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読書の秋というより、読書の9月。
さつまいもに、かぼちゃ。柿も出てきたし、栗も見かけるし… ずっと食べ物のこと考えてる。タイトルの「読書の秋」なんて、無視してください。食欲の秋だよ、食欲の秋。パンプキンスパイスラテを頭から振りかけたい。
なぜかはよく分からないのだけど、毎年9月は読書がはかどる。そして、なぜか、良い本に出会う確率が高い。偶然の出会いに救われる。昨年はOttessa Moshfegh「Eileen」/「アイリーンはもういない」に衝撃を受けた(未だに引きずっている。なんなのこの本って思ってる)。考えてみると、一昨年はDelia Owens「Where the crawdads sing」(ザリガニの鳴くところ)とOttessa Moshfegh「My year of rest and relaxation」を同時進行で読んでいたり(ノースカロライナの湿地帯とニューヨークを行き来して、脳内ぐっちゃぐっちゃ)と、面白いことが起きるセプテンバー。今年もですね、Caroline O'Dnoghue「The Rachel Incident」に、美しい頬骨で有名な(そう思ってるの多分、私だけ)キリアン・マーフィー主演で映画化されるClaire Keegan「Small Things Like These」(ほんのささいなこと)や、森田たま「石狩少女」という、本の魅力は十分理解していたつもりだけど、いやまだまだだったな、世界は広いな、と思わせてくれる作品に出会えた。今、私の心はたっぷんたっぷんに満たされている。
「The Rachel Incident」はkindleの洋書セールでたまたま手に取った作品なんだけど、これが当たり。大当たり。良い買い物をした。2010年のアイルランド、コークが舞台。友情に、恋。ひしひしと肌で感じる経済格差に、不景気。20代できっと、誰もが経験する荒波のような混沌を、繊細に、時に大胆にユーモアたっぷりに表現している。話の筋は特になく、雰囲気がただただ面白い。空気がおいしい。主人公Rachelの思考回路に共感しかなかった。悩んでる人はとりあえず、これを読んで笑おう、スカッとしよう。約束はしないけど、なんだ私大丈夫じゃん、って思えるはず。自伝的小説に近い感じ。
I've never been good at melting down at the right time.
「Small things like these」…寒かった。短い作品なのに、痛い。こちらも舞台はアイルランドで、1985年のクリスマス。1996年まで実在したマグダレン修道院の話がベースになっている。映画「マグダレンの祈り」(2002)をご覧になった方は、この修道院という名の「収容所」(10代で妊娠してしまったり、性被害を受けた女性たちを強制的に収容し、重労働を課していた)についてもご存知かと思います。映画では修道院の実態を生々しく描いてあるようだけど、こちらの作品では主人公Billが少しずつ、奇妙な点に気づいていくところに焦点が当たっているのかな、というのが、個人的な解釈。クリスマスの時期という美しさと、権力の大きさがぐんぐん迫ってくる。最後に、ちょーっとうすーく希望の光は見えるけど、終始ぞわぞわが止まらなかった。
Why were the things that were closest so often the hardest to see?"
映画の予告編はこちら。日本公開されるかな。
本屋で目に留まった「石狩少女」。ちくま文庫の棚を眺めるのが好き。表紙買いです。1940年に実業之日本社から刊行された森田たまの半自伝的小説が復刊され、文庫化。舞台は明治末の札幌。文学への熱い情熱を持つ主人公、野村悠紀子の葛藤はどの時代の人間にも響くんじゃないかしら。帯の言葉(「本を読む少女は生きづらい」)に惹かれるように手に取った作品だったので、取っつきにくい内容だったらどうしよう…と心配していたけど、杞憂に終わった。リンゴのようにみずみずしくて、薄暮のように繊細。是非とも一緒に、空を見上げたい。
「姉さんは死にたいとおもった事なくって?」
「おおいやだ。せっかく生れてきたのに。……できるだけ長いきしなくちゃ損じゃないの」
「お婆さんになって、よぼよぼして、みんなから邪魔がられるようになっても、やっぱり長いきがしたい?」
「邪魔になんかされるわけがありませんよ。子供や孫がみんな寄って大切にしてくれますよ。」
「そうかしら…」
生きている事に漠然とした不安や、疑惑など、美和子は一度も抱いた事がないようである。それが悠紀子にはふしぎであり、同時に羨ましくありそうしてまた心の底ではそういう美和子を軽蔑もしていた。
そしてそして。最近あったビッグイベントとしては、サリー・ルーニーの新作「Intermezzo」が発売されたこと!同じサリー・ルーニー好きの助けもあり、私は!幸運にも!サイン本を手に入れることが出来ました。きゃー。スキップしながらどこまででも行けちゃうね。通りすがりの人をハグしたくなっちゃうね。人生すべて上手くいく気がしてきちゃうね。
弁護士のPeterと天才チェスプレイヤーのIvanという兄弟を中心とした、喪失感や愛、家族がテーマの「Intermezzo」はルーニーが3年かけて書き上げた4作目の長編小説。
まだ数十ページしか読めてないけれど、彼女が生み出す文章のリズムに久々に触れて「お、そうそう、これこれ」ってなってるところ。個人的にはサリー・ルーニーって、うわわわわ(語彙力…)と最初から引き込まれる作家ではないと思っていまして、なんて言うんでしょう、テンポに慣れるまでは探り合いが続く。でも、ふとした瞬間にすとんと腑に落ちて、そこからはもう、私がこの本を吸収してるのか?私がこの本に吸収されてるのか?境界線が曖昧になる。遅効性。じっくりじんわりじりじりと。これまで読んだどの作品もそうだったから、きっと今回も。今の私は探り合いの終わりが見えてきて、これからサリー・ルーニーが私の中に寄生しそう、という状態です。
しかも、「Intermezzo」の発売日の前日はホークスがリーグ優勝した日。胴上げからのサイン本。最高の2日間。生きてて良かった。ホークスファン+サリー・ルーニーファンってこの世界にどれくらいいるんでしょうか。もしこれを読んでいるあなたがそうなら、ハイジとペーターのように手を取り合って踊りたい。
サリー・ルーニーのインタビューや、新作についての情報はT・S・デミさんがまとめてくれていますよ。助かります。興味がある方は是非どーぞ。
I didn't actually wanted to be 'the youngest novelist'; I just wanted to be good.
読書の9月から、読書の10月へ。本を読むペースも、食欲もとまらない(はず)。
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