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2024年4月の記事一覧
【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第4話
彼女は、否定とも肯定とも取れるあいまいな表情を作っていた。
「自己紹介がまだだった。俺は、篠原悠生」
「……」
久深は、先程から一言も口を聞いていない。
困った悠生は、幾分饒舌気味に話していた。
「さっき君が言った『風の色』の事なのだけれど」
「……もういい」
彼の言葉を、久深は静かに遮った。
「突然あんな事を言った私が間違っていました。ごめんなさい、忘れて」
寂しげにヴァイオリンをケ
【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第3話
夏の夕方は、悠生のお気に入りだ。
昼間の喧騒はどこへやら、この時間に聞こえるのは、寄せては返す波の音だけである。
バイトが引けた悠生は、鞄に機材を詰め込んで海の家を後にした。
彼がカメラに興味を持ったのは、中学一年の頃からだ。
それまでは、絵画を主にしていた。
でも、写真がただ被写体を映すのではなく、撮影者の心もそのまま現れるものだと知ってからは、風景・人物を問わず、あらゆるものを
【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第2話
「は、はい」
柄にもなく上擦った自分の声が恥ずかしくなり、悠生は慌てて店内を見回した。
「どうぞ、こちらに」
「ありがとう」
昼食時で混み合ったテーブルの間を、彼女は風の様にすり抜けて行った。
白いワンピースが、その動きに合わせて揺れている。
素足に似合う、真っ白いミュール。
肩まで伸びた黒い髪に、優しく包み込む様な大きな瞳。
それはまさに、悠生の理想とする女性を映したものだった
【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第1話
「風の色を、作ってください」
白いワンピースを着た彼女は、メニューを閉じたあと、そう言って微笑んだ。
大学生になって、初めての夏。
篠原悠生(しのはらゆうき)は、彼が所属するサークルのOBが経営している海の家で、住み込みのバイトを行っていた。
風の浜海岸は、最近よく情報誌に取り上げられている、人気の海水浴場だ。
炎天下の中、注文を取って鍋をふるい、皿を片づけて泥の様に眠る生活が、一