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3億年の本の虫

 ダンゴムシを平べったくしたような体に、長い触覚や尾を付けて、壁や畳の隅に佇む虫なら、それが紙魚しみというやつである。

 まるで海の魚のように、銀の体をくねらせ走るので、魚という字は充てられ、それが紙を食うというので、紙という字も付いたという。

 ところでこの紙魚、しみじみ見れば、不思議な思いに囚われるのは、これが何とゴキブリ以前、三億年の昔から、存在している虫と思うからか、その姿は、人如き新参者が触れてはいけない、殺してはいけない、いっそ恐ろしくもないような気さえするものだ。

 もっとも、人がゴキブリを忌み嫌うのは、古代、巨大なゴキブリに人の先祖が食われていたからで、そう考えれば紙魚などは、関わりもなく、ゆえに怖くもないのだろう。

 あるいは、紙を食べるこの虫は、まさに本の虫であり、そこに並々ならぬ親近感を、覚えるからこそなのかもしれない。

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黒澤伊織@小説
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