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局面
2011/10/29
天気が良いから、ローヒールの靴をはいて母の病院へ行った。院内の遊歩道を、車椅子で散歩しようかと思った。
今週の水曜日には、母は院内の喫茶室でケーキを食べ、珈琲も少し飲んだのだと、姉から聞いていた。
病室の引き戸を開けると、鼻から酸素吸入をして、口を開け、眠っている母がいた。痰の吸引もしたようだ。母は昼食時に誤嚥をしたそうだ。表情がおかしくなったことに気づき、すぐに対処したとのこと。37度8分の発熱。
担当看護師も主治医も、その他あらゆるスタッフも、ほんとうに良くしてくれる。対応の迅速さ、丁寧さ、誠実さには、見ているだけで有難く、頭の下がる思いだ。
看護師は優しく、真剣に、穏やかに、話をしてくれる。看護師長もやってきて、説明をしてくれる。主治医が診察に来て、レントゲンの手配をしてくれる。すると数分後にはレントゲン技師が部屋にやってくる。ほどなく画像があがり、主治医が私を呼ぶ。ほんとうにまったく、文句のつけようがない。素晴らしいと思う。
母はまだ肺炎とはいいきれない程度の状態。ただこの先も嚥下力はますます低下する。おかゆよりもむせづらい、ゼリー状の栄養補助食に移行していく。あとは本人の食欲次第。
脱水は即、命にかかわるので、点滴よりも苦痛の少ない皮下注射によって補液をすることとした。その同意書に今日、私が署名をした。
今夜は熱が上がる可能性もあるけれど、今すぐどうこうという状態ではないとのこと。
今日の母を見ていると、ついに、とうとう「死」が近くまでやって来ているのだと、実感せざるを得なかった。もしかしたらまだまだ先だけれど、もしかしたら案外、こころの準備が整わないうちに、あっという間に、やって来てしまうんじゃないかと。
「喉が渇いた」「お尻が痛い」「胸が苦しい」「ありがとう」
これが今日、母が私に囁いた言葉。あとはほとんど目を閉じているか宙を見ているか、意識があるのかないのかわからないような状態だった。
母を独りで死なせたくない。
母の最期には必ず立ちあえるようにと、祈る。