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恋と毒

創作です。


日常に含まれたしぐさ、やりとりが、毒のように体を蝕んでいく

カフェ 向かい合って会話をする二人



「だからさ、なんで今日だったの」

「仕方ないでしょ。今日までに結論を出さないと、あなたの大切な日がひどいものになっちゃう。」

「今だって十分ひどいよ。色々期待していたところからどん底まで落とされて、これ以上ひどい事はないって。」

「それは、ごめん。」

正直誕生日のプレゼントだって期待していたし、何をくれるんだろうなんて、馬鹿みたいに楽しみにしていた。

彼女が右手で右の耳を引っ張る。それが彼女がイライラしている時の癖だった。
いや、イライラしているのはこっちの方だ、なんて思いながら、彼女からの別れの切り出しを聞いていた。
なんで、なんでよりによって今日なんだ。
別に自分の誕生日が、全世界の人にとって特別だなんて思っていない。
それでも、そんな日に、しかもその日を迎える直前に切り出されるとは。

「もう、会わないの?」

「うん。」

正直、どこが好きなのかもわからなくなっていた。それでも、彼女のことが好きだと断言できたし、これからもそうだと言えると思っていた。

彼女が左手の甲を掻く。これは申し訳なさを感じている時の仕草。
それがわかってしまうことも、今はもどかしい。

簡単な別れの挨拶を済ませて、カフェを出た。
日付が変わって、街は静かだ。

「じゃあね。」

彼女は泣き腫らした目で、少しでも明るく振る舞ってそう言う。
泣きたいのはこっちだ。気持ちがなくなったのはあなたの方なのに。そう思って口を開くけれど、言葉はろくに出てこない。

少し目線を動かして、声を絞り出した。


「またね。」


やっと口をついて出た。
わかってる。またね、なんて無い。

それでも、いつも出かけた後の別れの時にいう言葉が出てしまう。

そんな自分の癖も嫌になる。

お互い別の方向へ歩いて、よく会うためにここを通ったなぁ、なんて考える。

これからはここを通る度に、そのことを思い出してしまうんだろう。
そう思うと、惨さすら感じて、僕は胃に不快感を覚えた。


「大好きだったなぁ、」

声にならない声で呟いてみた。
マスク越しに聞こえない声を気に留める人は誰もいない。


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