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本を咀嚼する秋【リストランテ アモーレ】
秋だ。
食欲の秋。スポーツの秋。芸術の秋。
勉強の秋。読書の秋。
いろんな「秋」があるなかで、これまでの人生においては、
「勉強の秋」と「読書の秋」が圧倒的に多かった。
まず第一に、運動神経がないためにスポーツを楽しむなんて余裕は持てなかったし、食欲なら秋に限らずとも、ある。
たしかに、夏の暑い盛りが終わって、食欲を取り戻す頃に「秋の実り」が出回るというのは、とてもそそられるし、
「いちばん好きな果物は?」と訊かれたら、
きっと第一声で「和梨!」と答えるから、
「食欲の秋」はわたしのなかにも存在している。
だけど、やっぱり、わたしにとって秋は、
「読書がいちばん向いている季節」なのだ。
今年の秋は、諸々の理由によって、
そこに「食い気」も掛けてみよう。
読書と食欲の秋。
ううん。食欲を読書でも充たす秋だ。
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『リストランテ アモーレ』 井上荒野
旨いものを作っていると、俺は幸福になる。そして腹が減ってくる。この空腹はさっきのとは違う、実質的なものだ。結局のところ俺はたいていいつも腹を空かせているのかもしれない。
よく眠りよく食べてよく恋をして。健康な人たちだわと私は思う。最近の私は、自分が世界でいちばん不健康な人間であるみたいな気がしている。
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まずは、作中に出てくる料理の数々が魅力的だ。
猪のラグーのパスタ。
太刀魚オーブン焼き。
山菜のフリット。
ホタルイカと菜の花のスパゲティ。
三種のソースで味わうホワイトアスパラガス。
プンタレッラのサラダや、
トリッパとトレヴィスの煮込み、
なんていう見た目も味も想像できない料理から、
アルミホイルで包まれて家のキッチンに置かれた葱餅までも。
彩りや香り立つ蒸気を想像するだけで、とてもお腹が空いた。
そして、ストーリーのメインとなる男、杏二が魅力的だ。
「当たり障りのない話を弾ませるのが得意」で、
「様々な局面で有効なセンス」があって、
「甘やかな顔立ち」をしている男。
ひそかにとても姉想いで、
そして何より、美しく美味しい料理を作る。
美味しい食事を提供してくれる男を好きにならない訳がない。
食は、生の基本なのだ。
本能と直結しているのだから、魅力的に見えるのはしごく当然。
けれども。
現実世界で「杏二」のような男に出会ったら、
絶対に、そういう風には好きにならないぞ!とも思う。
わたしはあなたの手には乗らない。
そう明らかに身構えていることがバレたとしても。
そういう一種のどんくささを隠すこと以上に、
一定の距離を死守すると決める。
だって、
本心が見えないんだもの。
わたしにしていることを、今頃あの娘にもしているのだろうか?
それとも、あの女性と?
なんて、考えたくもないから。
そういうのは、「想い焦がれることに価値がある」と思っていた時期に、十分味わい尽くしたつもりだ。
今のわたしはただ、美味しい料理を「美味しいね」って言い合いながら食事のできる人、日々の食卓をも穏やかに囲むことのできる男性と一緒にいたい。
だからこそ本という世界のなかで、こういう男を楽しむこともできるのだ。
だけど・・・
だけど、もしも唯一、「本心を聴かせられる相手」がわたしだったとしたら?
もしも唯一、「本心を聴ける相手」がわたしであるならば?
そんな深みに嵌まっていく自分を想像して楽しむのも、悪くはない。
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