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教室のはじっこで1人ぼっちだった私へ

春が苦手だった。

新しい環境に馴染めなくて、子どもの頃は春がとにかく辛かった。精神的な疲れからか、毎年この時期に酷い口唇ヘルペスに悩まされる。

新しい仲間との第一印象に、グジュグジュの荒れた口元で登校するのも憂鬱の種だった。

探り合う距離と休み時間
緊張した空気
慣れない友達と新しい先生

刺激の多さに順応できなくて、毎朝泣いて学校に通った。

小学校1年生でも2年生でも春の遠足は友達がいなくて担任の先生と2人でお弁当を食べたのを覚えている。

両親にも、心配をかけていたと思う。

小学校から帰ると、ホッと落ち着いた。日課だったのは帰宅後ドラえもんの“雲の王国”のビデオを見ること。

ストーリーではなく、武田鉄矢の歌う挿入歌【雲がゆくのは】に癒された。広い世界で、辛いのは自分だけではないと思えた。

自分の心に向き合い、気持ちを少しずつ書き始めたのはこの頃だ。拙い言葉だったけれど、日記に書くことで救われた。


小学2年生の7月。
今でも忘れられない出来事がある。

“かきかた”の授業で配られたフェルトペンのインクが指に付いたときのこと。水道で手を洗うと、水性のインクが水に滲んで指の上で広がった。

キレイ

嬉しい発見をして、次の休み時間に私は実験を始めた。手持ちのポケットティッシュを半分にちぎって、そこにフェルトペンで線を書く。それを水で濡らしてみた。

黒いインクが水を受けてティッシュの上でゆっくり広がっていく。黒から紫へ。時間をかけてグラデーションになった。

その様子に見惚れていた。
もっと見たい。
時間差でどんな色に変化するのだろう?

ロッカーに置いてあった工作用の紙コップに水をはる。フェルトペンで線を書いたティッシュをその水につけ、休み時間のたびに1つずつ増やしていった。

時間と共に、ティッシュと水面に黒いインクが動いていく。インクのグラデーションも水にできる輪も時間ごとに顔色を変えた。

思わずうっとりする。帰りの会の時にはコップは5つになっていた。

“明日にはどんな色になるのだろう?”

スキップしたくなるような気持ちで学校を後にした。翌日。明るい気持ちで登校したのは初めてだった。


ところが。


教室に入ると、ロッカーにあったはずの紙コップは全て無くなっていた。

朝の会。

「昨日、ロッカーの上に水の入った紙コップを並べた子はいますか?」先生が言った言葉に、私の心臓は大暴れした。

“どうしよう私だ”


教室が少し騒がしくなり、私は俯いたまま何も話せなくなった。

「心当たりがある子は、後で良いので先生のところへ来てね」先生は、そう言うと何事もなかったように授業を始めた。


「私がやりました」
灰色の大きな机の前で、ポツリと話した私に先生は怒ることはなかった。

「なんで、アレをしようと思ったの?」
その質問に、私は返事ができない。

紙コップを並べたあの時に湧き上がった感情を、ドキドキする気持ちを、幼い私では上手く言葉で表現できる気がしなくて諦めてしまったのだ。

何も話さない私を、先生は責めることはせず「暑い季節になって、虫も集まってくるから、これからはしないでね」とだけ注意してくれた。


その学期末の成績表。
“整理整頓ができる”の欄だけ△がついていて、私は必要以上に自分を責めた。きっと、あれがいけなかったのだと……。


そんな私に変化が訪れる。
小学3年生で、親友ができのだ。

彼女は私と同じ春が苦手な子。私は朝が辛かったけれど、彼女は帰り道で疲れが出て泣いていた。

共通の悩みがあった私たちはすぐに打ち解けた。新年度から心を許せる友達がクラスにいることは初めてで、とにかく心強かった。


彼女が分かってくれるから大丈夫。ここから、私の人間関係は一気に広がることになる。

その子と同じクラスになったのは小学3年の1年間だけだったけれど、その後の学校生活の景色はガラリと変わった。

たった1人でも自分を理解してくれる人がいる。それだけで十分で最強だった。

他の子とも次第に自然に話せるようになって、学校も楽しくなった。小3以降に出会った子からは社交的だと思われているかもしれない。

クラスで話題のテレビ番組を見て話の輪に入ったり、休み時間に大勢でトイレに行ったり。気づけば、集団生活で多くの女生徒がすることを自然と出来るようになっていた。

学校生活のクラスという小さな社会に順応できるようになったのかもしれない。

なったのかもしれないけれど……。
私は、ときどき視線を感じる。


教室のはじっこで1人ぼっちだった私の。
好きなことに真っ直ぐで、ただただ夢中で。誰の視線も気にしない、ある意味最強だったあの時の自分からの視線を。


ときどき考えることがある。あの頃にワープ出来たら小2の、あの日の自分に会ってみたいと。

今の大人のままワープしても、きっと小2の私は上手く話せないだろうから、出来れば子どもになって。

そうしたら、一緒に紙コップを並べてワクワクしたい。明日はどんな色になっているか2人で楽しみを共有するのだ。

翌朝は、きっと先生に「もうしないで」って言われてしまうけれど、その時は素直に2人で謝ろう。やっぱり衛生的ではないのだから。

でも、謝ったその後に、私たちは顔を見合わせて笑うんだ。「怒られちゃったね。でも、楽しかったね」って。

今回は、みくまゆたんさんの“自分語り”企画に参加させて頂きました。

自分語り最高!!と、多くの人が楽しく発信できるような企画を開催してくれるみくさんの心意気に感動です。

期限は今のところ10月25日までだそうです。

皆さんも“読者のため”は一旦忘れて自分が楽しい書きたいと思う記事をこの機会に書いてみませんか?

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青空ちくわ
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