碧月くらげ

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未知へ

 とりあえずどこか落ち着ける所で話そう、と三人はクローク王城の資料室に戻った。 出したままの資料を整理しつつ、各自自分達が得た情報を擦り合わせて行く。 「それで…そっちはどうだったの?」 アマリオが訊ねるとクラウンがひとつの資料を綺麗にした机の上に広げる。 それは古い資料でステラ信仰について記したもので、教典とはまた違っていたがかつての神話時代についてまとめたもののようだ。 資料には先程アマリオ達が見つけた童話よりも詳しく守護者についてのことが書かれている。 「ここの守護者に

    • 神話

      ぱっと手を広げた彼女を見ながらアマリオは微笑む。  「…リゼがクローク一の技術者だったんだね」 「そう!…言わなかったの怒った?」  アマリオの表情をを伺うように見たリゼは罰が悪そうにしている。 「いや、凄いなと思ってね」 そう言った途端に喜色を顔に浮かべ、胸を張る様はやはりどこか幼く見えてついつい構ってしまう。 「そうでしょ、頑張ったんだから!まぁ好きでやってるのもあるんだけどね…というか、さっきから私の事なんか小さい子扱いして無い?私多分アマリオよりお姉さんなんだからね!

      • クローク

         飛龍の上の二つ並んだ後ろ側の鞍にアマリオはしっかりと固定され、前側の鞍には操者が乗る。 朝の訪れの中、自分の操者の合図に合わせて飛龍の羽の周囲の筋肉がぐ、と動くのを感じた。 「出発します!体調が悪くなった時はすぐに私に言ってくださいね」 操者の声かけに頷くと胃が持ち上がるような感覚がして次の瞬間、アマリオの視界にははるか遠くの地平線が美しく映った。 魔法で軽減していてもまだ強い風や飛龍の筋肉のうねりが襲ってくるが、そんな事を忘れるくらいに美しい光景だ。 「綺麗でしょう」 前

        • 聖女

           朝の支度を終えた二人が階下の食堂へ降りると既に起きていたらしいクラウンが軽く手を上げて挨拶する。 「やぁ、おはよう。どうだったかな寝心地は」 「良かったよ。おかげでしっかり休めた」 「あぁ。特にあの枕、先代の王の気に入りと同じものだろう。良く手に入ったな」 マールズが枕の種類まで当てたことでクラウンが少し驚いたような顔をして、敵わないな、という顔で笑った。 彼の気持ちはよく分かる。 アマリオも幾度となくマールズには敵わない、と思ってきたので。 「ふふ、それもツテで。お気に召

          拠点

           クラウンの家の使いだと名乗った綺麗な薄緑の髪をしたメイドは優雅に一礼すると二人を馬車へと案内した。 乗ってきた馬は別の使用人が城へ送り届けてくれるらしく、気にする必要は無いと言う。 馬車に揺られること三十分。 馬車から降りた二人がみたのは王城の役人にしては手狭な屋敷だった。 それでも広い事に代わりはないが。 先程のメイドと同じく薄緑の髪の執事とメイドが玄関口を開く。 そこに王城で見た時よりもラフな格好をしたクラウンがいた。 「ようこそ我が家へ。生憎人間は俺一人だがくつろいで

          観光

          クラウンの部屋からメイドに王城の出口まで案内された二人は城下町に向かう。 とはいえ王城から城下町までは歩いていくには大分距離がある。 「ふむ…知り合いがいるから騎士舎の方に行って馬を借りよう。歩いていくには城下町は遠い」 「…マールズ、君何者なんだ?」 「はは!ただの騎士崩れの老耄だよ!」 笑って濁したマールズの後について歩く。 手入れの行き届いた庭園を抜けると広々とした訓練所が見えた。 端がギリギリ見えるほどに広い砂地の訓練所は丸く広く整えられていた。 訓練所の向こう側に経

          虚偽

           その後、防音魔法を解く前にクラウンがアマリオを見て言った。 「そうだ、アマリオ殿。これからこの家を出た先俺とマールズ殿以外は基本的に信じてはいけません。よろしいですね」 「…はい」 「ご協力、どうもありがとうございます」 にっこりと微笑んだクラウンは今度こそ防音魔法を解き、外で待っていると告げ出ていく。 急いで必要なものだけ纏めようとアマリオが立ち上がる。 マジックボックスと呼ばれる基礎魔法の一つを使い、魔法空間に必要なものだけをぽんぽん投げ入れていく。 ものの十分で部屋は

          星の瞬き

          それから数年。 事が起きたのはアマリオが16になる頃であった。 「じゃあマールズ、僕は先に出るから!」  「行ってらっしゃい、気を付けてな。私も後で依頼を見に行くよ」 「はぁい!」 スラリと伸びた背は人目を引く。 金の髪も幼い頃より伸びてその長髪を緩くひとつに纏めていた。 まだ朝の星が登り始めたばかりの時間にアマリオは林檎をかじりつつ職場のギルドへ向かって歩き始める。 今日は少し寝坊して朝ご飯を抜こうとしていたのを目ざとくマールズに見つかり、顔にやれやれと書いたマールズにこれ

          Tales of Stardust -第一話-

           ステラの大国の一つ、セルニ。 その国のとある街を管理する子爵家にある日一人の息子が産まれた。 その息子はアマリオと名付けられ、家族から、そして領民から大切に愛情深く育てられた。 父親譲りの金髪は良く実った小麦が輝くようで、瞳は母親譲りの深い青。 海の近いその街ではまるで朝日に揺れる海のようだと評判だった。 明るく活発でいて心優しい息子を両親や使用人達は溺愛しており、街の人々からみても彼らは仲睦まじい親子であった。 そんな家族に少年が5歳の頃鏡合わせのようにそっくりな双子の妹

          Tales of Stardust -第一話-

          Tales of Stardust -プロローグ-

          太陽と月の代わりに星が輝く世界。 人々からステラと呼ばれる世界には大きく分けて人族と魔法族、動植物、魔物の四種が居た。 人族と魔法生物族の国はそれぞれ三国づつに分けられ、大きな争いもなく平和に過ごしている。 全ての生きとし生けるものの光の源となる恒星はこの世界で唯一の信仰対象である。 恒星は昼間に光るアメティスト、夜に光るラピスと名前が分けられており二柱で一柱の神として信仰されている。 この世界は貴方の世界と良く似た世界、同時に全く違う世界でもある。 名前をステラと言う。

          Tales of Stardust -プロローグ-