介護休業をとってみて。
この春、息子は特別支援学校高等部を卒業し、4月から福祉事業所に通う生活が始まりました。学校生活が終わり、働き始める。というのは、とても大きな環境変化です。生活パターンも、通うルートも、服装も、日々関わる人も、緊張感も、すべてがガラリと変わります。私自身も会社生活になじむまで大変だった20年前のことを思い出します。息子には自閉症・知的障害があり、ことさら環境変化が大きく影響することがあります。
それで私はこの時期「介護休業」という形で会社をしばらくお休みして、息子のサポートに入ることにしました。ノーワークノーベイはやはりきつかったですが、息子の就労への移行期という大切な時期にサポートに入ることがとても大切なように思えました。
それは、大きな環境変化を迎えようとしている息子を支えたい気持ちから来ていますが、もう一つの理由が「就労への移行期」と呼ばれるこの時期には様々な手続き(ペーパーワーク)や打ち合わせが集中します。学校、行政、施設との面談、施設との契約手続き、短期入所事業所の見学、相談支援事業所の訪間と相談、施設の家族会…。一つ一つがわりと重くて時間がかかるものばかりで、本当に色んな手続きを短期間でこなさなければなりません。今振り返ってみると、会社に通いながらでは、とても対応しきれませんでした。
もちろん会社を長期間お休みすることで、多くの方に負担や手間をかけてしまうようなことがあったと思います。
でも、会社の仕事は代わりの人がいても「息子の父親」という役割はわたしだけしか担うことができない、社会における大切な役割。
そして何より、私自身に気持ちの余裕がない状態では、息子が新生活を安心して送ることができないこともわかっていました。
実際、会社をお休みしていた分、気持ちの余裕ができて、息子のサポートにしっかりあたることができたように思います。逆に、あくせくしながら余裕のない日々を送っていると、息子の、この大切な時期もうまく立ち上がったかどうか…と考えると、本当に良かったと思います。
そんなわけで、介護休業を取れたこともあり息子の新生活はひとまず順調に立ち上がりました。職場ではしばらくリハビリ状態が続いていますが、まあ何とかこちらも無事復帰することができました。そして改めて、会社で働き始めて感じたことを書いてみます。
<会社(=社会)は変わることが求められている>
一つは、多様な働き方が認められる会社になってほしい、ということ。わたしの現在の生活で言うと、週5日オフィスで働く今の労働形態はわりときついと感じることが多いです。NPOの仕事は平日の夜か週末限定ですが、やはり息子のケアが必要な場面がどうしてもあります。例えば体調を崩して病院に連れていく、福祉関係手続きで区役所に行く、学校や施設での打ち合わせに行く、平日夜でもお出かけに付き添わなければならない時がある、トラブル対応が必要になる、等など。
だから、そういう用事があると会社をお休みするのですが、他の同僚たちは「とてもそんな暇はない!」という感じで働いているのです。実際に私ほどお休みを取っている人も少ないと思います。そうすると、私はなんだか「この職場に居ていいのかな?」という気持ちになってきます。
本当だったら、週1日だけでも在宅勤務が選択できれば、とても働きやすくなるのになぁ…と思ったりします。9時に区役所に行って用事を済ませ、帰宅して洗濯機を回しながら10時からオンライン打ち合わせ。そんなことができれば今ほど休まなくても済むし、すごく働きやすくなるし、息子が午前中授業の時なんか帰宅後のフォローだってしやすくなるし(もう卒業しちゃったけれど)。そして、子供のことを気にしながら会社で働く、ということから解放される分、会社で働くパフォーマンスが下がるどころか逆に上がる効果もあるように思います。
在宅勤務のように柔軟な働き方ができれば、子育て世代の働きやすさにつながります。私のように障害のある子を育てる家庭にとっては、とりわけありがたい。社会問題になっている介護離職を減らすことにもつながるでしょう。多くの会社ではそういう取り組みがすでにされており、されていない会社は「焼け石に水」かもしれませんが、まずはそういう仕組みの面を整えるべき、ということが一つ。
<もっと大切なことは?>
でも、それ以上に大切なのは「人を大切にすること」だと思います。
そう思ったエピソードを一つ紹介します。人から聞いた話です。ある会社で働く社員が「子供が風邪っぽいから、医者に行って薬をもらってきました」というのです。でも、まだ熱が出ているわけではないんですよ。ただ熱が出ると困るから、という理由で、薬をもらってきたというのです。
よくよく聞いてみると「万一、子供が熱を出してしまうと保育園に預けられなくなる。だから週末調子が悪くなったら薬で熱を抑え込み、保育園に行かせる」ということ。
その理由は「会社に迷惑かけないように」なのだそうです。この話を聞いた時、もう愕然しました。
考えてみてほしいのですが、子供って風邪をひきます。当たり前のことですよね?熱を出して、休みながら毒出しして、体を強くしていくもの。いわば子供が風邪をひいて、時間をかけてそこから回復してくのは、生きる力に直結する大切な学びです。同じように子供はケガをします。転んで、痛くて泣いて。時にはケンカもして、体と心の両面で痛みを感じ、次はどう行動すればいいかな?と考え、人の気持ちを思いやることを覚えていき、人格形成につながっていきます。
だから、「会社に迷惑をかけないように子供の熱を薬で抑え込む」とか、「ケガをしないように公園の遊具をなくしてしまう」とか、「誰とでもうまくやっていけるようにお砂場でケンカになりそうな子を止めに入る」とか、そんな社会では、子供たちがあまりにかわいそうだと思うのです。
こんなことでは、子供たちの学ぶ機会、成長する機会を奪うだけです。つまり、結局のところそれは「子供のことを、引いては人のことを、どれだけ大切に考えているか?」ということに行きつきます。
<個人レベルでは、どうすればいいのか?>
体調が悪くなれば、お休みすればいい。しんどい時に薬を飲む選択肢はもちろん大切だけど、少なくとも会社に迷惑かけないように「あらかじめ薬で熱を抑え込む」という社会は豊かな社会ではない。子供がかわいそうだ。そんなこと、以前住んでいたドイツでは考えられません。
子供が熱を出したら、親に見てもらえるのが子供にとっては一番安心です。だからそういう立場の人には、理由を伝えてしっかり休むことをがんばってほしい。子供が病気の時には数日はお休みできるようでないと、社会全体の幸福度が下がるといっても言い過ぎではないと思います。多くの会社ではすぐに体制を整えるのは難しいとしても、少なくとも個人レベルで意識することはできるはず。上司も部下も。だってそれって「子供は社会全体で育てるもの」という意識一つだけ。それだけで、できることだから。
「豊かな社会」と「生産性」。どちらも大事だと思います。
でも、どちらか一方を選ぶべき場面では、あなたはどちらを選ぶでしょうか?
自分も、いずれ雇用する立場に立つ時が来ると思いますから、これまでの子育てや介護休業を取得した経験を必ず活かしたいと思っています。今回の介護休業はやむにやまれず取得したものでしたが、そんな新しい気付きが得られた貴重な機会となりました。