とても短い小説のようなもの

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掌編小説 旧友

 旧友の沖田は喧嘩っ早く、よく顔にあざを作っていた。  人に殴られるなんて余程のことをしなければそうはならないのに、沖田はいつも平気な顔をしてヘヘッと笑うのだった。  奔放だった。警察沙汰になったこともあった。心配する私をよそに、沖田は楽しそうにしていた。  共にバイクを乗り回し、地元の小さな喫茶店で語り合う。そのような時間は今となってはかけがえないものであったと気付けるが、当時の私は無知で、知ったかぶりの傲慢ちきで、なんだかんだ言ってこれからも沖田とつるんで日々を過ごして

    • 掌編小説 初恋についての手記

       初めて人を好きになった瞬間というのは、うれしいような恥ずかしいような、そんな感情を自覚することすら初めてで、自身の未知なる部分を新たに発見した驚きに頭がくらくらしたものだ。  小学一年生のバレンタインデー、それは私のたった数十年の人生において最も輝かしいときの一つであった。好意を寄せる相手に贈り物をする行為は照れくさくもありつつ、今、相手のはにかんだ表情やら放課後の夕焼け空やらを思い返すと、あの一連の流れは私たち二人で作り上げた大イベントであり、何か儀式的な意義をも感じる

      • 掌編小説 チャイムが鳴るまで

        ――由依の視点 「昨日の夜、疲れて寝ちゃったから、予習してないんだよね。詰んだ」  後ろの席の志帆に早口で言うと、そそくさと英語Ⅱの問題集とノートを取り出す。  昨晩、早々に眠ってしまったことに薄っすら後悔の念を抱きながら、問題集の英文に目を通すが、頭に入って来ない。  ポチ、ポチ……と、電子辞書のキーボードを押す。一つの単語を調べる。文脈を読み取り、最適な和訳を見つける。そして、再び、ポチ、ポチ……と。  そうこうしているうちに、チャイムが鳴ってしまった。あぁ、だめだ。授

        • 掌編小説 今年の桜は遅咲きで

           今年の桜は遅咲きで、今か今かと開花を待っていた三月の終わり頃、私は会社都合で転職することになった。  少しうれしい気持ちと少し寂しい気持ちが入り交ざり、自分自身ですら今の感情を言葉にすることが難しい。  私の上司は、同僚たちから「むらさん」と呼ばれていた。苗字に「村」がつくから、むらさん。その安直さとは裏腹に、その呼び名は親しみに満ちていて、私はいつも羨望の目で見ていた。  私とは正反対の性格、人望、才能。それでいて親近感があるせいで、自分にも手が届きそうに思えるが、実際

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        記事

          自由詩 夏 -参-

           草の匂いが立ち込めた   夏休みの通学路はまぶしくて  友達と一緒 心が躍ったのに  あの頃の思い出が淡いのは  太陽光線にかき消されそうになったから

          自由詩 夏 -参-

          長編小説 雨粒のひかり 【1.モラトリアム】2018年7月

           私は小さい頃から引っ込み思案で、言いたいことがあっても黙り込んでしまうことが多かった。 「ひかりちゃんって、何を考えてるのか分からない」  そう言われても、それが何か? としか思わず、誰かに自分の感情を伝える義務などないと考えていた。  誰かに自分の名前を呼ばれるのも、自己紹介されるのも嫌い。それは自分の存在を否応なく再認識させられるからで、自己嫌悪から逃れるためにこの世から消えていなくなりたいと思い詰めることなど日常茶飯事だった。  5月の終わりに派遣の仕事を始めて、あ

          長編小説 雨粒のひかり 【1.モラトリアム】2018年7月

          長編小説 雨粒のひかり 【1.モラトリアム】 2018年6月

           2018年6月1日 くもり  今日から量産のライン作業が始まった。パートさんたちと一緒に、部品の検査。  今日も1日、乗り越えることができた。  小林さんからまた連絡があって、まずは週に2回のペースで働くことになった。  2018年6月5日 くもり  今日は同じ派遣社員の関山さんと一緒に、部品の検査。  社員の吉田さんに言われ、途中から1人で検査することになってドキドキした。吉田さん怖そうだから、「1人でできそう?」と聞かれて「無理です」とは言えなかった……。  意外と1

          長編小説 雨粒のひかり 【1.モラトリアム】 2018年6月

          長編小説 雨粒のひかり 【1.モラトリアム】 2018年5月

           2018年5月12日 晴れ 「若宮ひかりさん」と名前を呼ばれて、そんな風に呼ばれるのなんて久しぶりだから、すごくくすぐったくて、ついに社会復帰できるんだって実感が湧いてきた。  就労支援をしているNPO法人に派遣社員の仕事を紹介してもらうことになって、名古屋のカフェで面談。約束の時間より少し早めに行くと、すでに先客と話し込んでいて、私の番になるまで1時間ぐらい待った。  面談といっても、堅苦しいものではなかった。申込み用紙に名前と住所と電話番号、メールアドレスを書いて、既往

          長編小説 雨粒のひかり 【1.モラトリアム】 2018年5月

          とりあえずプロローグだけ。完全に見切り発車。漠然としたプロットは描けてるので、しばしお待ちを……。

          とりあえずプロローグだけ。完全に見切り発車。漠然としたプロットは描けてるので、しばしお待ちを……。

          長編小説 雨粒のひかり プロローグ

           私は、雨の日に生まれた。二月の寒々しい空が降らせる雨は、せっかく温まった心を冷やしてしまっただろうか――。

          長編小説 雨粒のひかり プロローグ

          完結できるか分らないですが、長編小説に挑戦してみようと思います。近日公開する予定です。

          完結できるか分らないですが、長編小説に挑戦してみようと思います。近日公開する予定です。

          現代短歌 鳥

          カワセミのコバルトブルーのその背中 私の宝物だよ、きらきら にぎやかなスズメのおしゃべり聴きながら 今日は休日! 二度寝しちゃおう 随分と遠くまで来た 電車から見えた青空 トンビの鳴き声 春の日の遥か上空ヒバリ鳴き 私はゆっくり自転車を漕ぐ 濁声のカラスが「カァ」と鳴いている 私も「カァ」と大きなお返事 初夏の朝「ねぇ見てよ!初めて飛べたよ!」 巣立ったツバメの大きな滑空 雨上がり 誰もが空を仰ぐから 巣立ったツバメは急降下しない

          現代短歌 鳥

          現代短歌 神社

          この風は過去と未来の通過点 熱田の杜で木漏れ日揺れる 目が覚めて自分の本音を知ったから 鳥居くぐって決意固める その瞬間、神を感じて畏まり 鈴の音色は余韻を残す

          現代短歌 神社

          自由詩 夏 -弐-

           学校のプールで平泳ぎ   25メートルとちょっと  立ち止まってゴーグルを外すと  雲間から日差し  水があたたかい 十歳の夏

          自由詩 夏 -弐-

          自由詩 夏 -壱-

           シロップが氷を溶かして  カップの底に溜まり  食べかけのかき氷は  きっと暑さに負ける  甘ったるい  甘ったるい

          自由詩 夏 -壱-

          NHK短歌に投稿してみました。それぞれ違うテーマで3首。運良く選ばれたらいいな、ぐらいの気持ちです。

          NHK短歌に投稿してみました。それぞれ違うテーマで3首。運良く選ばれたらいいな、ぐらいの気持ちです。