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筒井康隆「残像に口紅を」
月が替わったら、読書メーターのまとめと合わせて読んだ本の振り返り。
10月も読書量は少なく、漫画すら3冊。
何してたんだろう。何もしてない。
まぁいいや。とりあえず小説は1冊読めた。
筒井康隆「残像に口紅を」を文庫で読みました。
どこかのTikTokerだかYouTuberだかの紹介動画がバズって、発行から30年以上経ってまさかの大量重版というニュースがありました。
(まさにインフルエンサーの影響力絶大)
そのニュースももうかなり前だけど、積ん読していたのをやっと読んだ。
ちなみにそのバズり紹介動画は見ていません。
世界から一文字ずつ文字が消えていったらどうなるか。
「あ」という文字が消滅すれば、「あ」を含む言葉が消え、名前に「あ」を含む物も消えていく、というお話。
へぇ、どんな風に消えていくのかなと読み始めて、最初の章で既に「あ」が消えてることに気づかされ、「あ」っと驚かされた(笑)
そうした表現も許されなくなっていく世界です。
以下ネタバレ有りなので、ネタバレ無しで読んでみたい方はご注意ください。僕はネタバレ無しだったおかげで楽しく読めました。
その後、章を追うごとに一文字一文字消えていく。固有名詞も対象なので、登場人物が突如消えたりもする。
この無謀な試みを300ページ超最後までやり遂げているところがまずすごい。
言い換えがきく日本語だからできたこととはいえ、語彙力に長けていないともちろん無理だし、読者を退屈させない展開力も流石。
使える日常的な言葉が減ってきて、次第に難しい熟語や、読みづらい言い回しが増えてくる。
最後は「てにをは」もなくなり、文章は抽象的な詩のようになって、最後の最後には世界から全てが消えてしまう。
試みとして十分興味深いが、さらに作品の視点であり語り手である主人公を作者自身にしているところがまた面白い。
彼は文字がだんだん消えていく世界に自分がいることを認識していて、時折その後の展開を自分でコントロールしているようにも読めるが、自分の意志で文字を消せるわけでもないらしい。微妙な在り方。
文字が消えてみて初めてわかった不自由さや、文章表現の制約による意外な発見を、登場人物のくせに作者視点で楽しんでいるような時もあって、さらにそれを読んでいる我々読者視点からすれば、三段構造の世界のようで不思議な感覚に陥る。
使える文字が減ってくると、登場人物の語尾や語調が変わってきて、キャラが変わってきてしまうのが面白かった。
登場するキャラにはその作家さんらしさがあるし、風景を描く色使いにも個性がある。
そもそも文体自体にその作家さんらしさというものがあるので、使える言葉が制限されれば、それらも薄れていく。
いつもなにげなく読んでるけど、語尾や言葉使いだけで自分の色を出し、自分らしい画を読者にしっかり伝える作家さんの技の巧を、あらためて認識いたしました。