高専マテリアルコンテストって何?
よくよく考えると高専マテリアルコンテストについてそもそも何か?っていうのを記事にしていなかったので,こちらでまとめました.
高専マテリアルコンテストとは?
今回の高専マテリアルコンテストは,
高専生,高専教員の持っている技術と知見,高専の実験と実習というシステムおよび技術職員の先生方,実験実習の設備これらすべての魅力を全面的にPRする,言い換えれば高専そのものをPRする,モノづくりの中でも材料工学や材料科学に着目したコンテストです.
第一回の高専マテリアルコンテストのテーマは「鉄の強靭化」です.
参加する各高専に久留米高専から同じ化学組成のφ16の1000mmの丸棒を配布し,表面処理や鍛造など自由に強化をしてもらった上で,最終的にはシャルピー衝撃試験片に加工をして,久留米高専に郵送いただきます.(この時は,加工条件や熱処理条件の記載もお願いしています.)
キックオフイベントを9月4日5日に行いました。その後、各高専ごとに配布した材料を加工をしてもらいます。
11月2日の大分県の水素フォーラムにて中間報告を行います。
そして最後,3月に最終決戦を行います。
決戦は久留米高専で行います.
決戦の日には,各グループごとにスライドで5分程度プレゼンテーションも行っていただきます.
そして,全員が見守る中,シャルピー衝撃試験を行い,衝撃値の大きさとプレゼンテーションの両方を加味した上で,一番を競いあうというイベントです.
今回は,久留米高専,鈴鹿高専,佐世保高専がメインで参加します.豊田高専の中村先生からは特別に試験片を郵送いただけることになりました.
(実はまだまだ参加高専を募集中です)
いつかきっと「高専ロボコンをみて高専選びました」の学生さんの横で「高専マテコンみて高専選びました」そんな学生さんが出てくることを楽しみにしています。
参加学生さんに願うこと
材料工学や材料科学が学生にとって学問になる前に(もしくはなった後でも)このコンテストを通して,材料の面白さ,不思議さ,たのしさ,美しさをまずは体感してほしいと願っています.
今回のコンテストでは,誰が一番衝撃値を大きくできるか?を競い合います.鍛造をすると以前の記事でも書いたように,手はすごく疲れますし,汗もかきます.加工しながら,どうやったら強くできるのか?なんで強くなるんだろう?に思いをはせてほしいと願っています.
鍛造であれば,ハンマーの重さを変えたり,叩く回数を変えることで強くなる重さや回数を探すかもしれません.
熱処理温度を変えたり,水冷,炉冷,空冷でどんな風に変化するか確認するかもしれません.
エアハンマーを使うととても簡単に大きな量が加工できる代わりに,試験材料が加工の途中に割れてしまうかもしれません.
そして,衝撃試験をしたら,加工する前の買ったままの材料が一番特性がよくて悲しい思いをするかもしれません.
でも,きっとその過程こそが,「なんで材料は弱くなったの?」「なんで材料は強くなったの?」「加工の途中で割れてほしくない!」「どうすればもっと強くなるの?」という材料工学と材料科学を築いてきた先人たちが心に抱いた,とても純粋でとても根源的な工学の芽を育ててくれる,そう信じています.
きっとその工学の芽が育った時に,先人たちが残した教科書や論文をよむと,「あぁ,この論文に書いてある!」「これでもっと強い鉄をつくることができる!」と教科書と論文(学問)が,小学生のときに教えてもらったきれいな泥団子をつくるコツと同じように,身近で楽しい読み物に変わる,と考えています.
評価に際してはなるべく試行回数が増やせるように短時間で試験が行うことができて,かつ試験片サイズも小さい,でも壊れる時には想定外の音も楽しめるシャルピー衝撃試験を選定しました.
ぜひ最終決戦の日に,自分にとって一番大事で頼れる材料を,少し不安な気持ちと共に持ってきてほしいと思います.きっとそんな皆さんをみれることが,コンテストを準備した人たちにとっては何より誇らしいことです.
高専を薄めない
物質・材料研究機構の小林様から授かった
「特徴を薄めない」
の言葉を元に今回のコンテストは組み上げられています.
事前にいくつか試作や試行錯誤をして,高専をそのまま伝えることがやっぱり大事で一番インパクトがあるという結論になりました.
結果,高専を薄めずにそのまま伝えることができるコンテストになったと自負しています.
高専生について
工学で遊んでいる様子をみてほしい
正確には,高専生が,実習に携わっているとき,実習の面白さを楽しそうに語る時,衝撃試験を他の学生と一緒にスロー機能で頑張って撮ろうとする時,いろんな瞬間にものづくりや工学で遊んでいる様子を伝えたいと思いました.
目をキラキラさせている学生がちゃんといる.彼らをちゃんと届けたいそう考えています.
学生間の相互作用がおもしろい
すごくピュアにすごく楽しそうに遊んでいる学生の様子,学生同士の触れ合いでどんどん刺激をうけて,工学に夢をみていく様子をなるべく多くの方に届けたい,そう考えています.
15歳と22歳が高専も学年も学科も違うと,なぜか逆に一つの構成員として機能し始めます.コンテストでは高専も学科も学年も問わず広く参加者を募集しています.
15歳でもポスター発表しちゃう
15歳でもポスター発表を11月2日大分県で開催される水素フォーラムで行います.これはきっと,学生のアクティビティの高さもそうですが,高専教員,技術職員の先生方,企業の方々,大学の先生方があたたかい雰囲気でフォーラムに参加されるからこそ,なしえることだと思います.
これまでの先人の営みと今の日本社会だからこその雰囲気かもしれません.ぜひ,あたたかい雰囲気の工学の場を楽しまれてください.
高専の実習について
高専は戦後即戦力のエンジニア育成機関として設置されました.ですので,その教育はものづくり教育がベースです.ものが作れてなんぼ,工学は使えてなんぼなわけです.
そのものづくり教育の丁寧さは実はあまり知られていないかもしれないので,こちらに記します.
1人が6名を指導します.
高校の化学の実験ですと,1人の先生が30名から40名の生徒さんを指導されると思いますが,高専は1人の技術職員さん(もしくは教員)が6〜7名の学生を指導します.単純に労力は6倍近くかかっています.作業前には作業の説明と,工具の確認もきちんとされます.
作業するためのスペースが広い
ものづくり教育がベースにあるため,作業する旋盤はきちんと学生一人一人が使用できるようにメンテナンスされて,数も学生数以上に設置されています.実習スペースも怪我や事故がないように広くとられています.敷地面積やその中で建物をたてる面積も規定されている教育機関にとっては,そのスペースが広いということは,いかにそこに重点を置いているか,ということの表れです.
コンテストを考える時には,この設備や環境もPRしたいと考えました.
同時に,学内見学を設ける際には,現場として困っている課題(久留米高専の場合は女子寮が小さい問題)も多くの方々に届けたいと考えています.
実習は入学後すぐ4月からあります.
さらにこの実習が入学すぐの4月から開始されます.初々しいきもちを持って入学した学生がすぐに鍛造をはじめます.週に1回3時間の実習を年間通して行います.
座学で鍛造を習う前に,鉄は実習で叩きます.この形をとりあえず作ります,で初めてみることの大切さを技術職員の先生方,高専の教員はよく知っています.(コンテストもとりあえずはじめてみるというところからスタートしています)
鍛造する様子をみて,炭治郎みたい!と日本電子の上條さんが,見学の時に言われてました.
技術職員の先生方をみてほしい
学生は実習はたのしい.では,技術職員の先生はどう感じているのか?
高専って面白い場所で,佐々木が知っているかぎりですが,技術職員の先生方もモノをつくること,モノができあがること,学生の指導それぞれを本当に楽しまれていて,誇りをもたれています.
技術職員の先生が,こんなに楽しまれていて,それを伝えるってすごく尊いことで,もちろん学生の教育効果は高まります.
またマテリアルコンテストのキックオフイベントでは,自由鍛造では今泉先生,歯車加工では馬田先生(親方),鋳造紹介では古賀先生にお世話になりました.これに加えていつもの加工実習では旋盤の田中先生,木工の福田先生,鋳造では満武先生にお世話になっています.みなさん大変丁寧に安全に配慮して,そして誇りをもってご指導されています.最終イベントに見学が組み込めたら,ぜひその先生方のいつもの姿をお伝えしたいと考えています.
下の記事では,豊田高専でお会いした高専を卒業して,機械加工が大好きで技術職員になった熱意あふれる池戸さくら先生をご紹介しています.
コンテストを考える時には,これらの技術職員の先生方もこんなに素敵なんだと伝えたい,と考えました.
そして高専教員も,,,
みなさんそれぞれに面白い技術と知見をお持ちです.何より,学生が輝いている時に,その学生をみる先生方の様子も見てほしい,と思います.
先生方が準備される実験実習は本当に工夫がされていて,レポートも丁寧に指導されます(学生はヒーヒーになって,教員は裏でヒーヒーです)
高専において学生と教育の距離はたいへん近く,それはきっと互いに「ありがとう」が届く距離なんだと思います.
ものづくりはきっと困っている誰かの役に立ちたい,そんな思いから始まるものです.そのものづくり教育においてはこの距離が持つ意味はとても大きいと思います.
そしてそして外部の方も,,,
不思議なもので,ものづくりや実習や実験の楽しさや意外さは,年齢を問わず多くの人の心を掴むようです.ぜひ,外部の方も一緒に楽しんで頂ければと思います.
最終イベントで考えること
最終イベントでは,外部の方を審査員としてすでにお声がけしております.事前に何度もコンテストの相談に乗っていただき前向きなアドバイスをして頂き,いわゆる検討会にご参加して頂いた方々にお願い差し上げました.
そして審査員と学生が,単なる審査する人と審査される人ではなく,「工学を敬愛する大人」と「その姿勢と思いをうけとる人」の関係であってほしいと願っています.
もしかしたらそこでは学生が「工学の可能性をみつける人」で審査員の方々が「工学の可能性を教えられる人」かもしれません。
もちろん最終決戦イベントでは,外部からの見学者の方々も同じように「工学を敬愛する大人」と「その姿勢と思いをうけとる人」であれば,ぜひ学生と気軽に交流してほしいと考えています.
また,高専生同士が高専,学年,学科を超えて交流する場になってほしいと願っています.それはもしかしたら誰が一番ハイスピードカメラでき裂が進む瞬間を上手く撮れるのか?イベントがあるのかもしれません(何も考えてません).高専生が工学を遊びにするタネは本当にどこにでも転がっているんです.彼らが工学に触れながら遊ぶ様子をみて,学生が工学に興味をもつ瞬間が如何に多様であるか感じて頂ければと思います.
見学希望の方々へ
大変ありがたいことに,佐々木の知り合いの大学の先生方,企業の方からすでにマテリアルコンテストの最終決戦を見学したいというお声を頂いております.
予定では,3月の10日から20日の間のどこか1日もしくは1.5日で最終決戦やそのイベントを行う予定です.
その際には,ぜひ高専生,技術職員の先生方,設備や環境を拝見してほしいと思います.
きれいな建物(久留米だと西鉄シティプラザ)ではなく,高専の教室や実験室と設備をフルに使った手作り感満載だからこそ,「高専を薄めない」そんなコンテストを味わってほしいと思います.
ご見学希望の方はぜひ,下記のリンクからご連絡ください.
ご連絡頂いた方には後日日程決まり次第,改めて詳細のご連絡差し上げます.お気軽にご連絡ください.
スペースや時間の関係上,もしかしたらすべての方のご意向を汲むことが難しいかもしれませんが,まだまだ次回以降も開催予定でありますので,ぜひ楽しみにお待ちいただければ幸いです.
材料分野の人材確保の話
ここまで記事を読んでいただきありがとうございます。
ただ、材料分野が抱える人材確保の課題も記載しておきたいと思います.
日本の大学では冶金学科が,鉱山における鉱業が活発な時代に,設置されました.その当時は日本にとっても非常に重要な産業であったため,人気があったんだと思います.多分お給料も良かったんでしょう.
その後,自体の流れとともに工学の人気は移り変わります.3種の神器の時代は機械と電気,日本列島改造論の頃は建築,現在生成系AIやスマートフォンによって制御情報が人気なんだと思います.
一方で,ものづくりや私たちが生活を送る上では,どの工学も必要です.上も下もなく必要です.
スマートフォンのアプリで,画面のボタンを押すとサムターン式の鍵を閉めてくれるガジェットがあります.あれは,スマホの画面で操作するアプリを作る人,アプリでオンになったという電気信号を受けてモーターを回すための電気回路を作る人,モーターが回った時にサムターンの鍵を回す機構を考えて強度設計する人,軽くて丈夫で工業的に大量生産可能な材料を作る人.だれもかかせません.
材料工学の分野は,派手なことはほとんどなく,いわゆる地味な分野です(佐々木は元々九大の機械航空工学科出身なので,確かに地味だなと感じます)学科紹介の時は,なかなか自動車の様に動き回る材料も,勝手にLEDランプのように電気をピカピカしてくれる材料もみせることはできません.
日本の少子高齢化とあわせて,さらに少ない人が減っています.
そのためか,高専だけでなく材料分野全体で人材確保が大事な課題なんです.
でも,材料システム工学科の教員になって思うんですけど,材料っておもしろいんです.組織ってだんだんアートみたいにみえるんです.壊れた面(破面)って顕微鏡でみると氷山に見えたりするんです.何より材料に携わっている人っておもしろいんです.
地味だけど,おもしろいがいっぱいあるなら,それをそのまま伝えて,それをおもしろいって思ってくれる人が来てくれたら良いな,と考えています.
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