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友人のように。 —if you smile with me now—
私は、友という概念を永久に失ってしまった。
睡眠と自由を奪われたサバイバル生活のような新生児期が過ぎ、赤子だった子供が幼児期にもなると一転して自分の中にエネルギーが満ちているのがわかった。
体がとても軽い。
私を昔に縛るものが、もう殆ど残っていなかった。
歌いたい歌があった。
繋いだ手と共に崩れ落ちた音楽を、もう一度追いかけている。
子供の相手をしながら曲を練って、寝かしつけながらスマートフォンで曲を完成させられるんだから、もうできない言い訳がない。
でも私は音楽の才能がないから、すぐに壁にぶち当たって孤独になる。
それも、今までに何度も繰り返してわかっていたことだから、私は心のエネルギーを逃してやる。
音楽以外にも、あの夜の世界に壊れて散らばった欠片は、膨大にある。
次は文章が良いかな。
ドメインが無効になって消えてしまった過去のホームページのログから欠片を回収して、どこかに載せようか。
丁度いいプラットフォームを見つけた。
綺麗なアンチエイリアスの明朝体で読めて、人が沢山集まるなら充分だ。
私の足元に散らばっている古い言葉を拾い集めて、投げ入れる。
いつからか私は、過去の言葉だけではなくて、今の私の言葉を書き連ねていた。
そして、一度流れ出た新しい私の言葉は容易には止められなかった。
言葉だけではなく、昔に描いた絵や、作ったデザインまで掘り出しては、そこに投げ入れて行った。
死んだ細胞が、生き返るようだった。
私は、何でもちゃんと見ることが好きだったけれど、ここには私と同じくちゃんと見たいと思っている人が沢山いた。
「私の」
人の目の奥にある心こそが、命を与える。
死んだように思えたものたちは、人の目に触れることで命を持つ。
そんなプラットフォームだった。
twitterも当時は革新的だったし、短文で区切った言葉達が、夜空に瞬く星々のように呼応し拡散する姿は美しかった。
「私と」
けれど、これまで140文字の短文に押し込むために文を斬ってきたエンターキーは、ギロチンの刃のように血で錆びついていた。まだ生きていたいと懇願する文と一緒に斬っていたのは、心だった。
文字数を気にせずに書ける開放感は、twitterに抑圧されていた指と脳を弾けさせた。
そんな中、自分の身に変化が起きていた。
何かが喉に詰まっている感じがする。
喉に詰まっているものは、何かを伝えようとしていた。
「私の」
長い文章は、人の心を掘り起こす。
私は、お向かいの大きな家の旦那さんの顔を知っていて挨拶をするけれど、会いたいとは思わない。
いくらお向かいに挨拶をしても、性根がわからないし、隠された幼児性愛や暴力性を見抜くことは難しい。
一方で、わざわざ自らの心を切り開いて文章にして見せてくれる人達には安心して大切な子供を連れて会いに行きたいとすら思う。
彼ら自身が思い思いに切り取ったその人自身の切れ端に、いつもみたいにイイネを沢山付けて、自分だけの書棚に入れて、余程好きならエヴァノートに貼り付けて仕舞おう。それだけで、満足だ。満足なはずだ。
「私と、と」
…あなたは、消えてしまうかもしれない。
…私がかつて、愛したウェブの海に永久に戻って来なかったかもしれないように、あなたは、君は、沖の果てに、小さくなって、水平線の彼方に、行ってしまうかもしれない。もしくは底のない深海へと、呑み込まれてしまうかもしれない。
思いもよらず、君がノートの鼓動を止めてしまった時に、私は後悔しないだろうか。
私は親友だと思った人を、さいごまで見届けることができなかった。
友であることを、裏切った。
それを言うのも、求めるのも、私は私に許可できないだろう。その約束の空虚さに、私が耐えられないだろう。
そう思っていたのに、君は私と、まるで友人のように、話してくれたんだ。
それが、一人になってしまった私をどれほど救い、どれほど気付かせたか。友を求めて止まない心に。
友達とはなんだったか、わからなくなってしまった。
だけど、友人のように話しかけたら、君はまるで友人のように返事をくれて、友人のように笑えた、その時、私は…。
「私と…、」
その先の言葉は、何度出そうとしても喉から先の声になることなく、かわりに涙となって溢れ、流れて行った。
私は、言おうと思う。君に。
私は、ただそれを言いたかっただけなのに、口からは黒い澱ばかりが出てしまうんだ。
でも、その澱を全て吐き出したら、私は君に、言うことができるだろうか。
「私と、友人のようになってください」
と。
(完)
※「友人のように。」は、5話完結ですが、こちらの-if you smile with me now-はその最終話です。1〜4話は予定通り公開を終了しました。スキ、コメントを下さった方ありがとうございました。バッチリ保存しました。また形にし直してお目にかかれたらと思います。
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