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#570 「AIとAIが取引する経済」と独禁法

昨年末12月31日の日経新聞コラムを読んで考えたことを、メモ。


1、どんな記事?

5面のオピニオン面(?)にあった、本社コメンテーター中山淳史さんが書かれた「AIとAIが取引する経済」というコラムです。

概要は以下の通り。
☑️ 今はなき創業者の松下幸之助氏をAIで仮想空間上に甦らせたパナソニックの取り組み(幹部社員の相談相手として研修などに使う予定だそうです)などを紹介
☑️ 2024年は関係者の間では「AIエージェント元年」とされ、チャットGPTをはじめとした「対話型」から、能動的に動き仕事をするというエージェント(代理人)的な「自律型AI」が開発されていることを紹介
☑️ これらの動きは、「AIが人間にモノを売る」から始まって「AIがAIにモノを売る」状態から成る経済が出現する流れにつながっている
☑️ 現在は「BtoC」と呼ばれる企業と個人の電子商取引が一般的で、頂点に君臨するのがアマゾン。筆者の計算では00年から23年まで平均26%のペースで毎年売上を伸ばした
☑️ 「AtoA」取引が始まると何が起こるのか?買い手側には新たな商機が生まれ、アマゾンに取って代わる担い手が現れる可能性がある
☑️ AIエージェントの技術は一方でフェイク動画などによる悪用の懸念もあり、一段ど用途が広がる25年は期待ししつ社会への影響と対策も議論深めたい

日本経済新聞 24年12月31日5面より


2、AIとAIが取引する世界?


AIの発達に関してさまざまなことが言われますが、一番先に具体的かつマスでやってくることってもしかしたらAIエージェントかも知れませんね。

チャットGPTなんかは能動的に使いにいかなければいけないサービスですが、AIエージェントって、普段使っているスマホで何かを買おうとかした時に、今だと価格比較サイトや評判などを検索して、なんて工程を、無料で簡単に肩代わりしますよ(その分、過去の購買履歴や嗜好などのデータ集められて、加えて売る側からのアフリエイト収益ですぐにでもペイしてしまいそうな気がします)、手間なく最もよい選択肢を提示しますよ、というサービスでしょう。

もし普及したら、それこそ普段から何でも相談しちゃう(あるいは、相談前に「これ、そろそろ欲しいんじゃない?」と提案してくる)世界が来るのではないでしょうか?

個人的には全部のデータを渡すのは気持ち悪い気もしますが、そういうのを気にしない方々からしてみると、どっかで一気に広まってもおかしくない気もします。

特に、「間違いたくない」という心理がとても強いような気がして、だからこそ、新NISAはある特定のファンドに集中したり、比較サイトのランキング上位商品が圧倒的な売れ筋になったり、ということが起こっているのでしょうから、AIエージェント、広まりそうです。


それにしても、松下幸之助さんのAIと話してみたい、という方が個人的には強いですが…


3、独占禁止法上の問題?

で、この記事自体はこのような読まれ方をされるのを期待しているモノだとは思ったのですが、個人的に興味を持ったのはちょっと別のところにあります。

それは、「AIとAIが取引した場合の独占禁止法上の問題」です。

「AtoA」取引が進むと、お互いに値段が一つの大きな決定要素になります。で、お互いとんでもないリサーチ能力がありますから、何が起こるかといえば、価格競争、ではなく、価格の収斂が起こるのではないでしょうか?

つまり、エージェント側はベストな提案をするために、常にあらゆるサイトの価格をチェックし、最安値のサイトを探します。 ECサイト側も競合サイトの価格を調べ安くすると相手も同じロジックで価格競争になるので、同じに揃えようとします(利益を最大化するというロジックも入っているので)。

となると、価格カルテル(談合)と同じような状況が起こるわけです。

もちろん、申し合わせて同じ価格にしたわけではありませんので、問題ない、といえますが…

では、当事者であるAI(chat  GPT)に聞いてみましょう。

質問:AI同士で取引を行う場合に考えられる独占禁止法上の問題点があれば箇条書きで教えてください。
回答:AI同士が取引を行う場合、独占禁止法(日本における独占禁止法や他国の競争法)において次のような問題点が考えられます:
1. 価格カルテルの形成
・AIが共通のアルゴリズムやプラットフォームを使用して価格を設定し、暗黙の合意で価格を固定する場合。
・特に、AIが過去の取引データや市場情報を学習し、競争を抑制する価格戦略を自動的に採用するリスク。
2. 情報交換の問題
・AI同士が競争上重要な情報(価格、取引条件、在庫状況など)を共有し、競争を制限する場合。
・データ共有が透明性を高める目的を超え、競争を妨げる方向に進む可能性。
3. 共謀の容易化
・AIが高度なデータ分析やパターン認識を用いて、競合他社の行動を予測しやすくなり、意図的または暗黙的に共謀する環境を作り出す可能性。
4. 差別的取引
・AIが特定の取引先や消費者グループに対して不当に差別的な取引条件を設定する場合。
・AIが差別の意図がなくとも、アルゴリズムの学習結果として差別的な行動を取るリスク。
5. 入札談合の自動化
・AIが入札プロセスにおいて他のAIと連携し、入札価格を調整して談合を行う可能性。
6. 排除的行為
・AIが市場での競争を排除する目的で価格を極端に引き下げたり(ダンピング)、競争相手の取引先との取引を妨害したりする場合。
7. 競争環境の歪み
・AIが支配的地位を利用して、他のAIや企業の市場参入を妨害する場合。
・特定のプラットフォームやアルゴリズムを標準化することで、他社が排除される可能性。
8. 自動化された独占行為
・AIが複雑な戦略を立て、特定の市場での支配的地位を利用して、競争を不当に制限する行為を自動的に実行する可能性。
9. 説明責任の欠如
・AIによる決定がブラックボックス化され、競争法違反の意図や行動が不明瞭になり、責任の所在が追及しづらい状況。
10. 法的規制の適用困難性
・AI同士の取引がリアルタイムで自動的に行われるため、違法行為を検出し、規制することが難しくなるリスク。

これらの問題に対処するためには、AIのアルゴリズムや行動に対する透明性の向上、規制当局による監視強化、事前のリスク評価が求められると考えられます。

出典 Chat GPT氏

…10個も論点が出てきましたね。
「談合の自動化」って…

あとは、AIエージェント、という観点では、契約行為を事後に自分の意図したものでなかった、ということで契約者が取り消したい場合、どういう取扱いとなるのか、というのも興味があります(クーリングオフ期間中ならいいのでしょうが)。


4、まとめ

いかがでしたでしょうか?

AIが進むと仕事がどうなる、という観点は気になるのでよく話題となっているのをみますが、こうした価格の硬直性といった、地味ですけど実は実生活にはインパクトのある議論ってあまりされていない気がしています。

日経新聞の記事を読んで、気になっていたことでもあったのでメモしてみました。

個人的にはモノを買うのにあれこれ悩んでいる時が一番楽しいので、、とか思ったのですが、よく考えたら、そういうのは一部の嗜好品で、あまり興味がないけど買わないといけないようなものは、失敗のないモノを選んでくれるならそれはそれでありがたいかなぁ、と。
すくなくとも、松竹梅の選択肢をパパッと提示してくれるのはとっても便利かも知れません。

でも、今でもあちこちのサイトやお店を比較するのと同じように、AIエージェントも複数のエージェントにあちこちに聞いてみる、なんてことが起こるのでしょうか…

AIエージェントの比較サイトができたりして…


最後までお読みいただきありがとうございました。
例によって新聞記事から連想した個人的メモでしたが、どこか参考になるところがあれば嬉しいです。

本年もよろしくお願いいたします。

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