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怪奇小説傑作選2
「怪奇小説傑作選2」を読みました。
作:ジョン・コリア― 他
訳:宇野利泰、中村能三
ネタバレ注意!
この記事にはネタバレが含まれます。
収録作
「ポドロ島」 L・P・ハートリイ
「みどりの想い」 ジョン・コリア―
「帰って来たソフィ・メイスン」 E・M・デラフィールド
「船を見ぬ島」 L・E・スミス
「泣きさけぶどくろ」 F・M・クロフォード
「スレドニ・ヴァシュタール」 サキ
「人狼」 フレデリック・マリヤット
「テーブルを前にした死骸」 S・H・アダムズ
「恋がたき」 ベン・ヘクト
「住宅問題」 ヘンリイ・カットナー
「卵型の水晶玉」 H・G・ウェルズ
「人間嫌い」 J・D・ベレスフォード
「チュリアピン」 S・ローマ―
「こびとの呪」 E・L・ホワイト
収録作の文字数
1行の文字数×1ページの行数×ページ数の概算。
正確ではない。
「ポドロ島」 1万4千
「みどりの想い」 2万2千
「帰って来たソフィ・メイスン」 1万7千
「船を見ぬ島」 3万3千
「泣きさけぶどくろ」 3万8千
「スレドニ・ヴァシュタール」 7千
「人狼」 2万5千
「テーブルを前にした死骸」 7千
「恋がたき」 1万6千
「住宅問題」 2万5千
「卵型の水晶玉」 2万2千
「人間嫌い」 1万2千
「チュリアピン」 2万2千
「こびとの呪」 2万
以上、だいたい27万文字。
感想
**総論
読みながら「第1巻に比べると、少し新しい感じだな」と思っていたら、あとがきに以下のように書かれていました。
「怪奇小説傑作集」第2巻には、第1巻の黄金時代のあとをうけて、一、二の例外を除けば、だいたい第1巻の作品からほぼ半世紀のちの現代作家の作品があつめられています。そこで最初にまず、恐怖小説の「現代派」ともいうべき、「モダン・ホラー・テイルズ」について少しばかり述べておきましょう。(後略)
「モダン・ホラー・テイルズ」というのは、2025年現在の我々が「モダン・ホラー」と呼んでいる作品群とは別のカテゴリーです。
ふんだんにエンタメ要素を盛り込み、かつ文学的な内面描写も豊富な、1970年代以降に書かれたホラー長編、要するにスティーブン・キング的なホラー小説とは、別物です。
19世紀のイギリスで好んで書かれ読まれていた古風なゴースト・ストーリーに対し、それよりも新しい感性で書かれた、20世紀 の初めから1950年代くらいまでのホラー小説を、当時は「モダン・ホラー・テイルズ」と呼んでいたのでしょう。
実際に読んでみると、確かに第1巻に比べて感性が現代的です。
いかにも20世紀的というか、機械文明的というか、高度消費社会的というか、雑誌の時代、映画の時代、テレビの時代に書かれた小説だなぁ、という印象を受けます。
簡単に言うと「トワイライト・ゾーン」っぽいというか「世にも奇妙な物語」っぽいです。
「幽霊が出てきて、うらめしやぁ〜」というよりは、SFっぽい異世界に迷い込む恐怖を描いたものが多かった印象。
おどろおどろしい怪奇趣味というより、社会風刺とか、ラストの切れ味とか、シュールさとか、そういう感性で勝負している感じ。
では、各話の感想をサラリと述べます。
**ポドロ島
面白かったです。
まず第一に、被害者の女の心理が怖いです。
そして、その女が殺された様子をハッキリと描写しない所も怖かったです。
**みどりの想い
少しコミカルな味わいのあるホラーでした。
金持ちの道楽者のシュールな末路、といった所でしょうか。
**帰って来たソフィ・メイスン
正統派の幽霊話、と思いきや、最後にオチというか、大げさに言うと「価値観の逆転」があります。
20世紀の短編小説は、ラストの「オチ」の鮮やかさで勝負するような所がありますね。
大量消費時代の読者が望んだスタイルなのでしょう。
**船を見ぬ島
「時空の間」に迷い込んだ者たちの話。怪奇小説というよりは異次元SFといった感じです。
**泣きさけぶどくろ
睡眠薬で眠らせておいて、耳の穴に溶けた鉛を流し込んで内側から脳を焼く。
パッと見、外傷が無いので殺人を疑われない……という殺し方が物凄いなぁと思いました。
白骨化した頭蓋骨の中で鉛の欠片がカタカタ鳴るというのも斬新な発想だと思いました。
**スレドニ・ヴァシュタール
「オーメン」とか「とうもろこし畑の子供たち」とか「エスター」に通じる、「恐るべき子ども」系のホラー。孤児になって叔母に引き取られた少年の話。
**人狼
中世の民話っぽい話。
魔物との約束。呪い。
**テーブルを前にした死骸
「猿の手」と同様、全人類が1度は聞いた事のある超有名な話。
**恋がたき
映画「ジョーカー」みたいな話。
ただし、ヴォードヴィル芸人に寄り添う視点ではありません。
語り手が、主人公の腹話術師を嘲笑して物語が終わる。
この、ナチュラルに相手を蔑む非道さが恐ろしい。
(もちろんホラー小説ですから「恐ろしい」は誉め言葉です)
**住宅問題
人間が寝ている間に小鬼や小さな妖精が福をもたらす、という民話はヨーロッパの定番ですが、それが現代風にアレンジされ、ちょっとした社会風刺になっています。
20世紀に入って、貴族でも貧民でもない「中流」と呼ばれる階級が勃興し、急速に数を増やして社会の主役になった、そして、彼らのための娯楽小説が大量に必要になったという事が分かります。
**卵型の水晶玉
これも超有名なウェルズの短編。
ホラーというより「宇宙戦争」にも通じるSF短編。
**人間嫌い
これも、切れ味の良いオチでした。
**チュリアピン
ある種のマッド・サイエンティストもの。
余韻が良い。
**こびとの呪
人面瘡ホラー。外国にも人面瘡ジャンルってあるんですね。
思った以上に描写が気持ち悪かったです。
**再び総論
あらためて作品を振り返ってみますと、やはり、いかにも20世紀的なSFホラーが多いですね。
怪奇小説短編集というよりはSFホラー短編集と呼んだほうが相応しい感じです。
怪奇である前に、まずエンターテインメントであれ、大衆娯楽であれ、という志向が20世紀に入って強くなったんだと思います。
そういう意味では、確かに現在の「モダン・ホラー」に通じる感じがあります。
短編であるがゆえに、人物描写(文学性)よりも切れ味良いオチ(構造)に重点がある所は、1970年代以降の「モダン・ホラー」とは大きく違いますが。