試作モデルで信頼を失った日:私の失敗と学び
試作モデルは商品開発において不可欠なプロセスです。
しかし、その目的が明確でないまま進めると、予想外の問題が発生し、プロジェクト全体に大きな影響を与えることがあります。この記事では、私自身が経験した試作モデルに関する失敗談を通じて、その重要性と注意点をお伝えします。この経験が、同じような課題を抱える方々の参考になれば幸いです。
試作モデルとは?
試作モデル(プロトタイプ)は、商品開発において開発プロセス中に作成する原型や試作品のことです。以下のような目的に応じた種類があります:
デザインモデル:形状やバランスを立体的に確認するためのモデル。
機能モデル:製品の機能性や構造を検証するためのモデル。
耐久モデル:耐久性や組立性を検証するモデル。
プレゼンテーションモデル:色・素材・仕上げ(CMF)を再現し、ほぼ完成品に近いモデル。
試作モデルは、プロジェクトの進行段階に合わせて必要なものを作成します。一つのプロジェクトで全種類を作るわけではなく、コストや時間を考慮した計画が欠かせません。
失敗の原因①:目的の共有不足
私の失敗の一つ目は、「何のためにモデルを作るのか」をクライアントと共有しなかったことでした。
デザインが決定し、詳細設計に入る前に「試作をしよう」と話がまとまりました。しかし、私は課題発見のための試作モデルを作るつもりでしたが、クライアントはプレゼンテーション用モデル、つまり完成品のような見た目を期待していました。この目的のズレが、後のトラブルの大きな原因となりました。
特にこのプロジェクトでは、私はクリック感や手へのフィット感の確認、組立性などを検証することを目的としていました。しかし、クライアントは外観の美しさや完成度を重視していたため、双方の期待が食い違ったまま進んでしまいました。
失敗の原因②:後加工の説明不足
試作モデルは完成品ではなく、調整や検証のための「出発点」です。そのため、クリック部分や嵌合部分は少し大きめに作成し、削りながら最適な形状に仕上げることが一般的です。
しかし、この重要なプロセスをクライアントに十分に説明していませんでした。クライアントはそのまま完成品として使えるモデルを期待しており、後加工が必要であることを理解していなかったのです。この認識の違いが、信頼を損なう結果となりました。
失敗の原因③:品質管理の過信
もう一つの失敗は、3Dプリントモデルの品質を過信したことです。当時、3Dプリントサービスが普及し始めた時期で、クライアントから「自社のプリンターでモデルを作りたい」と希望がありました。私はその希望を受け入れ、データを提供しました。
しかし、3Dプリントには特有のノウハウが必要です。例えば、ねじ穴や嵌合部は3Dプリントで狂いやすい方向を考慮して設計しなければなりません。この点をモデル会社に伝えるのを怠った結果、以下の問題が発生しました:
寸法がずれており、基板が組み付けられない。
表面が荒れ、見た目の完成度が低い。
嵌合部分が適合せず、調整不可能。
このような品質問題が発生し、クライアントから以下のようなクレームを受けました:
「ねじ止め位置が基板とずれている」
「これでは確認ができない」
「設計ミスではないのか」
私の説明も「言い訳」と受け取られ、最終的に信頼を失い、プロジェクトから外れる結果となりました。
失敗から学んだこと
この苦い経験を通じて、以下の教訓を得ました:
試作モデルの目的を明確化する
クライアントと事前にモデルの目的を共有し、期待をすり合わせる。検討項目を具体的に共有する
調整や後加工が必要な部分について丁寧に説明し、理解を得る。品質管理を徹底する
3Dプリントの特性を理解し、寸法や仕上がりを確認する。
現在では、クライアントが自社でモデルを発注する場合でも、リスクや注意点を事前に共有し、納品前には必ず私が検品する体制を徹底しています。
失敗は避けたいものですが、それを乗り越えた経験が次の成功につながると実感しています。