結果でチャレンジのすべてを評価させてはいけない。〜カーレースから学ぶ、正しく評価してもらうためのチャレンジマネジメント
大きなプロジェクトにはチャレンジが付き物です。
達成したい目標があるときに、いままでと同じことをしていても状況が打開しなかったり、しないことが見えている時、目線を変えたチャレンジを入れることがあると思います。
そして、それは時に過去考えもしなかったり、セオリーとされるものから外れていることがあります。
そういったものは得てして、批判されたり、疑問の目を向けられたりします。
なぜなら過去、成功した人が意思決定者であったりするからです。
それでも、チャレンジしなければいけないときがあります。
そして、結果が出ないこともあるわけです。
今回は、結果が伴わなかった新しいチャレンジをどのように振り返るか、について考えを書いていきます。
もちろん、私の身の回りで起こったことがあるので書くわけですが、その前に一つ、私が似ているなと思った事例があるので触れてみたいと思います。
私の好きなカーレースの事例なので、全くピンと来ない方もいらっしゃるとは思いますが、専門的な内容には極力入らないようにしますのでしばしお付き合いくださると幸いです。
題材はこちら。
日産が2015年のル・マン24時間レースに参加するにあたって投入したGT-R LM NISMOという車です。
この車の目玉は、「前輪駆動」であること。一般的には、レーシングカーとして製造される車の大半は後輪駆動です。逆に前輪駆動は市販される実用車の大半に採用されているものです。
前輪駆動は実用車に求められる居住性といったパッケージング(車室を広くする)に効果的な技術とされており、「速く走るための技術」とは一般的には認識されていません。
その前輪駆動を、「速く走ること」しか求められていないレーシングカーに投入してきた、という異質な車です。もちろん、前輪駆動を採用することで、車として速く走るパッケージングをまとめ上げるコンセプトはあってのことです。
しかし、レース前から懐疑的な声が出ていましたし、実際のレース本番でも惨敗でした。3台出走して、24時間を最後まで走ったのは1台のみ。しかもその1台もトップからタイムが離れすぎていて完走と扱われず。
何が起こったのか、真実はわかりません。
しかし、さまざまな記事を読むと、例えば、
・部品の信頼性が低く、レースを耐え得る強度が無かった(製造品質の問題)
・開発が間に合わない部品があって出力が低いまま走っていた(スケジュールマネジメントの問題)
と言ったものが見受けられました。
つまり、この車のコンセプト以前に、それを成功に導くための運営ができていなかった、ということになります。
しかし、レース後にはこの車は「速いわけがない前輪駆動を取り入れて、案の定惨めな結果を曝した黒歴史」として扱われることが多い状況です。
結果的に、日産は2015年のみで再びル・マンのレース活動を休止しています。
反省すべきポイントはたくさんあることは間違いありません。でも、果たしてその評価でいいのでしょうか。本当に、コンセプトがまずかったのでしょうか。
もちろんこの車にGT-Rという日産が誇るブランドをつけてしまってよかったのかというマーケティング面での議論など、様々な目線があることは承知しています。
今回は、前輪駆動というコンセプトであったり、日産の一つ一つの取り組みや技術について個別具体的な意見を述べることは今回の目的ではありません。
私が目を向けたいのは、この車に対する論調を見ていると、プロジェクトのマネージメントと、技術的な問題、製造面や品質の問題などが要因として区別されないまま、異例であった前輪駆動というコンセプトを失敗の原因として否定してしまっている、ということです。
このようなことが仕事でも起こり得ます。
数年前に、ある事業の採算を改善したくて、新しい技術を採用した製品を投入したことがあります。
その製品は技術的に難しいコンセプトを取り入れていました。それは技術的に非常に難しいもので、様々な人から疑問を投げかけられました。
結果的に、技術的な課題はクリアしたものの、その製品は非常に採算が悪いものとなりました。特別チームを作って開発した製品であるにも関わらず、採算が良化しなかったことで、事業部で大きな問題となり、叩かれることとなりました。
そして、その製品の技術はそれ以降、全く採用されず、新製品は旧来の技術で設計されました。完全な黒歴史扱いです。
しかし、その製品の採算が悪くなった要因を冷静に見てみると例えば
・顧客からの値下げ圧力が厳しくなり、当初想定をはるかに下回る売価となった
・製造ラインでの組付け精度が悪く、現場で手作業での修正などがあった
・手作業でしか組み立てられない部品があり、日本で生産すると加工費が上昇する
といった理由だったのです。
これは、無関係とは言い切れないものの、今回の新技術だけのせいではありません。しかし、採算が良化できなかったという結果がインパクトあるがために、役員は「懐疑的に思っていた新技術をスケープゴートにする」ことで幕引きを図ったのです。
しかし、冷静に見てみれば、この新技術は、製品を大幅に小型化できるものだったために、技術的には顧客のニーズに応えるところもありました。
そして、採算が悪くなった要因の手作業も、海外の低労務費国であれば問題になりません。まだまだ使えるものであった可能性がありました。むしろ、日本以外の環境であれば救世主となる製品だったかもしれません。
このように、チャレンジに失敗したときに、すべてを否定してしまうと、大きな損失があります。それは、
・失敗の要因がマネジメントなど他にあった場合、そこに目を向けないと同じ失敗をしてしまう。
・新しいコンセプトに対する正しい評価をしないと、そのコンセプトによって得られたかもしれない利益の機会損失をする可能性がある。
ということだと思います。実際、私の身の回りでは、様々なプロジェクトが、皆同じようなマネジメントの問題で失敗しています。
チャレンジに失敗すると、全否定したり、スケープゴートを見つけたくなるものです。しかし、必ず改善点を導けるはずですし、まだチャレンジは終わっていない可能性があります。
冷静に分析することで、組織の力を上げるチャンスとなるはずで、私は事業企画という立場で、チャレンジにこのようなマインドで向き合っていきたい、と思っています。