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【New Journey】熱量に熱量を重ねた歩み。バリスタから器具を届ける側へ - Shinnosuke Shiotani

コーヒースタートアップ「Kurasu」の成長は、多様なバックグラウンドを持つ仲間たちによって支えられています。連載記事「New Journey」は、そんなKurasuでの活躍を経て、新たな一歩を踏み出すメンバーたちのストーリーを記録する場。彼ら・彼女らの言葉は、同じコーヒー業界で挑戦を続ける人々へのインスピレーションとなり、Kurasuの未来を形作る貴重なインサイトとなるでしょう。

今回は、コーヒー器具部門「Kigu」の立ち上げ期から成長をともにしてきたShin(Shiotani Shinnosuke)に、尽きることのないコーヒーへの情熱とKiguでの軌跡を語っていただきます。


——コーヒーとの出会いについて教えてください。

高校生の頃は、ドラマ『海猿』で見た海上保安官に憧れ、国土交通省で働きたいと考えていました。その目標のため、専門学校で準備期間を経ていたのですが、その間にスターバックスでアルバイトを始めました。それがきっかけで、バリスタという仕事に魅力を感じるようになったんです。「バリスタってカッコいいな」と。

その後、海上保安庁での勤務が決まり、訓練も受けていました。しかし、いざ船に乗ってみると、自分が「船の体質ではない」ことに気づき、挫折してしまいました。そのとき心に浮かんだのが、憧れていたバリスタの仕事でした。そこで改めて「バリスタになろう」と決意し、スターバックスに入社することを選びました。

スターバックス時代のShin

バリスタだからこそ見えた、適切な器具の伝え方

——Kurasuに入社されるまで、どのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか?

スターバックスでは、東京ミッドタウン店やGINZA SIX店の立ち上げ期に関わることができました。これらの店舗では、エスプレッソマシンが手動であるなど、他の店舗とは異なるオペレーションやメニュー構成が採用されており、新しい環境の中で、チームメンバーとも「スターバックスらしさ」について徹底的に議論しましたね。おかげで、店舗運営に関わるさまざまなスキルを身につけ、自分自身の力量を高める時間を過ごせました。

約5年間スターバックスで勤務した後、一度バリスタ以外の仕事に携わりたいと考え、コーヒー器具メーカーへ転職しました。今思えば、メーカーの営業職として働く中で、バリスタとして現場を見てきた経験が活かされた場面が多くありました。

お客様とメーカーの間でどうしても知識量に差があることは避けられず、その結果、機材を設置した後に「思っていたものと違った」といった声が上がることも少なくありません。そこで個人的には、お客様目線を大切にし、器具や機材がオーバースペックにならないよう、実際の使用環境に合った最適な提案を心がけました。それによって、予算に合わせてコーヒーの味にもこだわれる、最適なソリューションを提供できるよう努めました。

メーカー時代に、コーヒーグラインダーの清掃方法をライブ配信している様子。

営業の仕事について考える中で、最も大切なのはお客様の本質的なニーズに応えることだと実感しました。単に高価な機材を紹介すれば、短期的には売上目標を達成できるかもしれません。しかし、必要に応じた適切な提案をすることで、中長期的に信頼関係を築くことができ、それが結果的により良い循環を生むと、営業に限らず、今も考えています。

——Kurasuに入社することになったきっかけを教えてください。

きっかけは、2021年のSCAJでAyakaさんに声をかけてもらったことです。もともとKurasuのことはブランドとして認識していましたが、じかに接点を持ったのはそのときが初めてでした。

正直なところ、当時は転職を考えていなかったのですが、Kurasuのビジョンや、当時立ち上がったばかりだったコーヒー器具「Kigu」の「0→1」のフェーズに魅力を感じました。また、当時はKOHIIというコーヒーとテクノロジーを掛け合わせた事業も展開していたりと(現在はそれが2050 COFFEEという形になっています)、Kurasuの取り組みは多方面で注目を集めていた印象がありました。

その後、何度か面談をする中で、熱量に引き込まれる感覚を覚えました。熱量が熱量を引き寄せるような、血が騒ぐ感覚。それが決め手となり、KiguメンバーとしてKurasuにジョインすることを決めました。

何より印象に残っているのは、最初の面接のときのこと。しっかりとスーツを着て臨んだのですが、代表のYozoさんに「ランチまだですか?」と声をかけられ、そのまま一緒にランチへ行ったんです。Kurasuには柔軟で風通しの良いコミュニケーション文化が根付いていることを知り、それに強く惹かれたのを今でも覚えています。

一つの器具がコーヒーの世界をつなげる

——Kiguでの仕事を始めた当初、どんなことを感じましたか?

私がジョインした頃のKiguは立ち上げ当初で、本当に良い意味で「0」の状態でしたね。

取り扱い商品も少なく、営業の仕組みもまだ確立されていない。それこそ、今ではKiguの中でも主力メーカーであり、パートナーでもある「Varia」の商品を取り扱うかどうか検討していた時期でした。

これから売上をつくっていくフェーズ。私は営業担当として入社しましたが、実際はNaruoさんと私の二人でKiguというブランド全体を担当する体制でした。海外ブランドとコミュニケーションを取る仕入れ関連はNaruoさんが担当し、それ以外のこと、つまり営業、カスタマーサポート、SNS運用、YouTubeのコンテンツ発信など、何でも自分でやる状態でしたね。

Kiguの立ち上げ当時は、個人で海外のコーヒー器具を購入するためのハードルが今よりもさらに高い状況でした。海外のメーカーも日本のコーヒー市場に興味はあるものの、言語や法律の壁を突破できずにいました。そこで、海外ブランドの「日本市場に売ってみたい」という思いと、日本のバリスタの「海外製品を買ってみたい」というニーズの間に「Kigu」が入りました。さらに、Kurasuの実店舗があるからこそ、信頼性を担保できたのは、大きな強みだったと思います。

営業やカスタマーサポートのために全国各地を訪問する中で、意外にも多くのロースターさんが海外製の器具や機材に関する情報を把握していることに気づきました。ただ、個人で導入するにはコスト負担が大きく、なかなか動けないケースが多い。その中で、「痒い所に手が届く」存在としてKiguがしっかり機能していると実感できたのは、成長の手応えを感じる瞬間でした。

——数多いプロダクトの中で、思い入れのある器具はありますか?

個人的に思い出のある器具は、「Graycano Dripper」ですね。魅力的な形状に惹かれ、つたない英語ながらも自らメーカーにアポイントを取ってみました。海外では競技大会でも使用されている機能性の高いドリッパーであることも噂で知っていて、気になっていたんです。

サンプルをいただいて実際に自分で使用してみると、機能面はもちろん、デザイン面でもインテリアとして自然に馴染む形であることがわかりました。さらにGraycanoのCSR(Corporate Social Responsibility)の取り組みも素晴らしく、「My Tree」という名前で農園のコーヒーの木を直接サポートし、ライフサイクルに携わるプロジェクトを立ち上げていると知りました。こうやって新たな魅力が次々と見つかって、このプロダクトを日本に紹介したいという気持ちがどんどん高まり、そのエネルギーを燃料に商談を進めました。

機能性が高く、暮らしに馴染むデザイン面の魅力があり、コーヒー産業へも還元している。こんな器具を日本に紹介したいという漠然としたイメージが、具体的なプロダクトの取り扱いを通じて「形にできた」実感のある経験でした。

——現在、Kiguはどのようなフェーズにあると感じていますか?

立ち上げから徐々に成長するにつれて、課題も見えてきました。ありがたいことにメーカーさんとのつながりや仕入れの量は増えているものの、それに伴い売上も伸ばしていかなければならない。これまでのように「痒い所に手が届く」という既存のニーズに応えるだけでなく、より多くの人に器具の魅力を伝え、新しい顧客層を獲得していくことが求められるフェーズに入ってきました。難しい目標ではありますが、これを実現することがスペシャルティコーヒー業界全体の成長や成熟にもつながると考えると、その変化の中で仕事をさせてもらえるのはとてもありがたいことでした。

そんな成長と課題の間で、一つのパラダイムシフトとなったのが、2024年のSCAJ出店です。海外のコーヒーエキシビションはB to Bの色が強いのに対し、日本ではB to Cの要素が強いという独特な傾向があります。通常、こうしたエキシビションはプロモーションの一環であり、会社では投資として考えられることが多いのですが、Kurasuは売上をしっかり立てることができた。この2024年のSCAJでは、BとCの間をつなぎ、両方に応えられるKurasu、Kiguチームの強さを実感する機会となりました。

そんな環境の中で、自分自身の心境にも変化が生じました。バリスタとしてさらに経験を積みたいという気持ちが芽生えてきたんです。スターバックスでのバリスタ経験とKiguで得た視点を掛け合わせた今の自分だからこそ、より高い次元でスペシャルティコーヒーを追求できるバリスタになりたいと考えるようになりました。

やりたいことを目指し、チームで成果を出す

——3年間を通して印象に残っている出来事や、この先に活かしたいことはありますか?

Kurasuの代表であるYozoさんは、経営者として数字や結果に対して強いこだわりを持つ一方、一度も私たちに「ノルマ」を与えたことがありませんでした。営業は成果主義に陥りがちな領域ですが、Kiguチームとして目標が達成できず焦っていたときに、むしろYozoさんは「本当はどうしたいのか」「やりたいことをやれば、後から結果はついてくるでしょう」という熱い言葉をかけてくれたことを今でも覚えています。Naruoさんと私もそんな言葉を受けて、出張の夜にコンビニでアイスを買って、エモーショナルに語り合ったりしました(笑)

自由には責任も伴いますが、新しいチャレンジをする上で発生する悩みや課題を、チームの仕組みで解決できる部分はすぐに改善し、柔軟に動ける会社がKurasuでした。個人ではなくチームとして成果を達成するという感覚を、3年間でしっかり学ぶことができました。

Kurasuがこれからさらに成長する中で、仕組み化やマニュアルの整備も進んでいくでしょう。ただし、「マニュアルだから」ではなく、「なんのためのマニュアルなのか」という視点が重要だと思っています。僕自身、次は東京の店舗でバリスタとして現場に立ちながら、ストアマネージャーとして働くことになります。後輩ができる立場にもなるので、Kurasuで得たこの考え方を共有し、実践で示したいと思っています。

インタビューを終えて

BEAR POND ESPRESSOの田中さんの言葉が記載された本(Shin私物)

「Coffee people have to be sexy(コーヒーピープルはセクシーでなくては)」。

これは、Shinさんの座右の銘。2010年代から脈々と続く名店であり、当時からサードウェーブコーヒーの風を感じさせてくれた「BEAR POND ESPRESSO」の田中勝幸さんの言葉です。

トレンドの波が訪れるたびに、人はそれに乗ったり、流されたりします。コーヒーの世界もまた、時代の流れとともに移り変わってきました。そんな状況の中で、波の先にある未来をまっすぐに見据え、情熱をもってコーヒーに向き合い続ける——そんな姿勢が「セクシー」という単語に表現されているのではないでしょうか。

情報があふれる今の時代にあっても、現場に立ち続け、地に足をつけ、コーヒーの文脈を脈々とつなぎ、かたちづくる人がいます。その生き様が、何よりもかっこいい。今回のインタビューを経て、改めてそう感じました。

Kurasuを卒業し、次のステージで「THE COFFEESHOP」のストアマネージャーとして歩み始めるShinnosukeさん。会社や店舗、組織の枠を超えたコミュニティを大切にしていきたい、仲間を増やしてエンパワーメントし、業界をまるごと底上げしたい、そんな想いを心に抱きながらの出発とのことでした。Kurasuを離れても、コーヒー業界の仲間として、新しい文脈を生み出し続けることを期待しています。

Kurasuは、一緒に働く仲間を募集しています!

Kurasuでは、コーヒーを通じて人々の暮らしを豊かにし、笑顔溢れる社会を実現するビジョンに共感するメンバーを募集しています。

一人ひとりの情熱と知識を大切にし、自由な発想と責任感を育む環境のなかで、生産者から消費者まで、コーヒーに関わる全ての関係者とのつながりを深める経験が得られる、そんな場所です。

変化を恐れず、新しい価値を追求し、市場の変化に対応するKurasuで、コーヒー産業のグローバルリーダーとして共に成長しましょう。