【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第1話
「風の色を、作ってください」
白いワンピースを着た彼女は、メニューを閉じたあと、そう言って微笑んだ。
大学生になって、初めての夏。
篠原悠生(しのはらゆうき)は、彼が所属するサークルのOBが経営している海の家で、住み込みのバイトを行っていた。
風の浜海岸は、最近よく情報誌に取り上げられている、人気の海水浴場だ。
炎天下の中、注文を取って鍋をふるい、皿を片づけて泥の様に眠る生活が、一週間続いた。
二週目、ようやく仕事にも慣れた悠生には、もう一つ困った事が出てきた。
(参ったなあ)
先程から、こちらに意味ありげな視線を送っている二人組の娘に対して、悠生は迷惑そうな表情を見せた。
長身で整った顔だちをした彼は、女性を引きつける魅力を持っている。
ここに来てからも数人の女性から誘われたのだが、全て丁重にお断りしていた。
理由その一、ここに来た目的は別にある為。
理由その二、彼の理想とする女性からかけ離れているから。
「海だから、水着でないと駄目なのかな」
二番目の理由について、悠生はどうしても主張したい事があった。
白いワンピースに、白いサンダル。
少し大きめの麦わら帽子が似合っていて、あと笑顔が可愛い娘がいいなあ。
「……あの」
理想の女性を思い描いている彼の背中に、小さな声が掛けられた。
「あ、すいません。いらっしゃいませ……」
振り返った悠生は、そこに佇む少女を見て思わず息を呑む。
彼女は、麦わら帽子の裾を少し押し上げて微笑んだ。
「席、あいてますか?」
オトドケシマス・イヤシノヒトトキ!
黒珈の週末ストーリィランド🐈⬛☕️✨
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