《パナマ運河の幅を知らない⁉️》【統制環境とキャリア25】
『じゃあ、先方にそう伝えてください。お願いします。ところで、佐久間さん、あんまり元気な..
あれ、何だよ、すぐ切りやがった』
「すぐ、でしたね。
もう少し、かかるかと思いましたが、、、」
『におうな、、、何か、企んでるのか、それとも、佐久間の親父、病気なのかな、、、』
「病気?
なんで、佐久間様のお病気の話が出てくるんですか?」
『声が掠れてたんだよ、ちょっと』
「それは酒やけ、ですよね。
毎晩飲んでたら、そりゃ...」
『違う。あれは、酒やけじゃない。
再発したか、、、』
「再発?
前の入院は、癌だったんですか?」
『ちゃんとは聞いてないけど、そうだよ、絶対。
保険に入れない話はしたっけ?
今はもう、他の数値とか、色々難しいだろうけど、当時、いつ頃かな、、、
死亡保障だけじゃなくて、生活保障型の保険にも入れない、って話が出てさ。
その話をした時に、あぁ、癌かな、と思っただけ。確証はないけど、多分、来週から入院。
佐久間さんとこの奥さん、メチャクチャ美人で可愛い奥さんがいるんだけど、辛いだろうな』
「お若い奥さまなんですか?」
『いや、多分、佐久間さんより年上かな。
でも全然、佐久間さんに似合わない、ほんとうに可愛らしいヒトで、見た目も話し方も若くて、頭が良くて、ずっと、それだけが疑問なんだよな、、、』
「、、、会われたコトがあるんですか?」
『そうだな、何度か、佐久間さんが潰れて、家まで送った時とか、かな、、、
コバヤカワくん、ありがとうね、とか、コバヤカワくん、これ家で温めて飲んでね、とか、名前を難しい方に間違えてる、少しお茶目な女性だよ』
「コバヤカワ社長も、他人を家まで、送るコトなんて、あるんですね?」
『だって、道に捨てて帰るわけにいかないだろ、あんなオジサン。不燃ゴミにもならないよ』
「コバヤカワ社長にとっては、燃えるゴミでは、もはや、ないんですね」
『もうさぁ、そのまま焼却炉に放り投げたい時があるのよ。でもさ、あれ、絶対に這い上がってきて、OK牧場とか、いうんだぜ、きっと』
「目に浮かびます、コバヤカ...」
『もう、やめて。
全国のコバヤカワさんには悪いけど、コバヤカワより、コバヤシの方が、一般的だから。
なんで、その難しい方で覚えてるのか、それも不思議の一つだったな』
「佐久間様がちゃんと伝えてないんじゃないですか?
それとも、間違いを訂正できないでいる、とか」
『そっちだろうな。入院のコトも多分、メチャクチャ最後の最後まで言えないんだよ、あの親父。
そうか、だからか、分かってきたゾ。
このチャンスを逃すと、自分の目で、世紀の対決が見れないと思ってるんだな。
だから、必死なんだよ』
「でも、そこまでして、会わせたい二人なんて、素敵ですね」
『最後の仕事だ、オレにしかできない、とか言ってるんだよ。多分、その、可愛らしい奥さんにさ、癌で入院するコトは言えないのに』
「で、結局、どうなったんですか?」
『佐久間さんの方で、何とかするって。だから、こっちはヤギさんに、時間を伝えて、その時間に来てもらえば、鉢合わせ、ってコト』
「では、ヤギさんには、私からお伝えしておきますか?」
『そうだな、、、
何か、仕掛けようか?』
「何か、とは?
これ以上、面倒は嫌なんですけど、、、」
『うーん、そうだなぁ、、、
どんな格好でさ、知らないヒトが急に登場したら、面白いかな?』
「それ、私がヤギさんに伝えるんですよね?
嫌ですよ」
『できないは言わないんでしょ、先生?』
「できないコトはないです。
嫌なだけです。
そこには、パナマ運河くらいの幅があります」
『パナマ運河がどのくらいの幅があるか、知らないけど、嫌でもやってね?
それが先生の仕事だよ。給料、払ってるからね、俺が』
「その仕事は、どの業務に含まれるんでしょうか?
カネの管理と受付秘書のどちらですか?」
『秘書の役割でしょ、当然』
「そうですか、聞いてませんね。
来訪者の服装を、しかも、驚かすような服装を伝えて、それを着てきてもらうコトも、秘書の仕事なんですね。
私の辞書を書き換えておきます」
『私の辞書じゃなくて、この会社の辞書の方ね。
先生が辞めたり、いなくなったりした後も、秘書は必要だから』
「承知しました。
小林社長秘書マニュアルに、こう書いておきます。
“来訪者の服装を、しかも、驚かすような服装を伝えて、それを着てきてもらうコトも、秘書の仕事”と」
『そうじゃなくてさ、言われたコトを言われた通りに実行する、でイイんじゃない?
ダメ?』
「それではダメですよ。
例えば社長が、死にたい、と思って、私じゃない秘書に殺してくれ、と頼んだら、秘書は殺さなくてはならなくなる。
それはまずいです。非常にまずい。
だから、マニュアルには、具体的に書きます」
『その辺は、臨機応変でイイんじゃないの?
それにさ、殺してくれ、と言われて殺す奴なんて、あんまりいないよ』
「自分の胸に耳を当てて、考えてください」
『胸には耳を当てられないけど、、、』
「比喩です、念のため。
それに、通常は、胸に手を当てます」
『手なら当てられる。
なんで、耳?』
「雰囲気、ですかね」
『雰囲気ね、、、
うーん、俺は、そうだな、、、
もし、本気で頼まれたら、やるかもな』
「そういうコトです」
『先生は?』
「私も社長と同じですよ、多分」
『同じってコトは、ないでしょ』
「まぁ、そうですね。
方向性は同じ、くらいにしておきます」
『危ない奴が二人も集まると、ほんとうに危ないな』
「だから、マニュアルには、言われたコトをやる、なんて、書けないし、書きません」
『じゃあ、それで、オッケーってコトで』
「OK牧場、ですね?」