小説「古本食堂」を読んだ話
昨年12月初旬、先輩と1週間後の内輪イベントでの演奏に向けて練習するために街へ出ていたとき、ふと本屋を見かけて立ち止まった。
そういえば、積読本をちょうど読み終わったところだった。
何か探してみようかなと思っていると、いつのまにか本屋に吸い込まれていた。
私は第一印象はカバーとタイトル名。平たく積まれていればどちらも見て、棚に建てられていれば文庫の背表紙を見て、買う本を決める事が多い。
最終的に選ばれたのは2冊。
その中で、今回は原田ひ香さんの「古本食堂」を読了したので、ひたすら思ったこと、感じたことをつらつら書いていきたいと思う。
原田ひ香さんといえば、私が大ファンになった小説「ランチ酒」の作者でもある。個人的に、人間の会話の書き方とか(なんか本当に喋ってるのが想像できる)、心の中の感情の変化の書き方とかが、いい意味で人間臭いところがある。
言葉にはできないけど、なんか原田ひ香さんがつらつら書いている言葉や粒度が、自分にしっくりくるのだと思う。すっと読めるし入ってくる。
他の人の本を読むと、綺麗に記述されているのもいいなあと思うけど、私はどちらかというと人が人らしくというか、リアルに描かれている方が好きなのかもしれないと感じている。
以下、簡単にあらすじを紹介する。
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北海道の帯広で両親を看取ったあと、一人で暮らしていた鷹島珊瑚は、東京神保町で暮らした兄・滋郎が急逝したため、彼が営んでいた古書店とビルを相続することになる。
親戚の大学院生・美希喜は国文科で、滋郎の古書店を訪れていたこともあり、古書に詳しくない珊瑚の手伝いをすることになる。
そんな2人が滋郎の古書店を営みながら、色んな人と出会い、励まし、そして生前の滋郎のことや、それぞれ自分のことにも向き合い、前に進んでいくストーリーである。
あと、原田ひ香さんならではの「グルメ」の記載も見逃せない。神保町の様々なお店の料理を、登場人物たちがお店で食べたりテイクアウトしたりして舌鼓を打っている。想像しただけでお腹がすいてくるストーリーでもある。
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全体を通して、本と料理がキーとなって話が展開されていくのだが、しっかり料理を入れてくるのがさすが原田さん。私も食べ物に関する筆致をこれくらいリアルにできるようになりたい…。
今回の主人公となる珊瑚さんは、はじめは滋郎さんのお店を最終的には畳もうとか、たくさんの古書の整理をしようという思いで引き継いだのだけど、だんだんと本人も居心地が良くなってきたのか、生活が確立していくのがなんとも面白い。神保町というまちでの暮らしに馴染んでいく様子を見ていると楽しくなる。
ひょんな縁でたったひとりで全然違う知らない土地に住んでいけるって、すごいなあと思う。珊瑚さんにはそれを楽しめるだけの大人の余裕や大抵のことはまあ、なんとかなるだろうと思う精神があるんだろうな、と想像する。
なんかほんとに結果人間はひとりでは生きてはいけないから周りに助けてもらうことにはなるだろうが、それでもスタートをひとりで切っていける人ってかっこいいなと思ったりする。
あとは、急に現れた珊瑚さんのことを、周りにいる人が気にかけたり、助けたりしてくれるのだが、それができるくらい、兄の滋郎さんがまちに、ひとに馴染んでいたことも大きいだろう。
また、研究に進路に悩みまくっている大学院生・美希喜ちゃんは、母から「珊瑚さんが変な人に騙されたりしないように」という名目で鷹島古書店に毎日行くようになる(昼ご飯代などかかる経費は支出してもらえる)。
元々滋郎さんがいる頃から通っていて、彼とも親しくしていた。このお店の未来をずっと気にしているし、気になっている。でも、なかなか気持ちがまとまらずに葛藤していく彼女の気持ちも丁寧に描かれている。
将来自分がどうしていきたいのか、どこに身を置くべきなのか?
自分が研究や就活で迷って葛藤して色々諦めたり、手に入れたりした経験を思い出させてくれる。
ふたりとも、滋郎さんの遺した「鷹島古書店」で様々なお客様と出会い、会話し、時には本を通して悩みに寄り添ったりしていく。お客様の中にはそのまま常連さん(?)になって仲良くなる人もいれば、珊瑚さんのふるさとからやってくる友人もいたりと様々だ。
店主を失った鷹島古書店を、珊瑚さんと美希喜ちゃんが紆余曲折しつつもどのようにして自分たちの新たな居場所にしていくのか、、。ぜひ本書を読んでみてほしい。
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ここからは、ストーリーの中身というより、小説の構造としての感想を少しだけ書かせていただく。
まず、メインの珊瑚さん・美希喜ちゃんと鷹島古書店のストーリーを軸にしつつ、お客様にそれぞれにストーリーがあるというこの構図が好き。
なんなら自分も小説を書くときにはこの構図で書きがちかもしれない。
この本を書いた原田ひ香さんの「ランチ酒」も、主人公の話をメインに据えつつ、仕事先で出会うお客様にもそれぞれ事情や人生、すなわちストーリーがある。人によってはサイドストーリーが入ってくるとわけわからんとなる人もいるかもしれないけど、私は並行して進んでいったりたまに絡んできたりする感じ、最高に読んでて楽しい。
また、まさに「第二の人生」として神保町にきた珊瑚さんと、これから社会に出ていこうとする学生の美希喜ちゃんという、年齢が大きく違う2人の目線で語られていくのも面白かった。
とにかく本が好きな人と、グルメな人は読んでほしい一冊である。
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双葉文庫のお酒にまつわる短編小説集「ほろよい読書」で原田ひ香さんに出会ってから、完全に彼女のファンである。彼女の書く、人間のことや食べ物のこと、私にはとてもしっくりくる。題材や話の進め方も、文章の感覚も合っているのだと思う。
原田ひ香さんの本で気になるものはまだまだあるので、本屋さんに行くタイミングで探してみたいと思う。
ちなみに、活字の本ってネットじゃなくて手にとって見て買いたいと思うのって、私だけじゃないよね…。
私は上記の文庫本を買いましたが、単行本の表紙はなんだかおいしそう。焼きそば…
2024年、ブクログで本の記録をはじめております