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成増発福祉改革

バブルが崩壊した1990年代の前半から2005年位までを一般に就職氷河期と呼びます。新卒の就職でさえままならないこの時期に私は40歳代前半で会社をリストラされ転職市場に放り出されました。ハローワークはもとより就職雑誌や新聞などあらゆる媒体を使って転職活動を行いました。業界、職種を問わず求人を出している企業にはとにかく履歴書を送り続けましたが結果はどこも不採用。面接にすら進めませんでした。中には結果の通知書すらよこさない企業もありました。私は自分の能力不足を嘆きましたが原因は私の能力の問題だけではなかったのです。新卒ですら正社員の職にありつけない就職氷河期に40歳を過ぎた何のスキルもない人間にそもそもまともな仕事などあるわけがなかったのです。しかし私には家族がいました。妻がいました。2人の小さな子供がいました。どんなに厳しい状況であろうと働く場所を探し出さなければならなかったのです。転職活動に苦戦している私を見かねたのかある日妻が言いました。「福祉にも目を向けてみたら?」それは全く予想外の言葉でした。そして一般企業への転職が不可能であることを悟った私は福祉に目を向けることになるのです。妻はこうも言いました。「福祉は資格がないと仕事ができないから資格を取ったら?」「資格?」「例えばホームヘルパーとか」。そして私は妻の助言通りホームヘルパーの講座に通い資格を取りました。ついでに介護請求事務の資格も取りました。このことが社会福祉施設への転職に繋がったのです。今から20年前の話です。新卒ですら勤め先が見つからない厳しい就職氷河期の真っ只中に何のスキルもない40過ぎの男は福祉系の資格取得を機にとある病院に併設された老人ホームに転職したのです。これはひとえに妻の助言があったから出来たのであり私1人では到底考えが及ばなかったです。妻には深く感謝しています。
以上のような経緯で老人ホームを母体とする社会福祉法人に採用された私は以後60歳になる年まで17年近く勤務を続けます。福祉が私の性分に合っていたのだと思います。以下私が社会福祉法人の事務職員として携わった仕事を紹介していきましょう。3系統に分かれます。この3系統は福祉業界に限ったことではなくどこの会社組織にも共通するところです。

①総務系統

②経理系統

③その他庶務全般

①の総務系統について説明します。

まず採用、辞令交付、社会保険手続など人事系の職務があります。高齢者施設の介護職員、看護職員は人の出入りが激しく常時求人を出しているのが現状です。そのため毎月管轄のハローワークに求人票を作成して提出するという仕事があります。求人票の内容には勤務先への交通手段、職務内容、必要な資格、賃金、賞与、勤務時間などを書く欄があります。自社の就業規則、給与規定に則って記入していきます。分からない事があったら必ず管轄のハローワークに確認して間違いのない求人票を作成することが最低条件です。より多くの求職者に見てもらうためには求人票の内容を工夫することも大事です。福祉業界は完全に売り手市場なので求職者は多くの求人票を比較して、より条件のいい方を選んでしまうからです。求人票で気をつけることは有効期間が3か月なので有効期間が切れる前に更新作業を忘れないことです。求人票が出ているつもりでいたのに実はもう切れていたなんてことはやりがちなんですね。福祉施設事務員あるあるです。あと求人票を通じて首尾よく採用が決定したらその求人票の取り下げを忘れないことです。管轄のハローワークとの関係性を良好に保つためにも大事なことですね。さて、次は応募者との面接です。気をつけなければいけない点は2点あります。①約束した時間通りに来るか②周囲のスタッフとうまくやっていけるか。
①は社会人として当たり前のことですね。しかし残念ながらこれができていない応募者が結構います(これもこの業界特有と言えるでしょう)。何らかの事情で時間通りに来れないなら少なくとも電話1本入れておくべきです。面接官だって暇じゃないのですから。これができない時点でアウトです。②の見極めは難しいです。面接の時だけ猫を被っている可能性がありますので。履歴書が立派でも雇ってみたらハズレだったことはよくある話です。色々な質問をして人間性に問題がないと確信した人を採るべきですね。さて、苦労の末介護職員または看護職員を雇うことが出来ました。めでたしめでたし、とはならないんですね、この業界は。せっかく雇って雇用保険や社会保険の手続きが済んだ頃やっぱり辞めますなんて言ってくる輩が結構いるんです。労働時間が週20時間以上の場合雇用保険に加入し、30時間以上の場合は社会保険に加入しなければなりません。30時間というのは常勤職員の週労働時間の3/4が加入要件ですので常勤職員の週労働時間が40時間(1日8時間で週5日勤務)とした場合、3/4が30時間になるという意味です。これは正職員に限らず非常勤職員にも適用されます。(労働関係の法律知識は福祉業界に転職してから必要に迫られて身につけました。社会保険の申請は管轄の社会保険事務所に取得届を提出することにより行われます。紙べ-スで出してもいいのですが電子申請の方がより便利ですので是非電子申請で行って下さい。次に辞令交付です。採用された者の辞令を作ります。例えばこんな感じです。山田太郎殿 令和3年4月1日付けで介護職正職員として採用し、◯◯ホーム勤務を命じます

令和3年4月1日社会福祉法人◯◯会理事長◯◯

ちなみに理事長というのは雲の上の存在なので施設にいないです。施設長が辞令を渡していました(前職では会長が職場にいたので辞令交付は会長がやっていました)。もっともそこは法人によって色々だと思います。保険証が届いたらすぐ渡しましょう。その際受領印を必ずもらうことです。後でもらった、もらってないというトラブルを防ぐためです。あそうそう、大事なことを忘れていました。雇用通知書の手交です。内容は勤務場所、職種、勤務時間、休憩時間、賃金、残業の有無、休暇など絶対的記載事項と相対的記載事項があります。雇用主と労働者との働くにあたっての取り決めですから間違うと大変です。顧問社労士などに確認しながら準備して下さい。さて、高齢者福祉施設というのは完全な資格社会です。資格がなくても働けるのは事務員位でしょうか(前職はただのサラリーマンでしたから当然資格なしで働けました)。介護福祉士、看護師、理学療法士、栄養士、調理師など皆何かしらの国家資格を持って働いています。資格が必須でないのは事務員位でしょうか。ちなみに事務員で持っておいて損はないのが簿記の資格。3級でもいいですが2級を持って業務経験を積めば一生経理でメシが食っていけます。wordやexcelの基本的な操作も必須です。難しいことではありません。すぐ慣れます。新卒で福祉施設の事務を選択する人は少ないですから他業界での経理経験や人事経験は活かせます。
ところで社会福祉法人という組織で一番偉い人は誰でしょうか?答えは理事長です。が、理事長は施設にはいませんので(どこにいるのかといえば親法人の病院の理事長室です)それぞれの施設には施設長と呼ばれる施設のトップが常駐しています。この施設長って一体何者なんでしょうかね。高齢福祉施設、例えば特別養護老人ホームの施設長は行政で福祉畑を長く歩いてきた人でそれなりの役職で退官している方がなるケースが多いです。東京23区内の特養ホームですと区役所の元福祉部長とかですね。大物では厚労省の元局長がなるケースもあります。いわゆる天下りですが、彼らが福祉行政に長く携わってきて福祉に対するそれなりの知見があることは間違いありません。
さて、高齢者介護施設の収入は介護報酬で成り立っています。介護報酬とは利用者が施設を利用するときに介護サービスの対価として支払うものです。10割のうち1割が利用者の自己負担となります。残りの9割が施設の収入となります。この介護報酬の請求業務も事務員の重要な仕事になります(余談ですがこの時転職活動中に取った介護報酬請求事務の資格が役に立ちました)ではどこに請求するのかと言えば国民健康保険連合会(略して国保連)です。毎月10日までに前月の利用実績を入力して国保連に伝送します。100人規模の特養で1人当たり月約30万円の収入として3000万円、利用者負担収入が1000万円として月約4000万円の収入が施設に入ってくるわけです。年間にすると5億弱です。この収入がないと職員の給料支払いを始め、施設運営ができなくなってしまいますので介護報酬請求業務は福祉施設の生命線と言っても過言ではない位重要な仕事です。

他職種同士って仲が悪いの?
これは私が入職して間もない頃、薄々感じていたことでした。同じ職場なんだから、そんな些細なことで他職種同士いがみ合ってないで、もっと仲良くすればいいじゃないの、と思うことがしばしばありました。でもこの考えは福祉施設で経験年数を重ねるにつれて浅はかなことだと思い知りました。他業界から転職してきた私にとってはどうでもいいと思えることも現場の人たちにとっては実はどうでもいいことではなかったのです。介護福祉士、看護師、社会福祉士、理学療法士、栄養士など国家資格を持って働いている方々のプライドの問題だと後になって気がついたのです。

栄養士さんが交替したら味が激変⁇
検食という施設の食事を職員が毎日食べてチェックするという作業がありました。もちろん事務員の私も毎日検食させていただいたのですが、これがお世辞にも美味いとは言えず、正直に言えば不味く薬のような味がするのでした。そんな時長く勤めていた管理栄養士さんが定年で辞めることになったのです。後任の管理栄養士さんはまだ学校を出たての若い女性でした。翌日、信じられないことが起こったのです。あれほど不味く職員の不評を買っていた食事が劇的に美味くなったのでした。前任の栄養士さんの名誉のためにあえて弁護させていただくと病院食や施設の食事って一般的にそんなに美味しいものではないですよね。学校の給食を思い出して頂ければわかりやすいと思うのですが、あれ、美味いと思って食べていた人、います?学校、病院、施設の食事なんてそんなものだと思うのです。ですから前任の栄養士さんには全く責任はありません。むしろ同じ食材を使って味付けなどを工夫した新しく入った栄養士さんの若いセンスを褒めるべきだと思うのです。

障害者雇用における事務長の背に腹は変えられない計算とは?
ご存知の方も多いと思いますが企業は障害者を一定の割合、雇用しなければいけません。この一定の割合を法定雇用率と呼びます。私の頃は2.2バ-セントだったと思います。最新の法定雇用率は知りません。これは雇用保険加入者(社会保険加入者も含む)の人数に対する障害者の割合を意味しています。例えば雇用保険加入者が150人いたとします。この場合の法定雇用率は3.3人です。小数点以下は切り捨てですから3人が法定雇用人数となります。さて、本題はここからです。中小企業に過ぎない社会福祉法人が3人も障害者を雇うって結構大変なことなのですね。それでもハローワークに支援してもらったり、近隣の支援学校から紹介してもらったり、あるいはたまたま職員の中に身体障害者がいたりして2人位はなんとかやりくりできたりするんですね。しかし3人目がなかなか見つからなかったりします。でもあと1人見つけなければ法定雇用率を満たしません。さて、どうしたものでしょうか。生真面目な事務員は心配してヤキモキしていますが老獪な事務長は全く別のことを考えていたりします。1人足りないと月5万円納付金を収めなければならないなあ。年間60万円か。でも障害者1人雇うと週3日の勤務日数のバートでも最低120万円位はかかるだろうな。それなら雇わない方が得なんじゃないの?。そして最終的にこう結論づけます。よし納付金60万円払おうっと。

介護の現場は本当にブラックなのか?
この疑問に答えるためにハローワークに出されている介護職の求人票の仕事の内容欄をもう一度確認してみましょう。そこに全ての答えが入っています。介護職仕事の内容欄ー施設入居者の食事介助、入浴介助、トイレ介助等日常生活のお手伝いを行います。夜勤あります。まあ、どこの施設も基本の仕事内容は変わりませんでしょうね。この仕事を毎日続けていくとどうなるか。かなりの確率で腰痛持ちになります。それと神経がすり減っていきます。認知症の利用者様から罵詈雑言を浴びてメンタル的にやられてしまう人も多いですね。離職率が高いのもそのせいです。これがブラックと呼ばれるものの正体です。要は肉体労働の現場です。その意味において建設現場の仕事と何ら変わりはありません。建設現場で事故や労災が多いのと同じく介護現場でも事故、労災は残念ながら多いですね。労災の内容としては腰痛とか骨折、怪我など入居者の世話をしている時に起きるケースがほとんどですね。まさに業務中の災害なのですね。なかには自転車で通勤途中、バイクと接触して怪我をしたなんてこともあります。もちろん労災の対象ですね。普通の企業だったら労災が起こることすら認めたがらないのですが介護の現場は労災は日常茶飯事なので事務員は事故が起きたら速やかに労基署に申請します。職務の性質上、労災の頻発は仕方ない面があります。

施設は守られている
利用者さんが館内の非常用ベルを間違えて押してしまうと何が起きるでしょうか?すぐ管轄の消防署から連絡が来ます。ここで今のは間違いでしたと説明しても手遅れです。あたふたとしているとまもなく遠くでサイレンの音が聞こえてきます。その音はだんだん大きくなるとともにいろいろなところからサイレン音が聞こえ始めます。おそらく周辺地区の全ての消防署、警察署に動員がかかっているのでしょう。消防車のサイレン、救急車のサイレン、パトカーのサイレン音がけたたましく響き、静かな住宅街にある施設の周辺は突然騒々しくなります。近所の住民の方々も何事か?と外へ出て集まってきます。10分もすれば20台ほどの消防車、10台のパトカー、5台の救急車が施設の前にずらっと並ぶことになります。大ごとになっています。何もそんなにたくさん来なくたっていいじゃないか、周辺住民にも迷惑だしと個人的には思ったりしますが実はこれ消防署の方も実戦練習を兼ねています。消防服を身に纏った屈強な消防士さん数名がどかどかっと事務室に突入してきて、こう尋ねるのです。「貴施設から非常警報を受信しましたので駆けつけました。火元はどこですか。怪我人は何人いますか。逃げ遅れた人はいますか」いやいや大変なことになっちゃいましたね。そんな時「すみません。実な今のは間違いでした」と言うのは少し勇気が入ります。彼らも慣れたもので顔色一つ変えるわけでもなく「そうですか。非常用警報を受信すると間違いであっても我々は駆けつけることになっているのです。では撤収します。」気がつけばあれほどたくさん来た消防車、救急車、パトカーがいつの間にかいなくなっています。
いや〜彼らの素早い動きに感心するとともに施設というのは守られていることを痛感しました。

施設は様々な助成金を申請できる可能性がある

福祉施設というのは要件を満たせば実に色々な助成金を申請できる可能性があります。まず東京都の経営支援補助金があります。これは補助金です。毎年年間で500万円ほど受給できたので施設としては決して小さくありません。東京都経営支援補助金とは読んで字の如く高齢者福祉施設に東京都が補助金を出して施設の経営を支援しようという趣旨の補助金です。具体的な金額の算定方法はポイント制になっています。東京都の原資が決まっていて各施設のポイントに応じて予算を割り当てるという感じです。ポイントはどうやって決まるかというと評価項目が12〜14位あります。具体的には例えば介護福祉士の人数や全体に占める割合とか看護師の人数が一定数いるかどうかとか看護師が夜間も常駐しているか、またはオンコール体制をとっているかどうかとか区と防災協定を結んでいるか、町会と共同で防災協定を結んでいるか、ボランティアの受け入れ人数は年間何人か、リハビリはちゃんと計画書を作ってやっているかなどなど。各項目を一定水準クリアしていればポイントが加算され総合計のポイント数を東京都に報告します。またハローワークの助成金もいろいろありました。例えば障害者や高齢者を雇い入れると申請できる助成金とかトライアルで雇うと出る助成金とか施設の生産性を前年より上げると出る助成金とかパート職員を正職員にすると出る助成金というのもありました。事務担当者は助成金の研究をして施設がもらえる助成金は全部もらう位の心構えを持ちたいですね。

職員の属性ってどうなの?

社会福祉法人の職員の属性はどんな感じなのでしょうか。属性とは例えば男女比とか年齢層とか住んでいる場所とかですね。私が勤務していた社会福祉法人のことしか分からないのですが

男女比は8対2で圧倒的に女性が多かったです。100人いれば80人は女性という感じですね。

年齢層別に見ると意外にも50代が一番多く次が30代、60代、40代、20代と続きます。働き盛りの40代より60代が多いというのがこの業界の特徴といいますか課題を表しているなあと個人的には思ったりします。20代が一番少ないのは予想通りですね。

最後は住所地ですね。感覚的は9割同じ区内でそのうち7割位は同じ町内もしくは近隣の町内という感じです。残りの1割は隣接区(私がそうでした)や隣県でした。隣県と言っても自転車で通勤できる距離です。まあ、完全に地元密着型の職場ですね。
成増発介護革命


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