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前頭斜走路(FAT)について

初めまして、くろと申します
臨床4年目、回復期リハビリテーション勤務の作業療法士です。

今回は、前頭斜走路について調べて、まとめたことをここに書き起こしていこうと思います。

まずは白質線維とは何かについて解説していきます

白質線維とは、末梢でいう神経細胞の軸索にあたる様なものになります。
簡単に言えば情報処理された信号を次の神経に運んでいます。
これには4種類あり、①隣の脳に運ぶ弓状線維、②左右一つずつ(左なら左のみ)内で情報を運ぶ
③左右の脳の情報を交換する脳梁、④大脳から脳幹、小脳、脊髄へ信号を送るもの
この4つにわかれています。

次は、何という白質線維があるのかを説明していきます。

有名な大きな線維だけでこれだけあります。
(これ以外にもあるとされています。)
今回は前頭斜走路についてお話しできればと思います。
上前頭後頭束に訂正線が引かれているのは、サルにはありヒトにはないと言われているからです。

ここから
前頭斜走路の
・接続
・機能
・障害
について軽く伝えていきます。
軽く、と言ったのは後述するためです。


前頭斜走路は、諸説ありますが
前補足運動野・補足運動野・中心前回下部を
下前頭回弁蓋部・三角部に接続する神経であることがわかります。
補足運動野は運動のプログラミング、下前頭回は言語の発話に関連していることから、障害されると言語障害などが出る可能性が考えられますね。


次は前頭斜走路の関与する機能についてです。
上記のスライドの通りたくさんありますね。
補足運動野は運動のプログラミングなので、発話のプログラミングが失敗して言葉が出てこない、出そうと思えない?(発語失行?)のような感じになるかもしれません。また、左半球は言語に特化していますが、右半球では抑制や音楽機能なども関わるのではないでしょうか。


次は、前頭斜走路の関連する疾患・障害・症状についてです。
原発性進行性失語症から小児の言語失行まで、多様にありますね。
一つ一つ説明していこうと思います。

原発性進行性失語症(PPA)について

⑴原発性進行性失語症 (PPA) は、言語を支配する脳システムの比較的局所的な変性を集合的に示す多様な疾患群です。
ゆっくりとした、力の入った、ためらい、歪んだ発話を示し発話の運動プログラミングの障害と調音の敏捷性の低下により、通常、多音節の単語や音節の連続(例:「プ・トゥ・ク」)を命令に応じて発するのが著しく困難です。この症候群は、優位半球の下前頭回(「ブローカ野」)および島皮質の萎縮と関連しています、上側頭回に沿って、およびその周囲にさまざまな伸展を伴います。
また、分類があり、lvPPA、ロゴペニックバリアント原発性進行性失語症。nfvPPA、非流暢非文法変異型原発性進行性失語症。svPPA、意味論的変異型原発性進行性失語症の3つがあります。

⑴Marshall CR, Hardy CJD, Volkmer A, Russell LL, Bond RL, Fletcher PD, Clark CN, Mummery CJ, Schott JM, Rossor MN, Fox NC, Crutch SJ, Rohrer JD, Warren JD. Primary progressive aphasia: a clinical approach. J Neurol. 2018 Jun;265(6):1474-1490. doi: 10.1007/s00415-018-8762-6. Epub 2018 Feb 1. PMID: 29392464; PMCID: PMC5990560.
ex、読み書き能力 n、命名。nm、非言語記憶。pr、フレーズの繰り返し。s、文章処理。
v、視覚空間。vm、言語記憶。wm、単語の意味。wr、単語の繰り返し

これを見ると、単に一つの失語症ではないことが分かります。
・nfvPPA:言語理解は可能だが復唱ができない、顕著な言語失行がある
・svPPA:言語記憶、単語の意味理解が障害されている
・lvPPA:文の復唱は可能で、文法の間違いが多い


英語の図をなんとか翻訳しました
文法の間違いがあるかもしれませんが、
PPAは4種類に分類できます。

PPA では、数か月から数年にわたって徐々に、しかし容赦なく低下していくのが一般的ですが、特に人前でのスピーチや電話や会議での会話など、言語体系に負担がかかる状況下では、明らかな変動が見られることは珍しいことではありません。

⑴Marshall CR, Hardy CJD, Volkmer A, Russell LL, Bond RL, Fletcher PD, Clark CN, Mummery CJ, Schott JM, Rossor MN, Fox NC, Crutch SJ, Rohrer JD, Warren JD. Primary progressive aphasia: a clinical approach. J Neurol. 2018 Jun;265(6):1474-1490. doi: 10.1007/s00415-018-8762-6. Epub 2018 Feb 1. PMID: 29392464; PMCID: PMC5990560.

緊張する場では顕著な症状が出るようですね。
ここで、PPAに関する他の論文も参考にしてみましょう。

⑴PPA患者の言葉の流暢さは、前頭斜走路の変性と関連している
⑵左FATの損傷が発語失行と関連している。
 WABと有意な相関、運動言語評価の失語スコアと有意な関連性を示した。
 構音障害との間には関係が見つからなかった。
 FATが、脳卒中後の発語失行の予測因子であることを示唆している
⑶FATの障害程度は文法障害と相関が無く、発語の開始・自発性の障害の
 観点で非流暢性に関与していると思われる。

⑴ Catani M, Mesulam MM, Jakobsen E, et al. A novel frontal pathway underlies verbal fluency in primary progressive aphasia. Brain. 2013;136(Pt 8):2619-2628. doi:10.1093/brain/awt163

⑵ Zhong AJ, Baldo JV, Dronkers NF, Ivanova MV. The unique role of the frontal aslant tract in speech and language processing. Neuroimage Clin. 2022;34:103020. doi: 10.1016/j.nicl.2022.103020. Epub 2022 Apr 26. PMID: 35526498; PMCID: PMC9095886.

⑶ 石合 純夫 (2022) 高次脳機能障害学 第3版 p48

PPAの評価は難しそうですね。
ただやはり、前頭斜走路の変化と関連しているようです。

他には、超皮質性運動失語を振り返ってみます。


学生の頃が懐かしいです。
超皮質性運動失語は
言語理解・復唱共に良好なので、非流暢な失語となります。


次は、前頭斜走路の接続する、補足運動野、前補足運動野、下前頭回(三角部/弁蓋部)の機能について振り返ります。

まずは補足運動野です。
自発的な、行為の開始や、予期的姿勢調節(APA's)に関わるようですね。

8)平山恵造(2015) 脳血管障害と神経心理学 p102
9) 河村 満 (2021) 連合野ハンドブック 完全版 p53
10) Fried I, Katz A, McCarthy G, et al. Functional organization of human supplementary motor cortex studied by electrical stimulation. J Neurosci. 1991;11
(11):3656-3666. doi:10.1523/JNEUROSCI.11-11-03656.1991 11) (Eric et al., 2022) カンデル神経科学第2版 p833 図34-2
12)高草木 薫, 大脳基底核による運動の制御, 臨床神経学, 2009, 49 巻, 6 号, p. 325-334, 公開日 2009/07/08, Online ISSN 1882-0654, Print ISSN 0009-918X, https://doi.org/10.5692/clinicalneurol.49.325, https://www.jstage.jst.go.jp/article/clinicalneurol/49/6/49_6_325/_article/-char/ja,

次は補足運動野の障害についてです。
運動の開始や抑制の困難さや、無動症などの動作の開始障害に加え
強制把握などの抑制された反射の様なものが脱抑制する障害、
APA'sに関する姿勢障害にも関与しています。
また、運動を開始したい気持ちも減少する可能性があり、発話の減少もみられています。

13) Krainik, A., et al., Role of the supplementary motor area in motor deficit following medial frontal lobe surgery. Neurology, 2001. 57(5): p. 871-8.
14) Bleasel, A., Y. Comair, and H.O. Luders, Surgical ablations of the mesial frontal lobe in humans. Adv Neurol, 1996. 70: p. 217-35.
15) Nagaratnam, N., et al., Akinetic mutism following stroke. J Clin Neurosci,2004. 11(1): р. 25-30.
16) 丸石正治 機能解剖高次脳機能障害 p188
17)渡邊 裕文, 中枢神経系の機能解剖, 関西理学療法, 2005, 5 巻, p. 23-29, 公開日 2006/01/26, Online ISSN 1349-9572, Print ISSN 1346-9606, https://doi.org/10.11354/jkpt.5.23

次は前補足運動野についてです。
補足運動野と同じような機能に加え、眼球運動にも関わっていますね。
より高次な運動の調整を行っている印象があります。

18) Grafton, S.T., et al., Human functional anatomy of visually guided finger movements. Brain, 1992. 115 (Pt 2): p. 565-87.
19) Parton, A., et al., Role of the human supplementary eye field in the control of saccadic eye movements. Neuropsychologia, 2007. 45(5): p. 997-1008.
20) Tanji, J., K. Kurata, and K. Okano, The effect of cooling of the supplemer motor cortex and adjacent cortical areas. Exp Brain Res, 1985. 60(2) p. 4
21) Mita, A., et al., Interval time coding by neurons in the presupplementar, and supplementary motor areas. Nat Neurosci, 2009. 12(4): p. 502-7.
22) Yoshida, K., et al., Representation of others' action by neurons in monkey medial frontal cortex. Curr Biol, 2011. 21(3): p. 249-53.
23) Grafton, S.T., et al., Functional anatomy of human procedural learning determined with regional cerebral blood flow and PET. J Neurosci, 1992. 12(7):p. 2542-8.
24) Davide The Agent Brain: A Review of Non-invasive Brain Stimulation Studies on Sensing Agency 2017
25) (河村 満(2021). 連合野ハンドブック p53~54)

次は下前頭回三角部の機能と障害についてです。
いわゆるブローカ野で、音韻認識や発語を行っています。
調べると文法処理や音韻解読にも携わっていたり、
四肢運動面の右手首の運動感覚と視覚の統合という難しい機能も担っています。

32) Georgiewa P, Rzanny R, Hopf JM, et al. fMRI during word processing in dyslexic and normal reading children. Neuroreport. 1999;10(16):3459-3465. doi:10.1097/00001756-199911080-00036
33) Baddeley A. Recent developments in working memory. Curr Opin Neurobiol. 1998;8(2):234-238. doi:10.1016/s0959-4388(98)80145-1
34) Badre D, Wagner AD. Left ventrolateral prefrontal cortex and the cognitive control of memory. Neuropsychologia. 2007;45(13):2883-2901. doi:10.1016/j.neuropsychologia.2007.06.015
35) Newman SD, Just MA, Keller TA, Roth J, Carpenter PA. Differential effects of syntactic and semantic processing on the subregions of Broca's area. Brain Res Cogn Brain Res. 2003;16(2):297-307. doi:10.1016/s0926-6410(02)00285-9
36) Papathanassiou D, Etard O, Mellet E, Zago L, Mazoyer B, Tzourio-Mazoyer N. A common language network for comprehension and production: a contribution to the definition of language epicenters with PET. Neuroimage. 2000;11(4):347-357. doi:10.1006/nimg.2000.0546
37) Caplan D, Alpert N, Waters G. PET studies of syntactic processing with auditory sentence presentation. Neuroimage. 1999;9(3):343-351. doi:10.1006/nimg.1998.0412
38) Rumsey JM, Zametkin AJ, Andreason P, et al. Normal activation of frontotemporal language cortex in dyslexia, as measured with oxygen 15 positron emission tomography. Arch Neurol. 1994;51(1):27-38. doi:10.1001/archneur.1994.00540130037011
39) (河村 満(2021). 連合野ハンドブック p80)39
40) Georgiewa P, Rzanny R, Hopf JM, et al. fMRI during word processing in dyslexic and normal reading children. Neuroreport. 1999;10(16):3459-3465. doi:10.1097/00001756-199911080-00036
41) Rumsey JM, Horwitz B, Donohue BC, Nace K, Maisog JM, Andreason P. Phonological and orthographic components of word recognition. A PET-rCBF study. Brain. 1997;120 ( Pt 5):739-759. doi:10.1093/brain/120.5.739
42) (河村 満(2021). 連合野ハンドブック p80)39 43) Mechelli A, Crinion JT, Long S, et al. Dissociating reading processes on the basis of neuronal interactions. J Cogn Neurosci. 2005;17(11):1753-1765. doi:10.1162/089892905774589190 44) Hagura N, Oouchida Y, Aramaki Y, et al:Visuokinesthetic perception of hand movement is mediated by cerebro-cerebellar interaction between the left cerebellum and right parietal cortex. Cereb Cortex 19:176-186, 2009


さらに他にも機能があり、言語翻訳や、構文の基礎にも関与しています。
また、パニック障害において皮質の減少が認められています。
まだまだ調べれば何か出てきそうですね。

45) Elmer S. Broca Pars Triangularis Constitutes a "Hub" of the Language-Control Network during Simultaneous Language Translation. Front Hum Neurosci. 2016;10:491. Published 2016 Sep 29. doi:10.3389/fnhum.2016.00491
46) Kang EK, Lee KS, Lee SH. Reduced Cortical Thickness in the Temporal Pole, Insula, and Pars Triangularis in Patients with Panic Disorder. Yonsei Med J. 2017 Sep;58(5):1018-1024. doi: 10.3349/ymj.2017.58.5.1018. PMID: 28792148; PMCID: PMC5552629.
47) Matchin WG. A neuronal retuning hypothesis of sentence-specificity in Broca's area. Psychon Bull Rev. 2018;25(5):1682-1694. doi:10.3758/s13423-017-1377-6


今度は下前頭回仲間の弁蓋部さんです。
こちらは発話に関与する部分が強いですね。
また、命名がどこまでよくなるかの予測因子になるみたいです。

48) Schremm A, Novén M, Horne M, Söderström P, van Westen D, Roll M. Cortical thickness of planum temporale and pars opercularis in native language tone processing. Brain Lang. 2018;176:42-47. doi:10.1016/j.bandl.2017.12.001
49) Zaccarella E, Friederici AD. Merge in the Human Brain: A Sub-Region Based Functional Investigation in the Left Pars Opercularis. Front Psychol. 2015 Nov 27;6:1818. doi: 10.3389/fpsyg.2015.01818. PMID: 26640453; PMCID: PMC4661288.
50) Ripamonti E, Aggujaro S, Molteni F, et al. : The anatomical foundations of acquired reading disorders : a neuropsychological verification of the dual-route model of reading. Brain Lang, 134 : 44-67, 2014.
51) (大槻美佳 2008 臨床神経,48:853―856, 2008)
52) Wilmskoetter J, He X, Caciagli L, Jensen JH, Marebwa B, Davis KA, Fridriksson J, Basilakos A, Johnson LP, Rorden C, Bassett D, Bonilha L. Language Recovery after Brain Injury: A Structural Network Control Theory Study. J Neurosci. 2022 Jan 26;42(4):657-669. doi: 10.1523/JNEUROSCI.1096-21.2021. Epub 2021 Dec 6. PMID: 34872927; PMCID: PMC8805614.


次は下前頭回弁蓋部の機能と障害です。
女性のインターネット使用と体積・灰白質に相関関係があるとあります。
このことは、論文をみたところ、男女ともにインターネット使用障害は灰白質の体積と負の相関がみられるとのことです。男性はインターネットをゲームに使う場合が多く障害場所が女性とは違い、女性はインターネットを主にコミュニケーションのために使うため、下前頭回弁蓋部と関連するのではないかとの報告です。
ASDで弁蓋部と社会的スケールとの関係に負の相関があることから、社会性にも必要不可欠な部位となっていますね。

53) Inhóf O, Zsidó AN, Perlaki G, et al. Internet addiction associated with right pars opercularis in females. J Behav Addict. 2019;8(1):162-168. doi:10.1556/2006.7.2018.135

54) Fridriksson J, Fillmore P, Guo D, Rorden C. Chronic Broca's Aphasia Is Caused by Damage to Broca's and Wernicke's Areas. Cereb Cortex. 2015;25(12):4689-4696. doi:10.1093/cercor/bhu152

55) Dapretto M, Davies MS, Pfeifer JH, et al. Understanding emotions in others: mirror neuron dysfunction in children with autism spectrum disorders. Nat Neurosci. 2006;9(1):28-30. doi:10.1038/nn1611


次は、前頭斜走路の関連する機能について深堀していきます。

56) Bombonato C, Cipriano E, Pecini C, et al. Relationship among Connectivity of the Frontal Aslant Tract, Executive Functions, and Speech and Language Impairment in Children with Childhood Apraxia of Speech. Brain Sci. 2022;13(1):78. Published 2022 Dec 31. doi:10.3390/brainsci13010078


まずは前頭斜走路の側性化についてです。
左:言語機能、右:遂行機能、抑制機能 となっていますね。
tDCSによって流暢さが改善しているようですね。
tDCSとは、経頭蓋直流電気刺激法のことで頭皮上に貼り付けた電極に微弱な電流を流すことで身体や脳の機能に影響を与えるものです。
これは、効果が向上する報告、変化しない報告、低下する報告など様々です。今回は、流暢さに影響したいみたいですね。

次にFATがちゃんとあるのか、調べた解剖の研究です。
メキシコで行われました。
前補足運動野と補足運動野、弁蓋部、三角部など概ね一致していますね。
※腹側運動前野は他の神経束で詳細に調べました。(今回は忘れました。)
また、側性化はASDでもみられていますね。

57)Dick AS, Garic D, Graziano P, Tremblay P. The frontal aslant tract (FAT) and its role in speech, language and executive function. Cortex. 2019;111:148-163. doi:10.1016/j.cortex.2018.10.015

58) Marian-Magaña R, González-González AC, Miranda-García LA, et al. Frontal aslant tract: Anatomy and tractography description in the Mexican population. Surg Neurol Int. 2022;13:349. Published 2022 Aug 12. doi:10.25259/SNI_208_2022

59) Chenausky K, Kernbach J, Norton A, Schlaug G. White Matter Integrity and Treatment-Based Change in Speech Performance in Minimally Verbal Children with Autism Spectrum Disorder. Front Hum Neurosci. 2017 Apr 5;11:175. doi: 10.3389/fnhum.2017.00175. PMID: 28424605; PMCID: PMC5380725.


ここでまたPPAがでてきました。
発語失行やPPAと関連しているようですね。
FATの損傷からみた場合、補足運動野の影響もあって発語の開始や自発性、非流暢性に関与しているようですね。

60) Catani M, Mesulam MM, Jakobsen E, et al. A novel frontal pathway underlies verbal fluency in primary progressive aphasia. Brain. 2013;136(Pt 8):2619-2628. doi:10.1093/brain/awt163

61) Zhong AJ, Baldo JV, Dronkers NF, Ivanova MV. The unique role of the frontal aslant tract in speech and language processing. Neuroimage Clin. 2022;34:103020. doi: 10.1016/j.nicl.2022.103020. Epub 2022 Apr 26. PMID: 35526498; PMCID: PMC9095886.

62)石合 純夫 (2022) 高次脳機能障害学 第3版 p48


次はSMA症候群についてです。
運動のプログラミングを司るので、あらゆる運動、開始の障害が起きます。
脳腫瘍の手術等でFATを完全に切断した場合、永続的なSMA症候群を呈する場合もあるようです。ただ、有意差はありません。

63) Rostomily RC, Berger MS, Ojemann GA, Lettich E. Postoperative deficits and functional recovery following removal of tumors involving the dominant hemisphere supplementary motor area. J Neurosurg. 1991;75(1):62-68. doi:10.3171/jns.1991.75.1.0062

64)Briggs RG, Allan PG, Poologaindran A, et al. The Frontal Aslant Tract and Supplementary Motor Area Syndrome: Moving towards a Connectomic Initiation Axis. Cancers (Basel). 2021;13(5):1116. Published 2021 Mar 5. doi:10.3390/cancers13051116


FATと言語機能についてですが、数多く(この画像以上)の論文で言語流暢性に関与することがしめされています。
SLFとも言語について関わっているようですね。
SLFにも下前頭回に繋がる線維があった気がします。(後のnoteにて)
流暢性に関与するため吃音とも関連していますね。
電気刺激で錯語と発話停止を誘発することから、適切な音韻選択と発話開始に関与すると思われます。

65) Neef NE, Anwander A, Bütfering C, Schmidt-Samoa C, Friederici AD, Paulus W, Sommer M. Structural connectivity of right frontal hyperactive areas scales with stuttering severity. Brain. 2018 Jan 1;141(1):191-204. doi: 10.1093/brain/awx316. PMID: 29228195; PMCID: PMC5837552.

66) Blecher T, Miron S, Schneider GG, Achiron A, Ben-Shachar M. Association Between White Matter Microstructure and Verbal Fluency in Patients With Multiple Sclerosis. Front Psychol. 2019 Jul 18;10:1607. doi: 10.3389/fpsyg.2019.01607. PMID: 31379663; PMCID: PMC6657651.

67) Cochereau J, Lemaitre AL, Wager M, Moritz-Gasser S, Duffau H, Herbet G. Network-behavior mapping of lasting executive impairments after low-grade glioma surgery. Brain Struct Funct. 2020;225(8):2415-2429. doi:10.1007/s00429-020-02131-5

68) Keser Z, Hillis AE, Schulz PE, Hasan KM, Nelson FM. Frontal aslant tracts as correlates of lexical retrieval in MS. Neurol Res. 2020 Sep;42(9):805-810. doi: 10.1080/01616412.2020.1781454. Epub 2020 Jun 19. PMID: 32552566; PMCID: PMC7429310.

69) Yablonski M, Menashe B, Ben-Shachar M. A general role for ventral white matter pathways in morphological processing: Going beyond reading. Neuroimage. 2021;226:117577. doi:10.1016/j.neuroimage.2020.117577 70) Obayashi S. Cognitive and linguistic dysfunction after thalamic stroke and recovery process: possible mechanism. AIMS Neurosci. 2021 Dec 20;9(1):1-11. doi: 10.3934/Neuroscience.2022001. PMID: 35434274; PMCID: PMC8941189.

71) Li M, Zhang Y, Song L, et al. Structural connectivity subserving verbal fluency revealed by lesion-behavior mapping in stroke patients. Neuropsychologia. 2017;101:85-96. doi:10.1016/j.neuropsychologia.2017.05.008

72) Kronfeld-Duenias V, Amir O, Ezrati-Vinacour R, Civier O, Ben-Shachar M. The frontal aslant tract underlies speech fluency in persistent developmental stuttering. Brain Struct Funct. 2016;221(1):365-381. doi:10.1007/s00429-014-0912-8

73) Rutten GM, Landers MJF, De Baene W, Meijerink T, van der Hek S, Verheul JHB. Executive functional deficits during electrical stimulation of the right frontal aslant tract. Brain Imaging Behav. 2021 Oct;15(5):2731-2735. doi: 10.1007/s11682-020-00439-8. Epub 2021 Jan 19. PMID: 33462780; PMCID: PMC8500906


なんとアルツハイマー病のFATのFA値が視空間認知機能と正の相関を示して、構成失行に関連しているようです。これはMMSEの最終問題の減点や手の形の模倣ができないことに関連していそうですね。
他には、USNのボクセル研究にて、視空間注意障害に影響しているようです。右のFATでしょうか。
また、前頭葉の腫瘍でFATが減少するとROCFの得点低下がみられるそうです。視空間注意→視覚記憶に影響していそうですね。

74)Serra L, Gabrielli GB, Tuzzi E, et al. Damage to the Frontal Aslant Tract Accounts for Visuo-Constructive Deficits in Alzheimer's Disease. J Alzheimers Dis. 2017;60(3):1015-1024. doi:10.3233/JAD-170638

75) Takamura Y, Fujii S, Ohmatsu S, et al. Interaction between spatial neglect and attention deficit in patients with right hemisphere damage. Cortex. 2021;141:331-346. doi:10.1016/j.cortex.2021.03.036

76)Mitolo M, Zoli M, Testa C, et al. Neuroplasticity Mechanisms in Frontal Brain Gliomas: A Preliminary Study. Front Neurol. 2022;13:867048. Published 2022 Jun 3. doi:10.3389/fneur.2022.867048


FATは遂行機能やその構成要素のワーキングメモリにも影響していますね。
また、抑制にも強く関わっているようですね。
exFATというのはより前方のFATという意味です。

77)Landers MJF, Meesters SPL, van Zandvoort M, de Baene W, Rutten GM. The frontal aslant tract and its role in executive functions: a quantitative tractography study in glioma patients. Brain Imaging Behav. 2022 Jun;16(3):1026-1039. doi: 10.1007/s11682-021-00581-x. Epub 2021 Oct 30. PMID: 34716878; PMCID: PMC9107421.

78) Varriano F, Pascual-Diaz S, Prats-Galino A. When the FAT goes wide: Right extended Frontal Aslant Tract volume predicts performance on working memory tasks in healthy humans. PLoS One. 2018;13(8):e0200786. Published 2018 Aug 1. doi:10.1371/journal.pone.0200786


ボクセル研究においてはワーキングメモリと相関しています。前の知見とも一致していますね。
なんと右が注意、流暢さに関与し、左では観察されなかったともありますね。脳腫瘍だと何か違うのかもしれませんが、n数によりそうですね。
右FATの129人の追跡により実行機能障害と関連していることも示されています。前の知見とも一致ですね。
流動性知能との間にも重要な関連性があるようです。たしかに、流暢性などに関与するので損傷で流暢に知識を出せなくなるかもしれないですね。

79)Varriano F, Pascual-Diaz S, Prats-Galino A. Distinct Components in the Right Extended Frontal Aslant Tract Mediate Language and Working Memory Performance: A Tractography-Informed VBM Study. Front Neuroanat. 2020;14:21. Published 2020 Apr 21. doi:10.3389/fnana.2020.00021

80) Landers MJF, Meesters SPL, van Zandvoort M, de Baene W, Rutten GM. The frontal aslant tract and its role in executive functions: a quantitative tractography study in glioma patients. Brain Imaging Behav. 2022;16(3):1026-1039. doi:10.1007/s11682-021-00581-x

81)Garic D, Broce I, Graziano P, Mattfeld A, Dick AS. Laterality of the frontal aslant tract (FAT) explains externalizing behaviors through its association with executive function. Dev Sci. 2019 Mar;22(2):e12744. doi: 10.1111/desc.12744. Epub 2018 Sep 27. PMID: 30159951; PMCID: PMC9828516

82) Chen PY, Chen CL, Hsu YC; Cam-CAN, Tseng WI. Fluid intelligence is associated with cortical volume and white matter tract integrity within multiple-demand system across adult lifespan. Neuroimage. 2020;212:116576. doi:10.1016/j.neuroimage.2020.116576


次は、心の理論(ToM)という機能の研究です。
心の理論というのは、サリーアン課題が有名ですね。
他人視点の行動や気持ちの推測みたいな感じです。
FATと下前頭回がこのToMに関わっているようですね。
脳卒中の損傷においても心に関するテストの低下とも関連しているので、精神機能面とも関与するかもしれません。


83) Tettamanti M, Vaghi MM, Bara BG, Cappa SF, Enrici I, Adenzato M. Effective connectivity gateways to the Theory of Mind network in processing communicative intention. Neuroimage. 2017;155:169-176. doi:10.1016/j.neuroimage.2017.04.050

84) Domínguez D JF, Nott Z, Horne K, et al. Structural and functional brain correlates of theory of mind impairment post-stroke. Cortex. 2019;121:427-442. doi:10.1016/j.cortex.2019.0
9.01
85)Lo YC, Chen YJ, Hsu YC, Chien YL, Gau SS, Tseng WI. Altered frontal aslant tracts as a heritable neural basis of social communication deficits in autism spectrum disorder: A sibling study using tract-based automatic analysis. Autism Res. 2019;12(2):225-238. doi:10.1002/aur.2044


次は聴覚と音楽機能についてです。
言語にも関与していることから聴覚ネットワークにも関与しているようですね。
また、音楽の創造性にSMAやIFGが関与することから、連携としてFATが重要になってくる可能性がありますね。
FAT損傷は失音にも関与するようですね。

86) Kuiper JJ, Lin YH, Young IM, et al. A parcellation-based model of the auditory network. Hear Res. 2020;396:108078. doi:10.1016/j.heares.2020.108078

87) David M. Bashwiner, Donna K. Bacon, Christopher J. Wertz, Ranee A. Flores, Muhammad O. Chohan, Rex E. Jung,Resting state functional connectivity underlying musical creativity,NeuroImage,Volume 218,2020,116940,ISSN 1053 8119,https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2020.116940 (https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811920304262)

88) Särkämö T, Sihvonen AJ. Golden oldies and silver brains: Deficits, preservation, learning, and rehabilitation effects of music in ageing-related neurological disorders. Cortex. 2018;109:104-123. doi:10.1016/j.cortex.2018.08.034


次は精神障害についてです。
他の線維も絡めながらですが、病態失認にも関連することが示されています。
また、抑うつやベックうつ検査との相関もみられ、精神障害にも関与しているようです。

89)Monai E, Bernocchi F, Bisio M, Bisogno AL, Salvalaggio A, Corbetta M. Multiple Network Disconnection in Anosognosia for Hemiplegia. Front Syst Neurosci. 2020 Apr 29;14:21. doi: 10.3389/fnsys.2020.00021. PMID: 32410965; PMCID: PMC7201993. 

90) Strain J, Didehbani N, Cullum CM, Mansinghani S, Conover H, Kraut MA, Hart J Jr, Womack KB. Depressive symptoms and white matter dysfunction in retired NFL players with concussion history. Neurology. 2013 Jul 2;81(1):25-32. doi: 10.1212/WNL.0b013e318299ccf8. Epub 2013 May 24. PMID: 23709590; PMCID: PMC3770203


FATの損傷の報告では、一過性でかつ症状がないという意見もありますが、
何らかの言語障害が生じる(文の生成、流暢性)可能性が高いですね。
一過性か長期的かに関しては、上記論文に13%が有意差はないが長期的に症状がみられているので、絶対とは言い切れないところかもしれません。

91) Young JS, Morshed RA, Mansoori Z, Cha S, Berger MS. Disruption of Frontal Aslant Tract Is Not Associated with Long-Term Postoperative Language Deficits. World Neurosurg. 2020 Jan;133:192-195. doi: 10.1016/j.wneu.2019.09.128. Epub 2019 Sep 28. PMID: 31574328.

92) Chernoff BL, Teghipco A, Garcea FE, Sims MH, Paul DA, Tivarus ME, Smith SO, Pilcher WH, Mahon BZ. A Role for the Frontal Aslant Tract in Speech Planning: A Neurosurgical Case Study. J Cogn Neurosci. 2018 May;30(5):752-769. doi: 10.1162/jocn_a_01244. Epub 2018 Mar 23. PMID: 29569513.


続いて損傷についてですが、SMAだけでも単語検索が困難になることがあるようです。
また、手術の1か月後でも流暢性スコアとの相関があるため、超長期的な予後はわからないにしても、数か月という単位の長期であれば障害は持続する可能性がありますね。
3つ目の論文では、様々な部位の脳病変で、視覚性注意、覚醒、抑制に有意に多くの障害が残ると述べています。
このことから、FATは一過性の場合もあれば、長期的な障害になる可能性が考えられます。さらに他の線維や部位と一緒に損傷することがあると長期化しやすいのかもしれません。

93) Obayashi S. Cognitive and linguistic dysfunction after thalamic stroke and recovery process: possible mechanism. AIMS Neurosci. 2021 Dec 20;9(1):1-11. doi: 10.3934/Neuroscience.2022001. PMID: 35434274; PMCID: PMC8941189.

94) Zigiotto L, Vavassori L, Annicchiarico L, Corsini F, Avesani P, Rozzanigo U, Sarubbo S, Papagno C. Segregated circuits for phonemic and semantic fluency: A novel patient-tailored disconnection study. Neuroimage Clin. 2022;36:103149. doi: 10.1016/j.nicl.2022.103149. Epub 2022 Aug 9. PMID: 35970113; PMCID: PMC9400120.

95) Kaufmann BC, Cazzoli D, Pastore-Wapp M, et al. Joint impact on attention, alertness and inhibition of lesions at a frontal white matter crossroad. Brain. 2023;146(4):1467-1482. doi:10.1093/brain/awac359


今度はセイリエンスネットワーク(Salience Network : SN)についてです。
今注目を浴びつつあるネットワークについてですね。
脳は常にネットワークとして複数同時に働いていると言われています。
この論文内では
・デフォルトモードネットワーク:安静時のネットワーク、空想や内省
・セイリエンスセットワーク:顕著な刺激に対する反応、ネットワークの切り替え
・ワーキングメモリネットワーク/実行機能ネットワーク:ワーキングメモリや多くの高次認知課題遂行に際して重要な役割を果たす
この3つが出ていますね。
中でもセイリエンスネットワークに注目していて、FATが半分程度を形成して、その役割を促進する線維である可能性を述べています。

96)越野 英哉, 苧阪 満里子, 苧阪 直行, 脳内ネットワークの競合と協調, 心理学評論, 2013, 56 巻, 3 号, p. 376-391, 公開日 2018/08/18, Online ISSN 2433-4650, Print ISSN 0386-1058, https://doi.org/10.24602/sjpr.56.3_376, https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/56/3/56_376/_article/-char/ja

97) Briggs RG, Young IM, Dadario NB, Fonseka RD, Hormovas J, Allan P, Larsen ML, Lin YH, Tanglay O, Maxwell BD, Conner AK, Stafford JF, Glenn CA, Teo C, Sughrue ME. Parcellation-based tractographic modeling of the salience network through meta-analysis. Brain Behav. 2022 Jul;12(7):e2646. doi: 10.1002/brb3.2646. Epub 2022 Jun 22. PMID: 35733239; PMCID: PMC9304834.


次は吃音との関係です。
吃音患者の検査において、FATの平均拡散量(MD値)が増加し、それが流暢さと相関関係にあることが報告されています。
これは一年間治療をしても白質線維に変化を示さないことも報告されています。吃音自体は良くなるかもしれませんが、FAT等の線維には変化がないようですね。

98) 岡崎 俊太郎, 武田 湖太郎, 吃音と聴覚フィードバック, 脳科学とリハビリテーション, 2014, 14 巻, p. 35-40, 公開日 2018/10/22, Online ISSN 2432-3489, Print ISSN 1349-0044, https://doi.org/10.24799/jrn.140204, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrn/14/0/14_140204/_article/-char/ja, 

99) Kronfeld-Duenias V, Amir O, Ezrati-Vinacour R, Civier O, Ben-Shachar M. The frontal aslant tract underlies speech fluency in persistent developmental stuttering. Brain Struct Funct. 2016 Jan;221(1):365-81. doi: 10.1007/s00429-014-0912-8. Epub 2014 Oct 26. PMID: 25344925.

100) Neef NE, Korzeczek A, Primaßin A, et al. White matter tract strength correlates with therapy outcome in persistent developmental stuttering. Hum Brain Mapp. 2022;43(11):3357-3374. doi:10.1002/hbm.25853


最後はワーキングメモリについてです。
特に高齢者のFATがワーキングメモリと関連しているようですね。
高齢になると白質のFA値は下がっていくと思うので、脳全体が関わってる可能性もありますね。

101) Rizio AA, Diaz MT. Language, aging, and cognition: frontal aslant tract and superior longitudinal fasciculus contribute toward working memory performance in older adults. Neuroreport. 2016 Jun 15;27(9):689-93. doi: 10.1097/WNR.0000000000000597. PMID: 27138951; PMCID: PMC4955947.

102) Song SK, Sun SW, Ramsbottom MJ, Chang C, Russell J, Cross AH. Dysmyelination revealed through MRI as increased radial (but unchanged axial) diffusion of water. Neuroimage. 2002;17(3):1429-1436. doi:10.1006/nimg.2002.1267

103) Budde MD, Xie M, Cross AH, Song SK. Axial diffusivity is the primary correlate of axonal injury in the experimental autoimmune encephalomyelitis spinal cord: a quantitative pixelwise analysis. J Neurosci. 2009 Mar 4;29(9):2805-13. doi: 10.1523/JNEUROSCI.4605-08.2009. PMID: 19261876; PMCID: PMC2673458.


いかがだったでしょうか。
今回は前頭斜走路を主役にして話してみました。
疑問点や間違いがある場合はコメントでお知らせください。
また、相談でも雑談でも構いません!
では、次はまた違う白質線維の説明でお会いしましょう!

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