〈療育小話〉捉えることを伝える
「捉える」
不確かな事、わかりにくい事などを自分の視野や知識の中におさめる。
療育に通ってくる子ども達は、この「捉える」力が、自然に育ちにくいです。
つまり、発達の過程において、何も意識せずとも自然に捉えていく事、物について、
認知面の偏りや、身体的な制限によって、
本来、自然に捉えていく過程を、捉えられないまま発達していくのです。
この捉えられなかったものを、発達段階から評価し、もう一度、人工的に
捉え直していく作業が療育なのです。
では、この「捉えられなかった」事とは、どういったものがあるのでしょうか。
皆さんは、物を操作する時に、その物自体を、ちゃんと目で捉えていますか?
試しに、見ないで操作してください。
操作するには、見ないとなかなか難しいことが多いですよね。
他にも「捉える」方法として、聞く、触る、味わう、匂う
などがあります。
(もっと細かく言うと、筋肉の収縮や、身体の傾きなどもありますが)
つまり五感です。
人は胎児の頃から、この感覚を、まんべんなく自然に体験、体感し、自然に自分に取り込んでいき、発達していきます。
しかし、これが認知の偏りや、身体的障害、過敏や鈍感といった、感覚の偏りがあった場合どうなるでしょうか?
「捉えて理解する」機会が得られない状況が続く事になるのです。
つまり発達段階における、獲得しなければいけない発達を獲得しないまま、大きくなります。
今回は、目で捉えるに着目して、書いていきたいと思います。
目で捉える事が苦手というのは、例えば自閉症の症状がある子は、認知や感覚に偏りがある場合が多いです。
そうなると、まんべんなくではなく、あるものを、ずっと見る。また、次々と違うところに視点がいき定まらない。といった事が起こります。
身体障害の子はどうでしょうか?
身体を動かせない。あるいは、動かそうとしても、筋肉が思った様に微調整できない場合、注目したい場所を見る事が困難になります。
目で見るという事が、言語発達において、なぜ重要になってくるかというと、
言葉というのは、人との共感から生まれるものだからなのです。
人と人の間を行き来する言葉。
相手に伝えたいという想いが生まれて、初めて言葉が出現してきます。
では相手に伝えたいと思う瞬間は、どの様に生まれますか?
例えば、自分が見ているモノに対して、相手も同じモノを見ていると気づいた時。
相手の視点の先を捉えて、同じモノを見ていると分かったら、相手に「大きいね」だったり、「あれは何だろうね?」と、尋ねたり、同意を求めたりしませんか?
逆に相手から、言葉を投げかけられたりもします。
この本来なら、自然に生まれるはずの、同じモノを見て、共感するという(共同注意、三項関係)場面設定を、人工的に設定していくのが、私の仕事です。
この場面設定で、どんなに重度な身体障害の子も、どんなに重度な自閉症児も、(もちろん軽度の子にも)大ヒットな、私の七つ道具の1つである絵本を紹介します。
この『ぐうぐうぐう』の絵本は、色がハッキリしていて分かりやすく、
「ぐうぐうぐう」と、ほぼ全ページで、同じ音とリズムが繰り返されます。
ページをめくるごとに、新しいキャラクターがさりげなく現れ、それと同時に、オノマトペで、キャラクターに注目させる仕掛けがあります。
私は、ほぼ全ページに出てくる「ぐうぐうぐう」の音に合わせて、テーブルを同じリズムで、少し強めに叩きます。
すると、ほぼ全ての子が、叩いた音に反応します。(今回は聴覚障害の子は対象にしていません)
大げさな音と仕草で、絵本に注目させ、絵本のセリフであるオノマトペを声に出し、同じモノを見る様に誘導します。
このリズムに子ども達が気づくと、手だったり足だったりで、私と同じ様に叩く模倣をします。または満面の笑みで、私に笑いかけたりしてくれます。
リズムを叩く際は、かならず子どもが、こちらに注目(絵本を捉えている)している事を確認しながら、捉えた瞬間に、叩く様にします。
同じモノを見て、共感する機会を、あまり得られなかった子ども達に、同じモノを見るって、こんなに楽しいんだよ!
と伝えることが出来る、私の無くてはならない絵本です。
子どもは、繰り返しのリズムや、オノマトペ、分かりやすく親しみのある絵が大好きです。
この絵本や五味太郎さんの他の絵本などを使って、ぜひ親子の読書時間を楽しみながら、「捉える力」を育ててみてください!
さて、この一連の流れを、養育者に説明して、納得してもらうまでが、療育の仕事です。
ここからは、マニアックな療育大話になるので、ご興味のある方だけどうぞ(^^)
※記事を購入してくださったお金は、農園で実施する子ども達の園芸療育(畑っ子クラブ)の活動費にあてさせていただきます(^^)
この共同注意、三項関係に関して、養育者に、どの様に実感してもらい、どの様に日常に応用してもらうか。
これこそが、子ども達の発達を促すための、最大の課題になります。
(療育の場面だけ促せても、回数が少なすぎますから)
先程の『ぐうぐうぐう』の絵本の子ども達の反応で、大体の養育者の方は驚かれ、喜ばれ、絵本を購入してくれたりします。
もちろん『ぐうぐうぐう』の絵本自体、無駄がなく、それでいて、子ども達の発達を効果的に促せる言葉や絵を、あらゆる所にちりばめている、ものすごく優れた絵本には違いないです。
ですが、この子ども達の『捉える力』を、外部からの刺激があって、初めて発揮するだけで留めるという事はしてはいけません。
自ら『捉えにいく力』を発揮させていく事が大切です。
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