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《ローマの休日のように》【統制環境とキャリア29】

『磁石も、電池も、同じ方向のやつは、繋がらないだろ。繋げない、だ。
乾電池は、プラスマイナスを間違えないように、片方を出っ張ってらせた。間違うと破裂する可能性もある。
S極とN極は引きつけ合うけど、同じ極同士は、反発し合う。磁力があるから。
そういう感じだよ。
だから、たまに会って、アレコレぶつかって、それで、、、』

「そういう理屈っぽいとこが、似てるんだろうなぁ、、、」

『、、、そう。だから、仲良くはなれない』

「、、、でも、一緒に、仕事はできる、だろ」

『そうだなぁ、、、
お互い、言わなくてもイイコトを言っちゃうし、考えの根本的なとこが、大体、一緒なんだよ』

「たまに、呼び間違えそうになる」

『そうだよ、実際、俺に、ヤギはそういうとこがあるからな、って言ったコトがあったんだよ。ずっと前に。
そん時は、なんで俺がメェメェ鳴かなくちゃならないんだよ、手紙なんぞは喰わねぇゾ、とか思って無視してたんだけど、、、
そういうコトね』

「、、、いちいち、面倒な奴だな。よく覚えてる。細かいとこまで、覚えてる。そんなコト、いちいち覚えてたり、そんなヤギの喩えとか、考えてる奴、そうそう、いないんだよ。
言葉遣いが違ったり、態度が別物だから、辛うじて判別できるけど、お前たちは、私からしたら、双子みたいな、、、そんなに可愛くもないか」

『オッサン二人をつかまえて、双子なんて、気持ち悪いよ』

「でも、まさかだな、私がいなくても、お前たちは繋がってたんだな。そういう運命だった。私なんて、いなくても」

『、、、そうだよ。佐久間さんがいなくたって、俺たちは、いずれ会うコトになってた。
でもさ、多分、出会い方とか、繋がり方が少しでも、今回のような、、、なんていうのかな、、、
あのヒトは、分かってたんだよ。途中から。
分かって、被り物とさ、衣装とか、自分から、こんなのどうですか、とか提案してきたり。
バカバカしいコトに、真剣で、楽しんでた』

「誰かのためになら、道化になれる。そういう変なヒト、だろ?」

『それが全然、相手に伝わらないし、伝えないし、、、上手くないんだな。
だから、伝えられないし、逆の印象が伝わるし、、、』

「ちゃんと話を聴いたら、最初から最後までキチンと網羅的に論理が繋がってるんだけどな。仕事もコロコロ変わるし、余計なコトばっかり話すし。自分のコトは分かってるのか、分かってないのか、、、」

『最近、ようやく分かってきたんだってさ。
自己一致、してきたんだろうな』

「自己一致?」

『あるがままで自分を受け容れてる状態のコト』

「たまごっち、みたいだな」

『古いよ。古すぎる』

「そうか、、、そんなコトないだろ。最近だろ、流行ったの」

『いつの時代に生きてんだよ』

「私は私の時代を生きてる。そして、もうすぐ、いなくなる」

『、、、そうだな。せいせい、するよ』

「、、、お前それ、本気で言ってんのか」

『、、、本気で言ってたら、こんな、死ぬ間際の末期患者の見舞いには、来ないよ、、、
そんな10年以上前の漫才みたいなコト、言わせんなよ』

「ウチのさ、ヘップバーンに似てるだろ?」

『、、、それも含めて、ネタなのか?』

「ヘップバーンみたいに、可憐で、乙女で、、、あの目で見つめられたら、何も言えなくなる」

『こっちがもし、嘘ついてても、嘘がほんとうになっちゃう感じがするし、嘘とか、ほんとうとか、どうでもよくなっちまう。
ずっと疑問なんだけどさ、どうして、グレゴリー・ベックとは似ても似つかないアンタなんかと結婚したんだろうなぁ』

「ドン・キングって、知ってる?」

『あの、あれだ。
マイク・タイソンの試合の時の?』

「なんだ。やっぱり知ってるのか。
、、、私もいまだに、理由が分からない。怖くて聞けないんだよ。
でも、こないだ、言われたんだよ。
あなた、ドン・キングね、ってさ。
どういう意味かな?
似てる、かな、私」

『、、、似てるよ』

「そうかぁ。
じゃあ、なんで、私なんかのそばに、ずっといてくれるんだろ」

「理由なんか聞かなくてイイし、そんなの、知らなくてイイ、ってコトだろ。
俺が、アンタがいなくなった後で、こっそり聞いとくよ。
でもな、それもムリかな?
さっきだって、コバヤカワくん、コバヤカワくん、ってさ、間違いを訂正できないんだよな。俺、もうコバヤカワでいいかな、とか思っちゃってるからね』

「コバヤシだよ、って言ったんだけどな」

『どうせ小さい声で、ボソッと、だろ』

「なんで、分かるんだよ。そうだよ。だって、おい、違うだろ、とか、そんな風に突っ込めないだろ」

『、、、そうだな』

「、、、コバヤシくん、ありがとう」

『なんだよ、いきなり』

「、、、ステーキは出さないゾ」

『はぁ、言うと思った』

「色々、よろしく」

『あぁ。この前、おたくの次期社長さんが、我々の会社をご訪問されましたよ。
あの肝っ玉母さんは、アンタと違って、人望が厚いんだろうな』

「面倒見もイイし、決断も早くて、誰よりも周りのコトを考えてる。
それに、すぐにお前さんにも、会いに行った。私は何も言ってない。ただコバヤシのとこは絶対に信頼できるから、ただオーダーをすればイイ、とだけ伝えた。
でも、すぐに会いに行った。
多分、話が長くて、お前はイライラしただろうけど」

『途中で、帰ろうかと思ったよ。ほんとうに』

「帰る、って言っても、隣の部屋だろ」

『そう。でも、毎日、ちゃんと出勤して、ちゃんと帰るんだよ、俺』

「イイ場所に住んでるよな」

『名刺にさ、新宿一丁目って、インパクトが大きいからね』

「新宿。大都会。
日本人なら、誰でも知っててる、皆の中にイメージがある」

『そう。でも、新宿一丁目は、そんなに都会でもない。
新宿なら、中国人とかも、知ってるんじゃない?』

「世界一のターミナルステーション」

『よく歌舞伎町で飲まされた』

「何をやってるのか、いまだに分からないんだよな、お前も、お前の会社も」

『説明して、あぁ、そうか、なんて簡単に分かるコトなんか、やる意味ないんだよ。それは、おたくもおんなじでしょ?
だから、俺がやる意味があるし、ウチの会社が世の中に必要だ、って証。
それは俺とか、ウチの会社だけじゃない。
皆、そうなはず。
ヒトも会社も、全部、それぞれ違う。
似てるようでも、絶対に違う。
だから、それぞれ、仕組みも、あり様も、やり方も、ぜんぶ全部、違って当たり前だし、違うの。
決まり事も、働き型も、環境も、課題も、解決も、その方法も、生き方も、全部ぜんぶ、どれも、他と比べても意味がないし、違うから。
分からない、は、当然で、外からあーだこーだ、言われる筋合いはない、ってコト』

「それが、”内部統制”」

『、、、ヤギさんの、専門ね』

「そう、完全な受け売り」

『、、、頼りにはなりそうだよ、あのヒト』

「そうだろうな。
仲良く、ね」

『それだけは、できない、かな』

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