久世物語⑬【発展期】高付加価値商品の展開
当社は今年創業90周年を迎えました。
90は語呂合わせで『クゼ』と、まさに久世の年。
長い歴史の中には創業者や諸先輩の苦労や血の滲むような努力があります。
私たちがどのような会社で、どのような思いが受け継がれてきたのか。
「久世物語」をお届けいたします。
前回はこちら
【第13回】高付加価値商品の展開
特販課による商品開発
JASDAQ上場を果たした2001(平成13)年以降、久世はメニュー提案力とともに、それを具現化する商品群のさらなる強化に努める。
商物分離スタイルの浸透により、提案型営業を推進していた特販課では、1990年代以降顧客ごとの製品企画・開発が盛んに行われるようになった。
グループ内に生産機能を持つ久世ならではの、メーカーポジションに立った営業手法である。
従来の卸の考え方でいくと、例えばカゴメのトマトジュースを販売する場合、100円で仕入れた商品を120円で卸すのが商売である。しかし、この方法だと119円で売る同業他社があらわれれば、取引先はすぐにその業者に鞍替えする。だからと言って値段を下げれば、際限のない価格競争に陥り利益確保が難しくなる。
特販課ではこれまでの卸売のやり方に疑問を持ち、同じメーカーの製品であってもロスの少なさやオペレーションのスムーズさなど、お客様にとって使いやすい形で提供できれば、そこに価値が生まれると考えた。
1リットルでも200ミリリットルでも、お客さまに応じた容量で販売することで、久世ならではの高い付加価値のある商品提案につながる。健吉はこうした活動を重視し、特販課において担当レベルで行われていた顧客向け製品開発を一括して行う新部署の立ち上げが始まった。
CFD課の設立
新部署の設立には1年の準備期間が費やされた。
「今日明日の仕事ではなく、5年、10年先を見据えたプランを考えてほしい」という命を受け、製造を受け追うメーカーとのネットワークづくりが開始された。
家族的な経営を行う小規模の工場は、ものづくりに長けていても営業が弱いことが多い。「久世があなたの工場の営業担当になりましょう」という業務提携の提案は絶大な効果を発揮し、1年間でおよそ10メーカーとの製造委託体制が確立された。
当時、健吉が繰り返し口にした言葉は「人の褌で仕事はするな」
例えば、取引先から「1リットルのトマトジュースが欲しい」と依頼されて、その話をメーカーにつなぐだけでは単なるブローカー業務になってしまう。それでは久世は伝票代しかもらえない仕事になる。一緒に仕様を検討し、汗を流してこそ「じゃあ久世さんから見積り出してよ」と言っていただくことができる。そこで初めて価格決定権が生まれ、利益が上がるようになる、という考え方だ。
こうして、2004(平成16)年、CFD課が設立された。
CFDとは、「Customized Food Development」の略であり、「お客さまの仕様で商品を作り上げる」という意味の造語である。
顧客の要望に合わせて容量や味わい、価格等すべての条件を加味してつくられるCFD製品は通常の卸売の利益率を大きく上回り、久世の業績向上に貢献した。
また、製造委託拠点とのネットワークは、順調に広がり続け、メーカーとの強固な信頼に基づく生産体制を確立している。
PBの本格化
久世の独自ブランドとして展開されるPBの歴史は1980年代までさかのぼる。
ほっかほっか亭との取引をきっかけとした、弁当業態向けの低価格な素材提供が始まりだ。ほっかほっか亭専用のメニューページに並んだ白身フライ、鮭の切り身などが、大手メーカーによるNB商品より低コストで提供できることから他店でも好評を博していた。
そして、1983(昭和58)年にはPBの管理を徹底するため、品質管理室が設けられた。
PBの開発は商品部が担当しており、2004(平成16)年に設立されたCFD課はいったん商品部の傘下に入ったが、2008(平成20)年に商品部とCFD課が合体し、顧客専用のCFD製品と久世のオリジナルPBを一つの部署で担当することになり、無駄を省き効率的な開発が行える体制が整った。
当時、外食チェーン等では、顧客単価アップのためにデザートメニュー強化の動きがあった。一方、久世では良質な工場との提携により、特にデザート製品によるCFD製品の成功事例が増えていた。そのあまりの好評ぶりに、久世のPBとして広く扱ってほしいという顧客からの声が高まっていた。
こうした背景から、2008(平成20)年、久世のPBの代名詞ともいえる新ブランド「Dolceze(ドルチェーゼ)」が誕生する。
「Dolceze(ドルチェーゼ)」は、イタリア語でお菓子をあらわす「ドルチェ」と「久世」を合わせた造語で、社内公募から選ばれたものである。
この年の3月に開催した展示会「フードサービスソリューション春夏」で発表され、訪れた3000名以上の来場者の注目を集めた。
好評を得た「Dolceze(ドルチェーゼ)」は、新たなラインナップの拡大を模索する。デザートにかけるチョコレートシロップ、ホイップクリームなどが検討される中、デザートとともに楽しめるものとしてニーズの高いコーヒーが浮上した。
しかし、コーヒー市場は大手メーカー数社による寡占状態であり、特に業務用コーヒーを扱ってもらうにはドリップマシンの提供が必須であった。
久世も卸としてコーヒーの扱いはあったが、マシンの提供を求められても対応できず、チャンスロスにつながっていた過去がある。
コーヒーという商材のこうした特異性から、久世のPBとして発売することには社内でも議論があったが、10年以上取引のあったコーヒーメーカーからの提案に加え、顧客からの強い要望があり、ついにドリップマシン専用コーヒー「ザ・ファーストアロマ」とアイスコーヒー粉の「アロマテイスト」をドルチェーゼブランドとして発売する。
過去の経験を踏まえ、ドリップマシンのリースにも着手した。試行錯誤の末、こうしてスタートを切ったコーヒー事業は、従来のPBを大幅に上回る利益率で久世の基幹事業を支える柱として成長していく。
その後もPBとCFDの連携による商品分野の横展開はさらに勢いを増す。2013(平成25)年にはノンフードの販売強化をめざし、PBの「キッチンサポート」ブランドが誕生する。
ノンフードのPBを持つことによって、営業担当者の売る力を格段に向上させることができる。それ以前からノンフード分野の取り扱いがあったが、きちんと筋の通ったブランドを立ち上げることで、取引先からの久世の印象もまた変化する。
「お客様の要望で、この世にないものがあれば久世が作りましょう」というCFDの精神が、励みとなるのだ。
久世ではこうしたオリジナル製品の開発を担う商品部に加え、レシピやトレンド情報の収集・発信を行うメニュー開発課という二つの専門部隊を抱えることによって、他の卸にはない独自の存在感を発揮している。
営業部隊とは異なり、顧客に直接販売を行うわけではないが、いずれも数字を明確に意識した取り組みによって、業績向上へ大きく貢献している。
顧客の要望に応じた製品の提供とともに、店舗独自のオペレーションを視野に入れたメニュー提案などを行う活動は、久世が顧客から「頼れる食のパートナー」として信頼される大きな理由の一つとなっている。
(次回につづく)