ボート部裏事情

その1 ボート部は入部は簡単だが続けていくことが諸般の事情により難しい部活である。
その2  諸般の事情の1つに拘束時間の長さが挙げられる。どこの大学もそんなに違いがあるわけでもなく大体週5日は合宿所生活である。年間にすると250日から300日近くは合宿していることになる。このような部活は他にはないであろう。時間的、場所的制約があって他のことが出来ないのである。皆二十歳かそこらの若者である。やりたいことが沢山あるのが当然である。ボート部を辞めたからって誰が責められよう。残っている者だって心の中ではそうしたいと思っているかも知れないのだ。
その3 諸般の事情に練習の過酷さが挙げられる。毎日4時に起床して艇を出し、20キロ漕いでから学校に向かい授業を受ける。授業が終わると合宿所に戻りまた練習して寝る。これを毎日繰り返すのである。自衛隊の話ではない。大会が近づけば合宿所に缶詰めとなり1〜2か月位自宅に帰ってこないなんてザラである。親の立場から見ると子供が生きているのか死んでいるのか分からない状態となる。
その4 スポーツ推薦の子ならば分かる。ボートの実績で大学に入ったのだからボート漬けになるのは当然である。しかし、一般受験で入ったごく普通の大学生がたまたまボート部を選び、いろいろなことを犠牲にして4年間続けるというのはかなり特殊なケースではないだろうか。
その5 かような過酷な環境だからこそ、辞めずに4年間続けてきた子達は言葉では表すことができないたくさんのことを学んで行く。そしてこの子らの力が遺憾なく発揮されるのは就活の場である。誰もがバイトリーダーをやってましたとかサークル幹事長を務めていましたなどとのたまう中において、ボートを4年間やり切りましたの言葉は説得力があり、ひときわ異彩を放つのである。この子がいかに多くの困難にぶつかり、悩んで乗り越えてきたのか職業的面接官であれば一瞬にして見分けてしまうはずである。そして何よりも大きいのが本人の自信だそうである。ボート部という非日常的な生活を4年間やり切ると訳の分からない自信が生まれるそうである。就活市場で何百人応募者がいようが全く負ける気がしないのだそうである。このメンタルの強さ。これこれがボート部を4年間やり切った者に最後に与えられるご褒美ではないだろうか。

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