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【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」最終話
そう思った彼女の耳に、足元から特大の溜め息が聞こえてきた。
「あーっ、もっと上手く告白すれば良かったぁ〜!」
大友の叫び声を聞いた有夢は、ふと違和感を覚えて、自分の首にかかったマフラーの色を確かめた。
……2回、確認した。
何度見ても鈍く輝いているそれを見た有夢は、面倒な表情を隠しながらよいしょっと立ち上がる。
「……次のお仕事、スタート」
静かに階段塔から降り立った彼女は、両手
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第28話
「……『昇華』完了」
首元の鈍い光が消えたのを確認して、有夢は小さく呟いた。
「『ためい気』の素となる後悔が消えた時点で、私の存在を含めた修正前の記憶も消える。でも……」
彼女は付け加えた。
「アオイは、これで本当に幸せになったのかしら?」
屋上の階段塔に登っていた有夢は、足元から一組の男女が出てくる様子を眺めていた。
どうやら男子生徒の方が呼び出した様で、先日の返事はどうなのかと聞い
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第27話
「……良かったね」
霊安室の前で、カチューシャだけ外したアオイは、隣の理美を見た。
「何が良いのですか、いきなり未亡人ですよ」
「結婚式の後、すぐにお葬式だもんね」
理美はクスッと笑った。
「ありがとう、アオイちゃん」
「え?」
彼女の言葉が、アオイには一瞬理解できなかった。
「あ、別に無理やり着たんじゃないですよ。わたしは本当にナオ兄さんの事好きだし、だから結婚を決めたので、それに……
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第26話
集中治療室は、容態の急変した患者の対応に追われていた。
「血圧下がっているぞ、輸血を急げ!」
「心拍数低下、電気ショック用意!」
「くっ、頑張れ、頑張れ!」
慌しく動き回っていた看護師が、ふと足を止める。
「……先生」
「何だ?」
何事かと思った医師は、彼女が指差した方向に顔を上げて……固まる。
彼らの視線の先、
無菌室の向こう側に、ひとりの少女が立っていた。
全身を、純白に輝
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第25話
そして、14日。
タクシーから身体を降ろしたアオイは、空を見上げながら小さく息を吐いた。
(それじゃあ、参りますか)
「……アオイ、ちゃん?」
ロビーに座っていた理美は、入ってきたアオイの姿を見て、大きく目を見開いた。
アオイは無言のまま、小さく頷く。
「まぁ……何てことでしょう……」
理美は、思わず目頭を押さえた。
そこからは、悲しみだけではない泪が、ひたひたと零れ落ちて
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第24話
「明日かぁ……」
夜空を見上げながら、アオイは病院から自宅へと向かっていた。
本当は毎日泊まって行きたかったのだが、理美は頑として受け付けなかった。
「親御さんが心配するから、ちゃんと帰りなさい」
そう言って叱り付ける姿は、まさに母親のそれだった。
アオイは、自分の母親が嫌いではない、むしろ大好きだ。
だからといって、理美と比べたりは決してしない。
二人とも、全てを理解した上で、ア
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第23話
「理美(さとみ)さん、これはどこに置きましょうか?」
「あ、こちらにお願い」
「はぁい」
水を取り替えた花瓶を、窓際の棚に置いたアオイは振り返った。
「次は、床の掃除ね」
「了解」
二人が綺麗にしているのは、直人が数日前まで居た一般病室。
本人は集中治療室に居る為、現在は利用していないが、必ずここに戻って来るという思いが、彼女たちを動かしていた。
直人の母親は、アオイに自分の事を『お母
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第22話
明かりの消えたロビーの一角に、小さな湯気が立ち昇っていた。
「落ち着いた?」
ポットから注がれたコーヒーを受け取って、アオイは鼻をすすり上げた。
「ヒトって、あんなに涙を流せるのですね」
なにしろ、4か月分まとめてだ。
「……ホントにね」
直人の母は、少し笑顔を見せた。
その横顔を見て、アオイは(強いなあ)と思った。
彼女の場合、直人はいきなり帰らぬ人となっていた。
それも辛かっ
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第21話
集中治療室の中の直人は、眠っているだけのように見えた。
しかし、彼の周りを取り囲んでいるおびただしい機器類が、避ける事が出来ない現実を物語っている。
「話しかけても、いいですか?」
医師が頷くのを見て、彼女は直人に向き直った。
「ナオ兄さん、久しぶり。アオイだよ」
努めて明るく話し掛ける。
「この前はゴメンね、急に帰ったりして。部屋にもいかなくなっちゃって……」
「私、ずっと謝りたか
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第20話
直人の入院している病院は、彼の住んでいたマンションから二駅離れたところにあった。
「アオイちゃん!?」
ロビーに降りて来た直人の母は、アオイの姿を見て狼狽した。
「どうしてここが?」
「聞いたんです」
「……そう」
彼女は、軽く肩を落とした。
おそらくアオイの母親から聞いたと思ったのだろう。
「隠しているつもりは無かったの。でも、直人がアオイちゃんには言わないでって」
「そんなに、悪い
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第19話
(……う……ん)
暗がりの中、アオイは薄目を開けた。
暫く経って、周囲の状況がはっきりしてくる。
「私の、部屋?」
ベッドに横になっていたアオイは、起き上がってみる。
カーテンの隙間から覗く光は、早朝の雰囲気だ。
窓際に駆け寄って、彼女は自分が制服のまま寝ていた事に気付いた。
「今日、何日なのだろう?」
部屋を出たアオイは、予想外の寒さにぶるっと身を縮ませた。
勢いで玄関に出た彼
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第18話
「……ポイント還元、って訳?」
半信半疑で聞いていたアオイだったが、その視線は有夢の首に巻かれたマフラーに移っていた。
先程まで普通の毛糸編みだったそれが、いつの間にか真珠色の鈍い光を放っている。
現実と非現実の区別が無くなり、平然とリストカットを続けてきた自分でさえ、目を疑う様な現象だ。
「ただの詐欺師じゃなかったんだ」
「あ、酷い。むー」
むくれる有夢を見て、アオイは思わず笑った。
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第17話
「……以上が、わたしの『ためい気』の原因」
一気に喋ったアオイは、色々なものを振り払う様に頭を左右に動かした。
(えい、えい)
こうすると、記憶が片隅に追いやられていく気がするのだ。
「分かった」
表情を一つも変えずに聞いていた有夢。
リアクションの薄さに、拍子抜けしているアオイを無視して言った。
「それで、どうする?」
「どうする、って?」
訳が分からない彼女に、有夢は説明した
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第16話
1か月半の闘病生活が嘘の様に、直人はきれいな顔をしていた。
「末期の●●癌でした」
医師の言葉を、アオイは機械的に受け止めていた。
「自分では、手遅れって分かっていたのね。だから、アオイちゃんにも話さないで」
面識のある直人の母親が、ハンカチを握り締めながらポロポロ涙を流していた。
「あの子、本当に喜んでいたのよ。最愛の人は無くしたけれど、これからは愛する事が出来る可愛い妹が出来たってね