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読書日記2024年8月 真夏のホラーあれこれ

夏といえば怖い話ですね、ホラーですね。
出版社のご事情でしょうか、7月8月はホラーや怪談の本がたくさん発売されます。いいですね~。
まあ、怖い話が好きな人間は季節に関係なく読んでいますが。
できたら夏に限らず、秋には物寂しい心をより切なくさせる秋ホラー、冬には冷え込む心をあたためる冬ホラー、春には浮つく心をひんやりさせる春ホラー、みたいに四季を問わず出版してもらいたいものです。

さてそんな感じで真夏のホラー、いろいろ読んでいますが、印象に残った本について感想を。
以下の本について取り上げています。

『バラバラ屋敷の怪談』(大島清昭/東京創元社)
『くらのかみ』(小野不由美/講談社文庫)
『Another』(綾辻行人/角川文庫)
『このホラーがすごい! 2023年のホラー小説ベスト20』(宝島社)


『バラバラ屋敷の怪談』(大島清昭/東京創元社)

『バラバラ屋敷の怪談』

怪談作家・呻木叫子(うめききょうこ)の事件簿シリーズ第3弾。
ホラーとミステリの融合したこのシリーズ、大好きなので心待ちにしていました。
本作から読んでも全然問題ないですが、シリーズ既刊『影踏亭の怪談』『赤虫村の怪談』も読んでおくと、より楽しめることは間違いない。
(あ、これはあの話ね……と途中でほくそ笑むことができます)

今回は短編4作が収録されています。
「バラバラ屋敷の怪談」
連続殺人鬼が住んでいた屋敷で起こった、新たなバラバラ殺人事件。
「青いワンピースの怪談」
青いワンピースの少女霊と、彼女が目撃された後に起こる謎の自殺。
「片野塚古墳の怪談」
いまわしい伝説がついて回る古墳で起きた密室殺人。
「にしうり駅の怪談」
行方不明の友人を追って迷い込んだ異世界駅での事件。

非常にバラエティに富んでおり、楽しく恐ろしく読ませていただきました。
最後にはゆるやかに全体がつながっている構成も秀逸です。

個人的に一番好きなのは「青いワンピースの怪談」。
青いワンピースを着た美しい少女が、廃墟を歩いている。
手には水の入った小さな壜を持って、時折それを耳元に当てながら……。
うっとりするような綺麗な絵が頭に浮かびますが、この少女がかなり凶悪でして。
容赦なく人が死に、少女はどこまでもさまよい続ける。
とても怖くて、とても良きです。

また、「にしうり駅の怪談」も面白かったです。
この怪談、ネットなどに元ネタがあるのでしょうか?
異世界駅といえば「きさらぎ駅」ですが、「にしうり駅」はよく知らなくて。
(きさらぎ駅は、2022年公開の映画も良かったです。若干チープな作りが、逆に異世界感と恐怖感を盛り上げていました)
にしうり駅、おそらく作者さんのオリジナルかな?と思います。
ある一定の条件を満たすと、存在しないはずの駅に辿りつく。
ここまでは異世界駅の定番ですが、その町にいるのが皆、頭部がウリ科の果実の「瓜人間」。
サイレンが鳴ると頭部がスイカの「西瓜人間」が現れ、瓜人間たちの頭部を破壊していく……。
かなり現実離れした世界に入り込んでしまうので、好みは分かれるかもしれませんが私は面白く読みました。
こんなシュールな状況なのに、きっちり事件の謎は解く、というミステリのスタンスが維持されているのもまたすごい。

「バラバラ屋敷の怪談」「片野塚古墳の怪談」はミステリ色が強め。
しかし謎解きの過程やトリック、さらに事件の動機にはしっかり怪談が絡んでいます。
ミステリ好きとしても怪談好きとしても満足できる内容でした。

『くらのかみ』(小野不由美/講談社文庫)

『くらのかみ』

これは夏休みにぜひ読みたい一冊。
特に、小学校高学年くらいの夏休みに読んだらめっちゃワクワクできるのでは?というお話でした。
主人公は小学六年生の耕介。
父に連れられ、亡き母の親戚筋である「本家」へ泊まりにやってきます。
日頃は付き合いがないため、初めてやってきた本家は古くて広大なお屋敷。
何やら話し合いがあるらしく、ほかにも大勢の親戚が集まっていました。
初対面ながら仲良くなった子どもたち、総勢四人で「四人ゲーム」をすることに。
「まっくらにした部屋の四隅に四人の人間が立つ。そして、順番に肩を叩きながら、ぐるぐる部屋をまわるという遊び」。
そう、雪山で遭難しかかった四人の男女が山小屋で……というのが原型の、あのゲームですね。
決して四人では成立しないはずのゲーム。
ところが耕介たちが試してみると、なぜか成立してしまい……
慌てて明かりをつけると、なんと一人増えて、五人いる。
どうやらゲームをしていた「蔵屋敷」の中に住まう「お蔵さま」、いわゆる座敷童子が混ざってしまったらしいのです。
しかしそれが誰なのか、どうしてもわからない。
……という導入部からして、ものすごく惹きつけられました。
家を守ってくれているという「お蔵さま」の話や、かつて殺した行者に祟られて本家には子どもが生まれなくなってしまった、という因縁話はホラー色たっぷり。
一方で、夕食に毒のある山菜が混入される事件などが起き、それを耕介たち少年探偵団が調査・推理していくくだりはミステリの面白さ満載。
この小説も『バラバラ屋敷の怪談』と同じく、ホラーとミステリの要素が上手い具合に融合されています。
(どうも私はこういうお話が大好きみたいです)。
この本、もとは2003年に「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」というコンセプトで刊行された児童向けミステリの叢書の一冊だったそうです。
確かに「かつて子どもだった」大人が読んでも、しっかり楽しめる一冊でした。

『Another』(綾辻行人/角川文庫)

『Another』

こちらは最近出た本ではなく、2009年単行本刊行、2011年文庫化。
ホラー好きなら読んでいて当然、のはずの名作学園ホラーです。
なのに、今回初めて読みました……。
なぜか長いこと積んでしまっていまして。
読んだら絶対面白い、とわかっている本って後回しにしてしまうようなこと、ありますよね?(私だけでしょうか)
読んでみたら、やはりとても面白かったです。
父の仕事の都合で、東京から夜見山(よみやま)という町の祖父母の家へ引っ越してきた主人公・恒一。
夜見山中学の三年三組に転入することになりますが、どうもクラスの雰囲気がおかしい。
クラスメイトである謎めいた美少女・見崎鳴(みさき・めい)に恒一は惹かれますが、彼が鳴に話しかけるとなぜか周囲が微妙な空気に。
どうやら「三年三組」には秘密があるらしいのですが、その秘密の全貌が明らかにならないまま、凄惨な事件が立て続けに起きてしまう……。
お話が動き出すまでの前段部分がちょっと長いかな、という感じはありましたが(そこが大事なわけですが)、ひとたび事件が起こってからは怒濤の勢いで人が死んでいく。
どうすれば、この災厄から逃れられるのか?と恒一たちが知恵を絞るあたりは、ミステリとしても楽しめます。
また、片目に眼帯をつけた美少女・鳴ちゃん、球体関節人形のギャラリー、旧校舎の人気の少ない第二図書室……など、怪奇幻想の雰囲気たっぷりなのも良かったです。
結末では、思わぬ事実が明らかに。
注意深く読んでいたら「おや?」と気づいたのかもしれませんが、ミステリ好きなわりにうっかり読者な私は見事にだまされてしまいました。
「Another」、続編も出ているようなのでそちらも読んでみたいと思います。
今度はあまり長く積まないように早めに読みます……。

『2024年版このホラーがすごい! 2023年のホラー小説ベスト20』(宝島社)

『このホラーがすごい!』

こちらは小説ではなくムック本。
2023年度のホラー小説ランキング国内編・海外編などが紹介されています。
この本怖かったな面白かったな、と反芻して楽しめましたし、未読の本もたくさん紹介されていたので、今度はどれを読もうかな?と参考にさせていただきました。
2023年度のランキングだけではなく「名作古典もおさらい 押さえておきたい!必読ホラー20選」なんてコーナーがあるのも嬉しい。
『残穢』や『墓地を見おろす家』はやっぱりランクインしますよね、うんうん。
(また読みたくなってきた……)
漫画や実話怪談も紹介され、手広くカバーされています。
また、人気作家による特別エッセイ「私の怖い話」も良かった!
人気のホラー作家の皆さん、やはり実際にも怖い体験をしていらっしゃる?
あるいは、これは創作?でも本当っぽく書いてあるな……?
などと思いながら楽しみました。
こういうエッセイ(あるいはエッセイ風の怪談)だけで一冊あったら、絶対買います。

以上、真夏のホラーあれこれでした。
(了)



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