりました 。

「ブレインロット」という言葉が注目されるきっかけの一つとなったのは、TikTokユーザーが第二次世界大戦中の兵士の虚ろな表情を描いたイラスト「The 2000 Yard Stare」を題材としたミームの起源を突き止めたことでした 7。このイラストは、戦争の恐怖を目の当たりにした兵士の精神的な疲弊を表しており、インターネット上で大量のコンテンツに圧倒される感情を表すミームとして広く使われています。このミームの拡散が、「ブレインロット」という言葉の広まりと社会的な議論を促進する一因となったと考えられます。

ブレインロットが注目されるようになった社会状況

「ブレインロット」という言葉が近年注目されるようになった背景には、ソーシャルメディアの普及とコンテンツ消費の増加が挙げられます。特に、TikTokなどのショート動画プラットフォームの利用者が増加し、手軽に大量のコンテンツを消費できるようになったことで、低品質なコンテンツに長時間触れる機会が増加しました。

また、新型コロナウイルスのパンデミック以降、人々の生活はオンラインに依存するようになり、ソーシャルメディアの利用時間が増加しました。その結果、オンラインコンテンツの過剰摂取による悪影響が懸念されるようになり、「ブレインロット」という言葉が社会的な問題意識と結びつく形で注目されるようになったと考えられます 。

興味深いことに、一部の若者は「ブレインロット」を一種のステータスシンボルのように捉えているという指摘もあります 7。これは、ビデオゲームでハイスコアを出すことと同様に、スクリーンタイムの長さを競い合う傾向が見られるためです。

ブレインロットと関連する概念

「ブレインロット」と関連する概念として、以下のようなものがあります。
ドゥームスクローリング(Doomscrolling): 不安や恐怖を引き起こすようなネガティブなニュースや情報を、ソーシャルメディアなどで際限なくスクロールしてしまう行為 。
例えば、災害や事件のニュース、政治的な対立、社会問題に関するネガティブな情報などを、次から次へと読み漁ってしまうような状況が挙げられます。

ドゥームスクローリングは、不安や抑うつ、不眠などの精神的な問題を引き起こす可能性があるとされています。

Problematic Interactive Media Use: ボストン小児病院の研究者が提唱する、インタラクティブなメディアの過剰使用による問題行動 。

具体的には、学業や仕事、睡眠、対人関係などに支障をきたすほどの過剰なゲームプレイ、ソーシャルメディアの利用、インターネット閲覧などが挙げられます。Problematic Interactive Media Useは、集中力や注意力の低下、衝動性の増加、依存症などの問題を引き起こす可能性があるとされています。

デジタルウェルビーイング: デジタル技術とのかかわり方によって、心身の健康や幸福を維持・向上すること。デジタルウェルビーイングを実現するためには、デジタル技術の利用時間を適切に管理し、質の高い情報を選択的に摂取することが重要です。また、デジタルデトックスやオフラインでの活動を増やすなど、バランスの取れた生活を心がけることも大切です。

ブレインロットの悪影響

「ブレインロット」は医学的に認められた病名ではありませんが、過剰なオンラインコンテンツ消費による悪影響は無視できません。
専門家は、ブレインロットの症状として、精神的な疲労感、集中力や注意力の低下、モチベーションの低下、生産性の低下などを挙げています 。これらの症状は、学業や仕事のパフォーマンス、睡眠の質、対人関係などに悪影響を及ぼす可能性があります。

ブレインロットへの対策

ブレインロットを防ぐためには、以下のような対策が有効と考えられます。

スクリーンタイムを制限する。
スマートフォンやパソコンの使用時間を決めて、それを守るようにしましょう。

特定の時間帯は、スマートフォンやパソコンの電源をオフにするようにしましょう。
アプリケーションの利用時間を制限する機能を活用しましょう。

集中力を妨げるアプリを削除する。

ソーシャルメディアやゲームなど、集中力を妨げるアプリをスマートフォンから削除しましょう。
必要最低限のアプリだけを残し、それ以外はパソコンで利用するようにしましょう。

不要な通知をオフにする。

スマートフォンやパソコンの通知をオフにすることで、集中力を妨げる要素を減らしましょう。
重要な通知だけをオンにするように設定しましょう。
デジタルデトックスを行う。

定期的にデジタルデトックスを行い、デジタル機器から離れる時間を作るようにしましょう。
休暇中は、スマートフォンやパソコンの使用を控えるようにしましょう。
自然の中で過ごす時間を作ることで、心身をリフレッシュしましょう。

質の高いコンテンツを意識的に摂取する。
ニュースサイトや書籍、ドキュメンタリー番組など、質の高いコンテンツを意識的に摂取するようにしましょう。
信頼できる情報源から情報を得るようにしましょう。
受動的に情報を受け取るのではなく、批判的に情報を読み解くようにしましょう。

読書や運動など、オフラインでの活動を増やす。
読書や運動、趣味など、オフラインでの活動を増やすことで、デジタル機器への依存度を減らし、心身のバランスを保ちましょう。
人とのコミュニケーションを増やすことで、孤独感を解消しましょう。

結論

「ブレインロット」は、現代のインターネット社会における新たな懸念事項として浮上した言葉です。ソーシャルメディアの普及により、低品質なコンテンツに長時間触れる機会が増加し、精神的・認知的な悪影響が懸念されています。

「ブレインロット」を防ぐためには、オンラインコンテンツの消費量をコントロールし、質の高い情報を選択的に摂取することが重要です。また、デジタルデトックスやオフラインでの活動を増やすなど、バランスの取れた生活を心がけることが大切でしょう。

現代社会において、インターネットやデジタル機器は生活に欠かせないものとなっています。しかし、それらの利便性を享受する一方で、過剰な利用による悪影響にも注意を払う必要があります。

「ブレインロット」という言葉は、私たちにデジタル社会との付き合い方について改めて考えるきっかけを与えてくれます。私たちは、デジタル技術と健全な関係を築き、心身の健康を維持しながら、より豊かな生活を送ることを目指すべきかと考えております。


引用文献
1. 'Brain rot' is Oxford's 2024 word of the year. What does that say about society?, 1月 12, 2025にアクセス、 https://news.northeastern.edu/2024/12/03/brain-rot-oxford-word-of-the-year/
2. 'Brain rot' named Oxford Word of the Year 2024 - Oxford University ..., 1月 12, 2025にアクセス、 https://corp.oup.com/news/brain-rot-named-oxford-word-of-the-year-2024/
3. Brain rot - Wikipedia, 1月 12, 2025にアクセス、 https://en.wikipedia.org/wiki/Brain_rot
4. What is 'brain rot'? Do you have it? | SBS News, 1月 12, 2025にアクセス、 https://www.sbs.com.au/news/article/what-is-brain-rot-do-you-have-it/39fexbr4u
5. corp.oup.com, 1月 12, 2025にアクセス、 https://corp.oup.com/news/brain-rot-named-oxford-word-of-the-year-2024/#:~:text='Brain%20rot'%20is%20defined%20as,to%20lead%20to%20such%20deterioration%E2%80%9D.
6. How 'Brain Rot' Became the 2024 Oxford Word of the Year - Parents, 1月 12, 2025にアクセス、 https://www.parents.com/brain-rot-2024-oxford-word-of-the-year-8754608
7. What Is Brain Rot And Why Is The Internet Talking About It - NDTV, 1月 12, 2025にアクセス、 https://www.ndtv.com/world-news/what-is-brain-rot-and-why-is-the-internet-talking-about-it-5889964
8. Brain Rot: The Impact on Young Adult Mental Health - Newport Institute, 1月 12, 2025にアクセス、 https://www.newportinstitute.com/resources/co-occurring-disorders/brain-rot/

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