映画 ”Saltburn”
友達と鰻を食べに行った祖母と、買い出しに出かけた母、家で1人「Saltburn」の感想を書くお団子頭の娘。火曜日。好みは違うわ、男手はいないわ、いろいろあるけど、これはこれでいいのです。
「Saltburn」。この映画の存在を知ったのは、ニューヨークを活動拠点にしている俳優・作家・映画製作者、Taylor Rosenのinstagram。Donna Tarttの「The Secret History」みたいなダークアカデミアの雰囲気増し増しの映画を観たいっ!って人は、この作品をチェックした方が良い、とのこと。「The Secret History」に魂持っていかれた人(私)としては…観るしかないよね。
「Saltburn」は2023年のブラックコメディー / サイコスリラー映画。Amazon Primeで独占配信されているAmazon Originalの作品です。話題の作品はNetflixやDisney+にいつも取られてる気がするので、どちらにも加入していない人からすると、今回ばかりはエッヘンってちょっとだけさせてほしい。威張りたい。大人の事情があるだろうから、みんな大変だとは思うけど。
監督は「プロミシング・ヤング・ウーマン」で2021年のアカデミー賞で脚本賞を受賞した、俳優としても活躍するイギリス出身のEmerald Fennell(エメラルド・フェネル)。彼女の作品はお初。
主演は「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」「ダンケルク」「エターナルズ」「イニシェリン島の精霊」など、どの作品でも独特の存在感を放つ、アイルランド出身のBarry Keoghan(バリー・コーガン)。私は「ダンケルク」で初めて知った俳優。一度見ると、脳裏にこびりついて離れない、強烈な印象をどこにでも残していく。オックスフォード大学に入学した冴えない平々凡々なOliver Quick役です。…侮ることなかれ。
Oliverが大学で出会うのがFelix Catton。HBOの「ユーフォリア」、Netflixの「キスから始まるものがたり」で有名なオーストラリア出身のJacob Elordi(ジェイコブ・エロルディ)が演じています。(オリックスの山﨑颯一郎投手にどこか似てない?私だけ?)貴族階級の出身で、カリスマ性があって、長身で、イケメンだけど、どこか儚い。誰も放っておかない、みんなの人気者。人気者を通り越して、もはや…崇拝されてる域。神。
大学を始め、イギリス中に未だ蔓延る階級意識。学生から軽蔑の目で見られるダサく無口な非・上流階級のOliver。苦労を知らないFelix。次第に育まれる2人の友情。日がたつごとに、増していく激しい感情。そんな時、夏休みに帰る居場所がないOliverを、FelixがSaltburn(ソルトバーン)にある彼の邸宅に誘う。
Saltburn (Saltburn-by-the-sea)はイギリス北東に位置する海辺の都市。歴史的な遊歩桟橋、ビクトリア様式の建築で有名な場所。Catton家のお屋敷などのシーンの撮影はNorthamptonshire(ノーサンプトンシャー)のDrayton Houseで行われたそう。
その邸宅でOliverが出会うのが、じゃじゃーん、Felixの風変わりな家族。Richard E. GrantがFelixの父親Sir James(リチャード・E・グラント)を、「ゴーン・ガール」のRosamund Pike(ロザムンド・パイク)が母Elspeth Cattonを、「カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ」でFrances役、アイルランド出身のAlison Oliver(アリソン・オリヴァー)が姉Ventia Cattonを演じています。Sally Rooney推しな私は、Alison Oliverが見れたことが、とてもとても嬉しかった。執事のDuncanが不気味で、何気に良いキャラ。
Saltburn。魅惑的なお名前。傷口に塩がすり込まれている感じ。ヒリヒリ痛くて、痛くて、傷口が燃えているんじゃないか、と疑いたくなる感じ。Saltburnという言葉を聞いた時、私の頭の中にはそんなイメージが浮かんだ。
実際に、監督自身が「Saltburn」というタイトルにした理由をAccess Hollywoodにこのように語っている。
この文章はどんなあらすじよりも、的確に「Saltburn」という作品を表している。(pleasurable stingってhickeyみたいなこと?)私はあらすじを書き起こすのがどうも苦手なので(話すのは得意なんだけど)、ここまでの私のつぶやきで、ふんわりと理解してもらえてたら光栄です。
感想としては、うーん?ただ面白かった!良かった!と一言で表せる内容ではなかったかな。まず、俳優の演技は素晴らしかった。特に、Barry Keogan。恐るべし。何を考えてるか分からないあの表情、ラストシーン…私の頭にべったりと張り付いている。同情って怖い。良い人ぶるのは、もうやめようかと思った。
次に、映像はすごく綺麗。美しい。色彩が豊か。まるで絵本の世界にいるみたいだった。でも美しいが故に、細部まで生々しい。必要以上に、ビビット。気持ち悪いけど、最後まで観ちゃう。観終わった後は、放心状態に陥る。大量の血、薬物、飲酒、性的な描写に耐性がある方(18歳以上)オンリーです。ちなみに、私は今回初めて、英語字幕に挑戦してみましたよ。この台詞、日本語字幕だとどうなっているのかな?って想像しながら観ることが出来て、楽しかった。
OliverとFelixの関係は「The Secret History」のRichardとHenry、M.L. Rio作「If We Were Villains」のOliver(これまたOliver!)とJames、映画「いまを生きる」のToddとNeilのものに近い。やっぱりダークアカデミア要素はあったのね。夏を舞台にした作品だから、「ダーク」なわけでもないし、大学(アカデミア)は出てくるけど、ずっとメインの舞台になるわけではない…でもやっぱりダークアカデミア。
Oliverがバスタブの水を飲む?舐める?啜る?シーンがあるんだけど、映画に出てくるどの場面よりも、衝撃的。OLIVER!!!!って、体をよじりながら叫びたかった。おぇ。私の身体から「食欲」っていう衝動がスーッと消えた瞬間だね。監督の話によると、「Saltburn」の構想のきっかけになったのが、頭の中に映像としてパッと浮かんできたこの場面だったみたいで、そこから何年もかけて、作品の形を作り上げていったらしいです。バスタブから抜かれていく水を必死で啜る=「手に入れられないものを手に入れようとしているさま」欲望、特権、羨望、愛、憎悪、美…「Saltburn」を象徴する場面と言っても過言ではない。気分は悪くなるけど。ちなみに、バスタブの水はヨーグルト、牛乳、水を混ぜたものなんだって。美術部門の方たち、すごすぎるよ。
はっきり言って、ここまで色んな要素をひとつの映画に詰め込む必要はあったのか、とは思います。詰め込みすぎて、うぅ、重い、エネルギーが奪われる。個人的には、流行りをドボンと映画に落とし込んだ、という感じが否めない。Queer(クィア:性的マイノリティや、既存の性のカテゴリに当てはまらない人々の総称)な映画とも言われいるんだけど、最近、なんだかQueerっていう言葉がただの流行というか、ファッションのようなものに変化してしまっている気がする。自身の性的指向や性自認で真剣に悩んでいる人たちがいる中で、気軽に使っていい言葉なのかな、気軽に扱っていい話題なのかな。私にも知らないことはまだまだあるし、その場その場に相応しい、フェアで小粋な対応が出来るように日々勉強していかなくちゃ。
で、結局、「Saltburn」を観る価値はあるかどうかって話。
あると思う。Barry Keoganの演技と映像美には、うん、きっと価値がある。観たら、感想教えてね。話しましょ。
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