DXにおける「見える化」の難しさ~見えるものしか見なくなる?
いま、DXが叫ばれていますが、もともとある言葉として「見える化」というのがあります。皆さんこの言葉を耳にすることがあるのではないでしょうか。
私は製造業に携わっていますので、この言葉が日頃飛び交います。
様々な場面で使われますが、この言葉が使われるシチュエーションで多いのは、「製造現場の課題を数字に置き換える」というものです。
製造現場ではその場でお金を扱っているわけではないので、放っておくと数字はあまり出てきません。しかし、製造現場の動き一つ一つが原価であり、業績に結び付くわけで、業績をよくするためには現場の動きを客観的に見ることが必要になるわけです。
例えば、製造現場において、
・何台生産したか
・何台不良があったか
・何人で作業したか
・何時間勤務したか
・何時間ライン停止したか
・どのくらいの電気代を使ったか
など、、、現場の動きは様々な指標で数字に置き換えることができるわけです。
これらを数値化し、継続して管理することで情報を「見える」ようにし、異常に早期対応していく。これが「見える化」の一つです。
日本の製造業の特色は、この「見える化」によって改善サイクルが回り、常に品質やコストといった競争力を向上してきた、ということでしょう。
「そんなこと言ったって、日本の製造業はすでにここ20年くらいで競争力落ちてきてるよ」という方もいるでしょう。その通りだと思います。
しかし、すべてがそうではなく、製品開発などで一定の競争力を持ち続けてきた領域もまたあるのだと思います。
ただ、品質や性能に対して獲得できる売価が相対的に低くなってきているのもまた事実だと思っています。
私の担当している製品がそういった領域に入ってきています。
他社にはできない技術がある。性能もある。顧客からも一定のニーズがある。しかし、必需品というわけではないから、そこまでお金を払ってくれない。コストを下げないと買ってもらえない。
もちろん今までも毎年顧客からはコストダウンを求められますから、コストダウン活動は続けてきています。
しかし、それでは追い付かなくなってきている、というわけで、もう一段踏み込んだ活動をしなければいけない。
このような環境の方は多いと思います。
そうすると、会社内でも「無駄を徹底的に排除するんだ!」といった号令がかかります。
しかし、先に述べたように、過去から「見える化」といって管理をしてきており、その中で異常値を見つけて改善し続けてきていますから、現場から「やるだけやっている」「もう下げシロは無い」「乾いた雑巾を絞るのか」という声が上がります。
私のような事業計画の仕事をしていると、現場にお願いする立場ですが、上記のように「もうやれない」「乾いた雑巾を絞るのか」という声が上がり、非常に苦しい想いをします。
とはいえ、先に述べたように、顧客からは必需品とみなされていない製品。コストを下げないと買ってくれない。もちろん技術開発をして、少しでも必要と思ってもらえる活動はする。しかし、来月からそれが出てくるわけではない。
コストを下げないと2年後には作るものが無くなる。
正直、現場の方の気持ちもわかりますが、ここで引き下がるわけにはいきません。
私の経験上、「やるだけやっており、もうできることは無い」ということは、決して間違っていません。しかし、「”何を”やるだけやったか」といえば、先に述べた「見える化されている項目」のみであることが多くあります。
「見える化」されている項目をしっかり管理し、改善を続けていることに対して、その中で課題がないのかどうか議論するのも大事です。
しかし、その中でも、我々事業計画は、「見える化」されていることだけが改善の源泉だと思い込まないことが大事だと思っています。
今、現場や事業で起こっていることを構造として理解し、「どこが見えていて見える化されていて、どこが見えていないのか」を把握すること。
その「見えていないところ」のうち、どこに突っ込む価値があるのか考え、見せるようにしていく。そこの仕掛けが大事だと考えています。
「見える化」は非常に大事です。それによって定点観測がされ、早期に改善するサイクルが回るようになります。
一方で、事業計画のように俯瞰する立場の人間はその「見える化」されている項目に引きずられないことが大事です。
「見える化」されたことをしっかり極めていくことは大事。実際活動されている現場の方はそのような役割でしょう。
しかし、全員がそれが全てだと思ってしまってはいけません。
今後、DXを推進するにあたり、私の会社でも議論されるのが、「今、どのように分析していますか?」というような、「今、どうしていますか?」というものです。
もちろん、今の業務をDX化によってスムーズに進められるようにする改善も大きな価値ですが、大事なのは、「今後見えるようにしたい項目が出たときにそれをスムーズに見せられるようにする」ことです。
過去記事でも書いている通り、私は事業計画分野の基幹システム刷新プロジェクトに入っているので、この「これから新たに見えるようにすべきものに対応しやすくすること」について提案をしていきたいと思っています。
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