掌編小説 狭間
ジョワンジョワンと、セミが鳴く。熱気に蒸された草の匂いはどこか懐かしく、子供の頃に嗅いだことのある匂いなのだと直感した。
小さな公園のジャングルジムのてっぺんに、私は座っていた。
神社でも何でも神聖なものはだいたい上の方にある、というのが私の持論だ。この味気ない住宅街の中にある聖域。それがジャングルジムのてっぺんなのだと、私だけが知っている。だからこうして、時折ジャングルジムのてっぺんに登るのであった。
少しでも神に近づこうとする。目に見えないものを感じることで、自尊心を取り戻すことができた。
「なにしてるの〜?」
ジャングルジムのてっぺんにいると、小さな来訪者に声をかけられることがあった。
「お空とおしゃべりしてるんだよ〜」
私は決まってそう答える。
素直に受け止めて面白がる子もいれば、不思議そうな顔をして首を傾げる子もいた。どちらの反応も潔白で、穢れがない。純粋な眼差しが、私の心臓をチクチクと突付いた。
いい歳した大人が、何してるんだか。
現実が、私にそんな台詞を吐き捨てたような気がした。ふと気を抜いて、転落しそうになる。
私は、ジャングルジムにしがみついていた。手のひらが汗ばむ。きっと鉄臭くなっているだろうと思い、ヘヘッと笑う。
あぁ、太陽が大きい。
服の中で、冷たい汗が背中を伝うのが分かった。