『ドキュメント生還-山岳遭難からの救出』
飛行機に乗らないのに飛行機事故の動画を見るのが好きです。
山に登らないのに遭難の話を読むのが好きです。
登山といえば「山と渓谷」。安定のブランド、ヤマケイ文庫の鉄板遭難ドキュメントがこちらになります。
https://www.yamakei.co.jp/products/2812120101%20.html
3000メートル級の冬山から、秋のファミリーハイキングまで。
大量のビールをあおって沢を下っちゃったおっちゃんから、立ちくらみで斜面を落下し開放骨折の傷口に…という極限サバイバーまで。(特にこの2例は幻視が恐ろしい)
本書は登山家ではない人々の8つの事例から「一体何が彼ら彼女たちを生還に導いたか」に迫ります。
全ての例に共通する結論から言っちゃうと「諦めずに助けを待ち続けた」です。
待つ事で無駄な体力の消耗を防ぎ、食料のロスを極力回避出来るのですが、どのタイミングで待ちに徹するかの見極めが難しい。
屋外で道に迷った際の原則は、
1、気付いたら元来た道を戻る
です。そのためには自らの誤りを認める勇気が必要です。
加えてアウトドアでの鉄則は、
2、決して下らず、登って尾根道に出る
です。沢に出たところでほぼ必ず滝に行き当たり立ち往生する羽目に陥ります。
これら2つを自力で行える段階ならば自己責任で対処すべきですが(とはいえ、わかっていてもいざとなると実行できないのが人間というもの)、怪我をしていたり進退窮まったり、あと他者に行程を伝えていた場合は救援を待つのが最適解となります。
「他者に行程を伝えていた場合」!
これがまた「この時はたまたま…」という例がいくつも収録されてまして、逆に家族などから救援要請してもらっても捜索範囲が絞りきれずに活動が打ち切られたり、そもそも誰にも伝えていなかったので人知れず土に還ったりした例がどれぐらいあるのかと考えると背筋に冷たいものが駆け抜けます。
収録されているエピソードだけでも既に戦慄ものなのですが。
人間って、社会性動物なんですね。
エピソードごとに行程の記された地図が添付されているので場面を想像しやすく、文章も簡潔でシャッキリしていて読みやすいです。
一部ダメな人はダメな描写もありますので、覚悟が必要かと。
自分が本書から得た教訓は幾つかありますが、特に不穏なものをチョイスすると
・雪山は指を失う覚悟で登る
・夏の傷口にはハエが集る
です。
眠れぬ夏の夜のお供に最適の一冊です。