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音は1つじゃない〜本のひととき〜

「その扉をたたく音」瀬尾まいこ

モラトリアム、というのだろうか。
30歳を目前にした男・宮路はミュージシャンになるという夢を抱きながらも自堕落な日々を過ごしている。
夢を捨てきれず、どう折り合いをつけたらいいか分からないでいた。

そんなある日、レクレーションでギター演奏をするために訪れた老人ホーム。
宮路はそこで衝撃の出会いをする。
職員の渡部くんが奏でるサックスの音色に、
心を奪われてしまうのだ。
「神様」とまで称するくらいに。

自分の夢に彼を巻き込んでしまおう。
よこしまな気持ちで宮路は老人ホームに通い始める。
ひとくせある入居者たち。
宮路の熱意がいまいち通じていない渡部くん。
ちぐはぐなやりとりは、本来の目的からズレていく。
でも宮路は根が素直なんだろう。
頼まれたことはこなしていくのだ。
彼なりのやり方で。

考えるより行動しろ、という教えがある。
頭だけで考えてもわからない。
体も動かして血を巡らせていく。
「何でこんなことしてるんだろう」 
「 こんなこと」 の中に答えは潜んでいるかもしれない。


何で音楽をやりたいのか。
音楽で何をしたいのか。
自分は何が好きなのか。

宮路の凝り固まった世界がほどけていく。
目の前を塞いでいた、重い壁のような扉を
たたく音がする。
耳で聞こえる音だけじゃない。
出逢った人たち、かけられた言葉、初めて知った気持ち。
音とは、きっかけのことなんだと思った。
動くのは自分。
これからの一歩は宮路の手足にかかっている。

宮路を応援したくなった。

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