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非日常とつながる日常を歩くこと
映画『PERFECT DAYS』で役所広司が演じる平山が暮らす場所は、自分が想像していたよりもずっと近くに存在していた。
何度となく歩いたことのある大通りから、家々が連なる脇道へと入って進んでいくと、突然、目の前に映画で繰りかえし映されていた建物が現れる。
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年季の入った壁、寂れた階段、古びた赤い扉。
もちろん、現実では平山どころか、人っこひとり住んでいる形跡はなく、彼が毎朝、ルーティンのように購入していたカフェオレが並ぶ自動販売機の姿もなかった。
それでも、映画館で観た映像と違わない光景が目の前には広がっていて、平山が扉を開けて空を見上げる情景が確かに浮かんでくる。
ただ、正直な気持ち、少しゾッとした部分もあった。
今まで日常の延長線上を歩いていたはずなのに、いつのまにか非日常の世界に迷いこんでしまったような、そんな不安が急に押し寄せてきた。
もちろん、映画やドラマなど、作品の舞台となる場所は各地に存在していて、ときには好きな登場人物たちが過ごす場所を訪れるために、はるばる遠くまで聖地巡礼をすることもあった。
それでも、普段から馴染みのある風景がフィクションの世界と交わっていることは、感動や興奮よりも先に、驚きや戸惑いを運んできた。不思議なことにも。
実際のところ、日常と非日常には切れ目などなくて、とてもシームレスに現実世界をつなげている。
自分では気づかないうちに、不思議な世界へと呆気なく足を踏みれていることもあるのだ。
でも、そうやって非日常とつながる日常を歩くことは、ありきたりで慣れきった生活を、一瞬だとしても、先を見通せない冒険へと変えてくれる。
だから、これからも日常と非日常がつながる瞬間に感情を揺らしながら、日常をくぐり抜けて歩いていようと思う。少しの不安は冒険につきものだから。
それに、いつしか、切れ目が見つかるかもしれないし。
もし見つかっても教えないけど。