『土曜日』 イアン・マキューアン を読む …詩は…
ある土曜日の一日の出来事を 書いています。
ロンドンの午前四時 目醒めた主人公は ふと窓辺に立ち 火を吹きながら降下する飛行機を見る ところから一日が 始まります。
不穏な予感を 引きずりながら 主人公は 自身に降りかかる 次々と選択を迫られる事態に対処しつつ 刻々と土曜日の時間は過ぎ……
読み手が恐れていた事態が ついに…
この世界の危うさと 誰一人無縁ではいられない
という恐怖、
見えない恐怖を無意識下で感じながら暮らす現代
どちらの可能性も 常に在る、
何か が 起こる世界 と 起こらない世界、
二つは常に同居している。(シュレディンガーの猫)
どれほど誠実に生きていても…
また、 何か は 外から来るばかりではない、内側から人を 崩壊の淵に おとす ことも描かれます。
どれほど 誠実であろうとしても…
このジレンマを 生き抜く方法は あるのでしょうか。
小説では 心打つ一遍の詩が 鍵をにぎります。
私は その詩を読んだ時
ぼんやりと
ガザの詩人リフアトの詩が 心に浮かんできました。
ガザで ウクライナ で
何か は起こってしまいました
起こり続けています
ガザの詩人の詩の冒頭です
If I Must Die
もし 私が死ななければならないなら
あなたは どうしても生きなければならない
私の物語を語るために……
物語で鍵を握る詩は
マシュー・アーノルド「ドーヴァー・ビーチ」
(1867刊)
詩の最後の 部分です
信仰の海は
かつてこの海のように満々と潮をたたえ
きらびやかな襞帯のように地球の岸辺を囲んで
いた
けれども いま聞こえるのは
引き潮の陰気な音だけ
夜風の息吹とともに退いてゆき
荒漠たる世の果ての地を越え
裸の石の浜を越えて消えゆく潮の音だけ
ああ恋人よ せめて我々は
互いに忠実でいよう
この二つに通底するのは 『詩』 への信頼
『詩』 に込められた 魂の言葉に 胸を射抜かれました。
私たちは
ひとり ひとりが
物語を語り続け
詩 を 紡ぎ
詩 に 耳をすませ
続けなければ
そう強く思いました。
ありがとう イアン・マキューアン 「土曜日」
ありがとう マシュー・アーノルド 「ドーヴァ…
ありがとう リフアト・アライール 「If I Must…
リフアトは空爆で亡くなられたそうです
悲しみは
ガザで ウクライナで 世界で
増え続けています