
2024年12月のひとこと映画感想日記
アット・ザ・ベンチ
5編からなるオムニバス作品で描かれるのは、たまたまベンチに腰かけた人々の小さな物語。
一つの古びたベンチで交わされる何気ないやりとりを眺めながら、言葉にならずとも聴こえてくる想いに耳を澄ませる。
日々の生活のなかで視界の端に映っていた景色を見つめる時間が、こんなにも楽しくて愛おしいものだとは思わなかった。
奥山由之監督がラジオで「そこで話していることと、そこで伝えたいことは違う」とおっしゃっていたのも印象的。
自分が生活するなかでも出会っているかもしれない。ときどきクスッと笑える他愛のない会話と自然なやりとり。誰かの何の気ない時間のはずなのに、愛おしいほどの想いが物語のそこら中に転がっていた。
あんのこと
あのコロナ禍で起きたこと。
人ひとりの人生を狂わせてしまうには、あまりにも理不尽で唐突な出来事。
何かひとつでも歯車が変わっていたなら。先の見えない日々のなかで、確かに変わろうとした人に送るには、なんて無責任な言葉なんだろう。
今でも中華料理屋のシーンが恋しくなる。それにしても、河合優美さんの演技はまったく演技に見えない。
正体
信じること。信じてもらうこと。言葉にするとたったそれだけのことが、こんなにも人の命に重くのしかかる。
横浜流星さんが見せるたくさんの顔を堪能できる映画。ではなく、ひとりの男がただひとつの目的を果たすため、苦しみの中に点在する幸せに浸る間もなく必死で逃走する。どんな結末だろうと見届けなければならない。
染井為人さんの小説はまだ読んだことがなくて、2025年に公開される『悪い夏』も含めて、読んでみたい作品が山のように積み上がっている。早く何とかしないと。
怪物
映画を見終えたあと、さまざまな記事を漁るようにして読みこんだ。何だかうまく言葉にできないモヤモヤが残っていた。
そのモヤモヤは決して晴れることはなかったのだけど、美しい映像や流麗にも残酷にも響く音楽はずっと頭の中を流れつづけていた。
個人的に田中裕子さんが演じる校長先生と、少年・湊が教室で金管楽器を吹くシーンが脳裏に焼きついて離れなかった。
触れた瞬間に、いとも簡単に壊れてしまうんじゃないかと思うくらい張りつめた空気と、溢れそうになる感情を必死で押し留めるふたりの演技。美しいひとときだった。
はたらく細胞
漫画もアニメも通っていなかったので、映画で初視聴の作品。世界観はなんとなく知っていたのだけれど、まさか実写でここまで壮大に再現するとは思わなかった。
想像していたよりなかなかシリアスな場面が多かったので、もう少しコメディチックなシーンを見ていたかったのが本音。もちろん、尺の都合もあったのかもだけど。
キャストで言うと、セカオワのFukaseさんはああいう役柄が本当によく似合う。声質なのか発声なのか。いや両方か。
aftersun/アフターサン
11歳の少女とその父親が過ごした数日間。20年後、父親と同じ年齢になった彼女は、互いが映しあったビデオテープの映像を振り返り、当時の記憶を再生する。
幼き少女の視点から見えていた景色は眩しくて、光を遮られていた影に目を配れるほど思慮深い歳ではなかった。
ただ、その光は決して偽物ではない。記録と記憶が一致することはないかもしれないけれど、幸せだったはずの日々もヒリヒリと焼きつくような痛みも色褪せることなく心に刻まれている。
何年も時が経ってから、ふと思い出すように観たいと思う瞬間が来るんだろうな。そんな映画だった。