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認知予備力(CR)と認知機能、認知症について~論文紹介~
初めまして、くろと申します。
臨床4年目、回復期リハビリテーション勤務の作業療法士です。
今回は、認知予備力についての論文紹介を行いたいと思います。
認知予備力とは
まず、認知予備力/予備能とは何なのでしょうか。
認知予備力については、以下の論文で説明されています。
脳内に病的な変化を有していても,臨床的に認知症を発症せずに機能を保つ能力として,認知予備能(cognitivereserve),脳予備能(brainreserve),脳の維持(brainmaintenance)などの概念がある。
脳の衰えへの耐性を想定する予備能仮説で,予備能の代理尺度として用いられる指標には,比較的測定が容易な脳容積や頭囲,脳重量という形態学的パラメーター,教育(教育年数や教育の質),職業内容の複雑さ,IQや識字率,精神的活動,社会的活動,身体的活動などがある。
一般的な意味での予備能は,臓器の機能が低下しても,その低下を補って一定のパフォーマンスを維持することができる能力を指す。認知症の領域では,脳内に病的な変化を有していても,認知機能低下に抗ういくつかの概念が想定されており,認知予備能(cognitivereserve),脳予備能(brainreserve),脳の維持(brainmaintenance)などがこれにあたる。
認知予備力 (CR) の概念は、脳の病状や脳の老化に直面しても認知機能を維持する能力
簡単にいうと認知機能のことで、認知予備力が高いことで認知機能が低下
する病理学的変化があっても認知機能が高いために認知機能が保たれやすいということですね。
認知予備力についての報告
1980年代ごろから、病理学的変化があっても認知機能が大きく低下していなかった症例が報告されていたようです。
予備能に関連して認知症のリスクとして、下記の項目があります
・教育年数が長いことは認知症低リスクと関連
・知的活動や職業の複雑さは,認知症低リスクと関連
・知的,または社会的刺激をもたらす活動は,認知症低リスクと関連
・社会参加の少なさ,社会交流の少なさ,孤独は認知症高リスクと関連
・高い身体活動は認知症低リスクと関連
ナン・スタディでは,米国ノートルダム教育修道女会に所属する75歳から106歳までの修道女678名の克明な記録と定期的な身体・精神能力検査,献脳によって多くの知見がもたらされた。
控えめな食生活,規則正しい生活様式,喫煙や飲酒機会のない日常を過ごし,生前の認知機能検査で認知症ではないとされた被検者の12%に,死後脳の解剖の結果,重度のAD病理変化が認められた。
101歳で亡くなったシスター・メアリーは,101歳になった直後の認知機能テストでは素晴らしい成績をおさめたにもかかわらず,死後脳は高度に萎縮し重さは870g(成人女性標準1200~1300g),タウタンパク質の重合体である神経原線維変化は海馬に平均の約3倍認められた。
デヴィッド・スノウドン著:藤井留美訳:100歳の美しい脳―アルツハイマー病解明に手をさしのべた修道女たち.DHC,東京,2004(初版)
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SternY,Arenaza―UrquijoEM,Bartrés―FazD, etal:ResilienceandProtectiveFactorsPIAEmpiricalDefinitionsandConceptualFrameworks Workgroup:Whitepaper:Definingandinvestigatingcognitivereserve,brainreserve,andbrain maintenance.AlzheimersDement 16:13051311,2020
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大脳白質病変について
認知予備力が低いことで、WMH/WMLという大脳白質病変により、認知機能検査のMMSE、軽度認知障害の検査であるMoCAと負の相関がみられています。
認知予備力が高い場合は、相関しないという結果となっています。
これには、前頭―頭頂ネットワークとの関連も示唆されています。
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CR(認知予備力)が低いWMH被験者では、WMH体積はMMSE・MoCAと負の相関がみられた。
一方、CRが高い患者ではそのような関連性は示されなかった。
CRがWMHと関連し、前頭―頭頂ネットワークの機能的接続性を調節している。
WMHはCRが低い被験者においてのみ認知機能と負の相関があり、CRが高い被験者では相関がない。
白質信号強度亢進症患者の認知機能および前頭頭頂葉制御ネットワークに対する認知予備力代理の影響についての研究では、下記の結果となりました。
教育は、 認知障害(CI)の有無にかかわらずWMH被験者の認知機能と正の相関があったが、CIのない被験者においてのみ、労働活動と余暇活動が認知機能と正の相関を示した。
同様に、教育は両方の WMH グループで両側 FPCN (前頭―頭頂ネットワーク) と関連していましたが、労働活動と余暇活動は主に CI なしのグループで両側 FPCN と関連していました。
さらにFPCNは、両方のWMHグループにおいて教育と認知機能との関連を部分的に仲介した。
作業活動・余暇活動は、健常群にのみMoCAスコアと有意に関連していた。
【結論】
教育は、認知状態にかかわらず、WMH 対象者の認知機能にプラスの影響を示しましたが、作業活動と余暇活動は、CI のない対象者にのみ有益な効果を示しました。
FPCN は、認知機能に対する教育の有益な効果を仲介しました。
おわりに
教育や社会的活動・参加はその後の認知機能や認知症のリスクに大きく影響することが分かりました。
この認知予備力は、病変や損傷による認知機能の予後予測や認知機能の低下の程度などを推測することができます。
しかし、評価尺度がなく、予後については推測の域を出ないかもしれません。
医療者が関わる場合、入院や外来などでの認知機能の検査で、ある程度の認知機能予備力が判明すると思います。
私が関わった患者様では、大脳白質病変が高度であるにもかかわらず、認知機能検査は満点に近く、遂行機能やIQの検査も問題なく正答された方がおり、大脳白質病変や認知予備力について考えるきっかけにもなりました。
自分の認知予備力を高めながら、日々精進していきたいと考えています。
ここまで見ていただいて、いかがだったでしょうか。
引き続きまた論文紹介を行っていくので興味があれば見ていただけると嬉しいです。
ありがとうございました!