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3行日記 #224(ボクシング、小魚の高速道路、栗ご飯)

十月十四日(月)、晴れ

午前、亀岡方面へ、馬堀という駅で降りる。十分ほど歩いて予約した店に入った。

昼、妻の職場にいたグルメの同僚に紹介してもらったビストロへ。コース料理を頼んだ。私は、前菜を生ハムのサラダ、メインを和牛のハニーマスタードにした。味はもちろんのこと店の雰囲気もよく、この値段で食べられるのかと驚いた。次回はわかりやすく、にんにく醤油の味付けにするか、鶏肉か魚にしよう。メインを食べ終わったころ、二人組の女性が飛び入りでやってきた。ちょうど席が空いたところで、タイミング良く席に案内された。二人の会話が聞くともなく聞こえてきたのだが、母と娘らしい。コース料理を選んでいるのだが、どうやらお母さんは肉が苦手のようで、海老の料理を選んだのだが、運悪く品切れだった。とはいえ、魚介のメニューも充実しているので、いったんは別の料理を注文したのだが、しばらくして、母が娘にこそこそ話しはじめると、娘さんが頷いて席を立った。すみません、今からキャンセルできますか。二人はそそくさと席を立ち帰っていった。

午後、馬堀の駅に戻り、となりの亀岡へ。そこから西へ歩いた。交差点で銀杏が落ちているのを見つけ、ふと上を見ると、まだ青々とした葉っぱにまぎれて、ぶどうの房のように黄色い実がぎゅうぎゅうにぶら下がっていた。こんなにたくさん実るのか。市役所の前の石段のうえに、石でできた四角い顔が地面に無造作に置かれていた。太い通りに折れてさらに進んだところに道の駅があった。産直市場だけでなく、図書館や市民活動の部屋などが集まった賑やかな施設だった。奥に進むと、何やら活気づいている。なかに入ってみると、リングのうえで少年たちが激しく殴り合っていた。殴るだけでなく、ハイキックもしている。キックボクシングの大会らしい。少年とはいえすごい迫力で、思わず見入ってしまった。シュ、シュ、シュ。道の駅をでると、田んぼや畑が広がっていた。畦道に入る。歩いていると、妻の歓声があがった。近くを流れる農業用の用水路のなかに、猛スピードの小魚がいるという。見ると、なにかの影が一瞬で通り過ぎていった。目を懲らしてみると、小さなものはわかさぎくらい、大きなものは鰯くらいの小さな魚が、群れをなして泳いでいた。一瞬で目の前を過ぎてゆく新幹線のようだった。小魚の高速道路や! 野焼きの白い煙が立ち昇っていた。

さらに歩くと、やがて満開のコスモス畑が現れた。今回の目的地だ。犬がたくさんいるなと思いながらなかに入ると、ドッグランが併設されていた。亀岡は犬にやさしいらしい。順光でみるコスモスも色がはっきりしてきれいだが、逆光を透かして見る薄桃色の花も奥ゆかしい。写真を撮っていると、妻がひとつの花のなかを指さしている。虫いる。花のなかの雄しべに毛虫がからまっていた。コスモス畑のなかに、たくさんの案山子が並んでいた。案山子コンテストだ。遊園地ではじめてジェットコースターに乗ったおばあちゃんの一コマを切り取った、ばあちゃんの初体験と題された作品に目をとめる。ばあちゃんの口から飛んでいった入れ歯を、後ろの席に座っていた孫がキャッチしたという、ほんとかうそかわからない話だったが、案山子のできは、遠近感のある見事な作品だった。一票を投じた。帰りはバスに乗った。

夜、妻の実家に向かっていると、整骨院の家の居間から、口笛が流れてきた。少し不気味な、なにかの映画の挿入曲だったはず、聞き覚えのあるメロディだった。そのときは思い出せなかったが、数時間後に風呂からあがったときに思い出した。ハリーポッターのなかの曲だ。鱈の寄せ鍋、栗ご飯、林檎。昨日、ドッグランにむかう途中で買った初物の栗を、妻が調理してくれた。お手間入りの栗剥きで大変やった。おばあちゃんも手伝ってくれたらしい。骨折して以来はじめて、まだ少し痛む手を使って剥いてくれたらしい。手を動かすきっかけになって良かった。おばあちゃんは昔、尼崎で空襲にあい、疎開先として亀岡に五年ほど住み、ここで終戦を迎えたらしい。十歳くらいのころのことだという。チャックの散歩、祭りのあとを見に境内へ。落ち着きを取り戻し、ようやく日常が戻った。ネコおじや猫たちは元気でやっているだろうか。東へ。ぐるっと回って、団地をかすめたところで途中で別れて帰宅した。

#3行日記

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