私は美味しかった
先日、精神的に病んでしまい仕事を一週間近く休んだ。
年に一回くらいはこういう時期がある。今年はこれがそうみたいだ。まあ、もう一回あるかもしれないが。
それは置いておき、私は父と母の三人で、実家暮らしである。毎日仕事から帰ればご飯は用意されていて有難くいただく。朝起きれば私が家を出るのが1番早いので、鍵はかけずにそのまま家を飛び出す事ができる。もっといえば、自分が体調を崩せば家事や洗濯は全てやってもらえるし、なんなら看病までしてくれる。私はどんだけ恵まれていて、豊かな生活を送れているんだ。そろそろ一人でも生きていけるようにしなければならない。
なのに、病んだ。だから、病んだのかもしれない。
まあ元を正せば完全に仕事が原因で精神が崩壊気味ではあった。
その原因となる仕事を休む。
これが私なりの最適な治し方だと思った。
次の日出勤しようとしても、体が、心が、脳が、踏みとどまる。私は仕事に行けない日が続いた。
休んでいる間は、何もしなさすぎるのもなと思い、摂食障害の過食タイプの私は、とにかく寝て、寝続けて1日の食事量を一回にさせて、体重を落とした。おかげでその日を境に体重が落ちた安心感で過食する事が減り、健康的な生活を心がけ続けられている。
他に、大好きなベースを弾いたり、新しい曲を練習してみたりした。なんなら人生初のスタジオを借りて演奏したりもした。
ずっと気になっていた衣装部屋の大掃除をした。
ファンクラブに入っている推しのバンドのサイト動画を夜通し未漁ったり、その推しのラジオを聴いていたら私のお便りを読んでくれたり。
前に一目惚れしたデニムをZOZOで無茶苦茶安く買えて、それの丈が長いので届いて10分で、車を30分走らせ裾直ししに行った。
仕事を休んでいるのに友達と夜ご飯食べに行って、私が行きたかったロブスターのお店で一人5000円ちょっとずつだしてお腹がちぎれるくらい豪遊したりもした。
自分なりに、有意義に過ごせた。
だけど、ついにその時はきた。
今日こそは出勤しなければならない。
私は朝起きて、準備をして、出勤した。
一つ一つのアクションをクリアする事が、私にとって大きな壁であったので、私はよく頑張った。
一番忙しい月末の仕事と、休んだ分の溜まり切ったごちゃごちゃになった仕事を私は片付けていたら、あっという間に夜は来て、ヘトヘトだった。
私は疲れた心と体で家に帰った。
家に帰ると母がいた。父はまだ仕事で帰りが遅い。
母は言う。
「あそこの、新しくできたお店食べ行かない?」
過食衝動に火がつくのが怖い私は外食なんて論外だった。だけど、私は何故か行きたい気持ちが勝ち、その誘いに承諾していた。
私も母も、スンドゥブとカルビ丼を頼んだ。
正直、死ぬほど美味いとかではないが、無茶苦茶美味かった。
母はちょっと前に軽く食べてしまったからあんまり美味しくないな〜と言う。
そんな二人を挟む空気感こそが、私は異様に心地が良かった。幸せだな。こんな時間がずっと続けば良いのに。
仕事のストレスで疲弊していた私は、何故だかその何気なくて、普通で、ただ母と近所のご飯屋さんでご飯を食べると言う出来事がとっても幸せだった。
家に帰っても母は、あのお店あんまり美味しくなかったな〜と言う。
んー。私はあの時間こそが宝物に思えたから言った。
「私は美味しかったけどな〜」
あの時間が幸せだったなんて、気恥ずかしくて言えない私は、この一言が最大の表現だった。