忘れられない食事 Vol.4 父との思い出
※クジラ食・イルカ食に関する記載があります。苦手な方は閲覧をご遠慮ください。※
我が家の父親は絶対君主である。例えば晩御飯を外で食べようという話になったとき、私と妹と母親が中華が食べたいと言ったとしても、父親が蕎麦といえば蕎麦になる。
そんな父親のことを私たちは表だって金正恩と揶揄している。だが、父親の「親の唯一の務めは必要なお金を用意すること」というスタンスは娘としてはたいへんやりやすい。進学や就職について父親が相談に乗ってくれたことは一度もないが、口を挟んだり支払を滞らせたことも一度もない。
今回はそんな父親との食事を振り返る。和歌山県の勝浦温泉で食べた寿司と、高校の近くのコメダ珈琲である。
前者は2014年の年末。旅館でお目当ての鯨のハリハリ鍋を胃に収めた後、この辺りはイルカも食べるのだと父親が言い出した。不思議なもので、そう言われると急に小腹が空いた。母親と妹が寝ているのを横目に、浴衣の上に茶羽織を着て近所の寿司屋を訪ねた。イルカの脂身の握りは白くグニュグニュとしていて、口にいれた瞬間に獣の匂いがした。ハンドルキーパーで晩酌をしない父親と二人でお酒を飲んだのはこの時が初めてだった。
後者は2013年、高校3年の時の話である。来る受験に向けて休日も学校に行っていたのだが、朝食難民の父親が時々車で送ってくれた。飲み物についてくる食パンは父親に押し付け、その日の気分で帽子のようなバンズのハンバーガーや、男子高校生のお弁当箱くらいある海老カツサンドを食べた。当時はこのボリューミーな朝食の後、昼は普通にお弁当を食べて、さらに勉強の合間におまけの豆菓子を食べていたのだから、女子高生の代謝恐るべしである。
以上が父親との忘れられない食事である。父親は基本的に自分の快不快にしか関心がないので、東京に来ることがあっても連絡を寄越さないし、帰省しても会話はあまり弾まない。だが、過去の記事で触れたように私の食の好みは父親譲りだし、ものの考え方は父親の影響を大きく受けている。まだ人の親になったことはないが、子は親の背中を見て勝手に育つのだろうと思う。