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またね

祖母が亡くなった。一週間前の昼過ぎ、バイトの休憩時間に父親から一報が入った。祖父は僕が生まれるずっと前に亡くなっていたし、大祖父も大祖母のときもまだ小さかったので、物心ついてから身内が亡くなるのは初めてになる。

おばあちゃん子だった。

両親共働きで、帰ってくるのが遅かったのもあり、保育園や小中学校の後は決まって祖母の部屋にいた。小さい頃はよく一緒に土手に散歩に行って筑紫を採ったり、アイスを買ってもらったりした。いつも歌番組かバラエティを見ていて、料理が上手かった。夏はそうめんと蜜柑の缶詰をよく出してくれたり、赤飯も大好きだった。

いつも欲を出さずに、静かに、しかし喜びに満ちた顔で笑っていた。シワだらけになった手に触れ、膝に頭を乗せると、いつも照れたように頭を撫でてくれた。もし僕がいま愛について語ることができるとするのなら、それはあなたのことだろう。僕の優しさはあなたの優しさ。

姉が亡くなり、米寿を祝い、「恭介がフランスから帰ってくるまでは」と言っていたらしい。年末には蕎麦も茹でてくれたのに、二ヶ月後なんて、あっけない。また会えるまで待っててくれたんだね。最後に行ったのは大阪だったね、また一緒に桜でも見たかったな。

入院してからの二週間は毎日面会に行った。一日に十五分しか交わすことのできない会話。それでも嬉しかったし、あの手の温もりを一生忘れないだろう。毎日帰る時はおでこにキスをした。あの期間があったから今は割と落ち着いてるよ、妹の泣く姿を見たあなたは「泣くな」と言った。葬儀では泣かなかった。泣けなかったわけではない、笑顔でまたねした。

葬儀が始まってからの二日間、何十年も動かず飾られている祖母の写真が何回も落ちる。「私もまぜてよ」と言わんばかりで、「やだねぇ」、「歳とるとねぇ」といつも通りに声が聞こえてくるような気をもする。

火葬場で二人になったとき、やっと感謝が言えた。写真に撮られることが嫌いだったあなたをやっぱりもっと撮っておけば良かったかな。でもあなたのおかげでこれからも生きていけるし、撮っていけるよ。

ありがとう、あーちゃん。



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