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朝の一コマ

 出会いは通勤電車。黒髪の艶やかなロングヘアが印象的な美しい人。一目惚れだった。電車から降りて会社に向かっていると、同じビルだった。運命を感じた。

 そこから毎朝、同じ車両に乗るようにした。出来るだけ近くにいた。会社まで同じペースで歩き、同じエレベーターに乗った。
 いつもの車両に姿を見せなかった。翌日、30分前から駅で待っていると1本前の電車に乗っていることがわかった。その日からまた同じ車両で通勤した。

 あの人と話したい。もっと深い仲になりたい。同じ車両に乗るようになってから3ヶ月が経った頃、電車を待つ間に意を決して話しかけた。

 「いつも同じ電車ですね」
 私に背を向ける。
 「ずっと気になっていました」
 こちらを睨みつけ、再び私に背を向ける。
 「良かったら連絡先交換しませんか」
 「いいですよ。番号教えてください」
 背を向けたまま応じてくれた。電話番号を伝え、いつものように同じ車両に乗り込んだ。

 その日の昼に弁護士から電話があり、彼女が迷惑していることを告げられた。その後、半径100メートル以内に近づかないという内容の書面にサインをした。
 翌日も同じ車両に乗ろうとすると、彼女の姿は見えなかった。彼女のオフィスも覗いたが姿がなかった。転職をしたのだろうか。明日、有給を取って1日中駅で待ち伏せでもしよう。せっかく偽名で書面にサインしたのだから。

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