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新しい季節は、いつだって雨が連れてくる
タイトルの美しい一文は恩田陸さんの小説『ユージニア』の書きだし。
先月末に降りつづいた雨が、長らく空を覆っていた冷たい空気を取りこんで流れていったことで、麗らかな春の訪れを予感させている今、ぴったりな一節だと思ったのでお借りすることにした。
それにしても、暖かい。4月ってやっぱり春が似合うなとしみじみと実感するくらいには、過ごしやすい陽気に気を良くしてしまう。
個人的に、暖かな春の午後、自身のプレイリストから春の歌を探している時間が、とっても好き。
春の歌にもたくさんの種類があって、出会いと別れの季節を描いていたり、桜が映しだす風景を歌詞にしたためていたり、それぞれが思う「春」を音に乗せて歌っている。
だからこそ、ちょっとした気温の変化や風が吹く強さで、今日聴きたい春の歌が少し違う気がして、いろいろな曲を聴きあさってしまう。
そして、そうやって十人十色な春の歌を聴いていると、誰も目では見たことのない「春」に、どうしてここまで多種多様な色をつけられるのだろうと不思議に思う。
誰もが思い浮かべるピンク色だけではなく、淡いパステルカラーのような色もあれば、ビビッドで鮮やかな色合いのものもあって、曲を春色に塗るための絵の具は人によって全然違うのだと実感する。
それこそ、日によって色合いの違う春のように、色違いの春の歌を楽しむために、それぞれが配られたパレットは微妙に異なる配色にされているのかもしれない。
目には見えない季節の移り変わりを美しく描写する。
『ユージニア』の書きだしのように端正に切り取れることはそうないのかもしれないけれど、誰もが心のなかで切れ目のない連続した風景に色合いをつけている。
言葉で、文章で、音楽で、映像で、写真で。
今年はまったく違う手段で思い思いの色に塗りたくられた春を、全力で楽しんでいきたい。
そんなことを思ってしまうくらいには、春の陽気に浮かれている。しばらくはこのままで。