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【一部無料公開】稲作本店 インタビュー

今日は販売中のZINEからインタビューを一部無料公開いたします!

「稲作本店」井上夫妻のインタビューです。

カンタンに前提をお話しすると、「農」の持つ可能性を知りたくて一冊のインタビュー集をつくることにした私は、那須で稲作農家をしているお二人のもとを訪ねました。去年の年末のことです。

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クラウドファンディングをしたり、私の「農家像」と違う動き方をしていたお二人。このZINE製作において記念すべき1発目のインタビューでした。

私はこのインタビューの1カ月後、お二人に「働かせてください!」とお願いするですが、1人の人間がそんな選択に至るインタビューって……

前半部分のみですが骨太な内容です。
よければお楽しみください!

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稲作本店 創業者/TINTS株式会社 代表 井上敬二朗さん・真理子さん

〈プロフィール〉
米農家Farm1739 /米菓子製造会社TINTS㈱を夫婦二人三脚で経営。150年以上の米農家の7代目。有限責任監査法人トーマツを経てその後、岡山県に移住しカフェを起業し5年間経営。 現在は、農家を営んでいた妻の父が病に倒れたのを期に、担い手不在となった広大な田んぼを引継ぐ。お米がもっと愛される世界にするため、お米専門ブランド「稲作本店」を立ち上げ、栽培と販売の両立に挑んでいる。

※ ※ ※

2020/12/16

― 本日はよろしくお願いします!

井上(敬) こちらこそよろしくお願いします!そもそも、なぜ僕らに声をかけてくれたんですか?

― クラウドファンディングの最終日にTwitterのタイムラインがすごく盛り上げっていて…『稲作本店』って何だろう?となったのがきっかけです。それで恐る恐るご連絡したんですけど、お返事をいただけたときは本当に勇気づけられました。

井上(真) ちょうど私たちもZINEや本、フリーペーパーなどの印刷物の価値を改めて感じたばかりで。米そのものだけを売るのではなく、農家の考えや現状などを伝えていくこともしたいから。その折にすごくいいタイミングでご連絡があって…

― そうなんですね!よかったです、今日はお聞きしたいことが山ほどあるので…(笑)。

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米粒以外の価値

― お二人は東京でサラリーマンをされた後に岡山県に移住してカフェを経営していたんですよね。そしてその後、農家をしていた真梨子さんのお父様が倒れて…

井上(敬) 那須の妻の実家であるこの場所に。明日から現場に出てくれとなり、急いで長靴を買って、ウェアがなかったからノースフェイスを着ていったら「ドロドロになるぞ」って(笑)。引越しの荷ほどきをする暇もなく、そのまま4月から9月までドタバタで…。しかも儲からないのが肌で感じられたので…当時は「やってしまった」って思いましたね。

― これはまずいところに来てしまったと…

井上(敬) ええ、どん底でした。まず農作業に用いる機械の値段に対して売上が小さくて、ビジネス的に破綻していると早々に気づいてしまったんですね。売上から機械の減価償却を引いて、肥料代、苗代と引いていくといくら残るんだろうって。

― 売上を決定する農協の買い取り単価はお米の質を上げても変わらないのですか?

井上(敬) それはなくて「質量いくら」という感じです。Aさんがつくったお米もBさんがつくったお米も農協に集まった瞬間に一緒になるので、スーパーのお米もいろんな農家さんのものが混ざっているんですね。

― そうなんですね!そうすると収穫量、つまり農地の面積で売上の天井がほとんど決まってしまいませんか?

井上(敬) そうです。だから、このまま農協出荷だけしていても未来がないと分かって、新しい販路を見つけさせてほしいと父に相談したら「余計なことするな」って言われて(笑)。そこからは義父ともバチバチと闘って…もう一度サラリーマンに戻ったほうが心の平穏を得られるかもしれないと本気で考えました。

― そこからモチベーションが変わっていくきっかけはなんだったんですか?

井上(敬) 1つは『森林ノ牧場』の山川さんという方をはじめ、人との出会いによって自分たちが田んぼをやる意味を他者から教えてもらえるようになったのが大きかったです。

― 先日お二人にご紹介いただいた山川さんですね。今度インタビューの依頼をさせていただこうと思います。

井上(敬) ぜひぜひ!当時は内向きに考えてしまっていたんですね。米余りと言われているなかで僕らの仕事って社会から必要とされているのかなぁって。でも周りの人は「那須の田んぼの景色が大好きなんだよね!」とか「那須山が反射してうつる春の田園風景たまらないよね!」って言ってくれて。

― 田園風景って多くの人にとって原風景でもありますよね。私もとても共感します。

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井上(敬) 風景だけでなくて治水なども含めて那須の環境維持にも役立っていて。他にも、生き物の専門家の方が田んぼには5,000種類以上の生き物がいると教えてくれて。

― そんなに!

井上(敬) みんな農家を辞めていって、周りが放棄地になってしまうとそういった価値も失われるわけです。

井上(真) 経済的に見れば米粒だけが価値で、それしかお金にならないって最初の1年目は思っていたんですけど、よくよく考えたら、それ以外の価値のほうがとても大きかったんです。

井上(敬) むしろ、お金になるのが米粒だけなのもおかしいと。

― 田んぼの価値を考えると。

井上(敬) はい。この農園を美しく保って、そこでの体験を生み出すことなどを通じて、いろんな人のいろんな「やりたい」を受け止められる場所にできるんじゃないか。そう思い始めたら「あれ…?けっこうおもしろいんじゃないの?」って(笑)。

井上(真) そう。なんか希望が見えて。

― 希望が…

井上(敬) 見えたんですよ。

― 今日はその「希望」の話をすごくお聞きしたかったです。

井上(真) 米粒を米粒のまま「どこに卸すか」だけを考えるのは点の話で、それだけだと苦しくて…。じゃあ経済的に成り立っていないなら、成り立つようにしようと。

― 前提が「だって残したほうがいい」からですよね。

井上(敬) もう1つ、『TINTS』という会社を私たちが別でつくったのも大きいです。自分たちで生産したお米を『TINTS』という別会社で買い取るという立て付けで。いまはお米を加工してポン菓子をつくったりしていますが、そうやって価値を付けた分は利益が残るという。

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― 自分たちが代表の別会社をつくったんですね。

井上(敬) ええ。そこでつくったブランドが『稲作本店』です。それにより販売に関して自分たちがイニシアチブをとって動けるようになったというのが大きくて。僕らもそうだったんですが、農家は栽培に傾きすぎてしまいがちで販売ができていないんですね。でも僕たちは栽培と同じくらい、あるいはそれ以上に販売のほうにも力を入れてきたいんです。

井上(真) もちろんお米を買い取るリスクがあるんですけど…1年目はなんとか売り切ったよね。

― 農協を介さずにお客様に直接販売することについてはどういったお考えですか?

井上(敬) いま売上に占める直販比率が20%くらいですが、僕らとしては比率を上げて最終的には100%自分たちで売りたいです。すべてを米粒のまま売ろうとは思っていなくて、みんなが「欲しい」って直感的に思えるような魅力ある商品に変えることで達成していきたい。例えば米粒を、米粉やワッフルやバームクーヘンに変えて。そうやって日本の田んぼの風景を守っていきたいです。

― 風景を守るためにも直販比率を大きくしていくと。

井上(敬) 先ほどの話にも通じますが、一番の問題は売上があまりに小さいということだと思うんです。それをまず大きくしてあげないと泳ぐにも泳げない状態。ずっと5mプールの中を犬かきで回っているような感じです。ちゃんとキャッシュエンジンをつくれば、従業員を雇用したり、別の事業に投資したり、新たな展開を図るための余剰資金を残していけます。そういった仕掛けを農家自身がやらないといけないと思って。

― なるほど。

井上(真) だいたいは農地の面積を大きくすることでプールを大きくしようとするんですよ。

― 収穫量を増やすんですね。

井上(真) そうそう。でも日本の農業って規模を大きくしたからコストが下がるわけじゃないんですよ。日本って平坦じゃないし、ある一定のところまでいったら効率が上がっていかないんですね。

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井上(敬) もちろんやり方はそれぞれあるのですが、ぼくらは風呂敷を広げていくよりは、いまある風呂敷にどう価値をつけられるかを考えたほうが身の丈に合っていて。例えば、米の値段が下がっていって、10年後に半値になりますってなったら、仮に面積を倍にしても売上は一緒じゃないですか。

― 確かにそうですね。

井上(敬) そういうことが起こりうると思っていて。

― 外的要因に左右される。

井上(敬) そう。だから僕らは、お客様はどういうものを求めているんだろうということをちゃんと考えた商品づくりをして、ちゃんと「個」対「個」で結びついていきたい。そうすることで、5年後でも10年後でも『稲作本店』のものを買いたいと思ってくれる人を1人でも多くつくっていきたいんです。その方が僕らもやりがいがあるし、関係性でつながっているって思うとなんか夢があるなって…

田んぼでキャンプ

井上(真) 農業って食べるものだけではなく「風土」をつくっているのですが、それは「日本の風景って何なんだろう」という話につながってくると思うんですね。

― ええ。

井上(敬) 全国各地にそれぞれの食文化が根付いていますが、それはその土地の農業と結びついているわけです。つまり農業が失われるというのは、すなわち食文化も失われるということで。全国で画一的に同じものを食べて、全て輸入したものを食べていくとなると、
「この国いったい何の魅力があるの?」となってしまう…

― それは…想像したくないですね。外国の人が日本を見たときも日本の「食」や「農」の風景って、きっと大きな価値ですよね。

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井上(敬) 外国から見た日本の価値もあるし、都会から見た地方の価値もあるんですよ。先日、田んぼでキャンプをやったときに、僕らドキドキしていたんですよ(笑)。こんなのおもしろいのかなって。

― 田んぼでキャンプですか?

井上(敬) はい。もともとはクラウドファンディングのリターンで実験的に用意したものでした。田んぼ1つを1組にお貸しして、田んぼの真ん中にテントを張ってキャンプできるという企画です。

― おもしろそう!

井上(敬) 先日も東京から広告代理店の方が家族で来てくれて。その日はすごく寒かったので楽しく夜を過ごせるのかなぁって心配していたのですが、朝行ったら「めっちゃよかったです!」っておっしゃってくださって。「これは来年も来たい!」って。

井上(真) 家族でカラオケをやったんですって。普通のキャンプじゃできないらしくって。

― キャンプ場って基本的にそこまで広くないので田んぼ1つを1組で使えるのはすごくいいですね。

井上(敬) この時期って虫がいないから過ごしやすいので、10月から年末くらいまではキャンプできるようにしたいなって思っています。

― 田んぼに足を踏みいれる体験自体がドキドキするし、うれしいと思います。

井上(敬) そう思って耕したところと固いところを用意したら、お子様がふわふわしたところで走り回ったんですって。「ふわふわだー!」って。

― (笑)。

井上(敬) 「食」や「農」に触れあうチャンスがないことは、足を踏みいれる機会がないことと近いと思っています。一歩でも足を踏みいれると、そこでどんな作物がつくられているのか考えたり、キャンプしたら「別の季節はどんな風になっているんだろう」と関心をもってくれたりとかするじゃないですか。

― そうですね。また来ようと思うかも。

井上(敬) 水が張られて均等に苗が並んでいる姿や、伸びてきてグリーンがさわさわいっているところや、黄色になった田んぼの姿を、折をみて立ち寄ってもらったりね。そうなってくると、田んぼって愛すべき場所になるのではないかと思っています。

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(後半部分はZINEにて)

※インタビュー中の写真はZINEには収録されていません。

☟稲作本店のECサイトはこちらから!お米やその他オリジナル商品もあるので、ぜひのぞいてみてくださいー!

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いかがでしたでしょうか?

私はこのインタビューで「農」にできることはまだまだたくさんあると確信を得ました。そして、いま「稲作本店」で働いて2ヶ月が経ち、その確信を現実にするために自分自身も汗を流しています。

今回は一部を公開させていただきましたが、「稲作本店」以外にあと3組の方へインタビューを実施し、それを1冊にまとめたのがコチラ☟です。全員同じくらい濃い内容です(笑)。よろしければぜひ手に取ってみてください。

21/07/04



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