ページを閉じれば口角が上がっていた〜本のひととき〜
「花屋さんの言うことには」山本幸久
今年の5月に単行本を読み、文庫版には書き下ろしが収められると聞いて飛びついた。
タイトルから浮かぶように、舞台は花屋。
ヒロイン・紀久子が花屋の仕事を得たのは、ほんの成り行きだった。自分のやりたいこととは特に接点もない、食いつなぐための手段だったのだと思う。はじめは。
花の名前も詳しくないし、正しい扱い方も知らない。私もそんな感じだ。紀久子と一緒にバックヤードに入って、花屋の仕事を知った。
きれいな花に囲まれるだけではない。美しく保つために、体を張る仕事。
花を買いに来るお客さんと接したり、電気三輪自動車『ラヴィアンローズ』を駆って配達をする。小さな町を巡るうちに紀久子の世界は広がっていった。
全9話。
泰山木・向日葵・菊・クリスマスローズ・ミモザ・桜・スズラン・カーネーション・鶏頭。
花の名前がつけられた物語が、そっと開いていくようだった。おしまいに明かされる花言葉が味わいを深めていく。
毎話読み終えると口の端がキュッと上がっているのがわかった。
作中にでてくる「きのこ帝国」。
知らなかったので検索してみた。
「金木犀の夜」はこれからの季節にしみそうだ。
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