わたしの嘘に気づかないで
今年の夏頃、マッチングアプリをはじめて、偽りの自分を演じることにはまっていた。
名前、職業、好きなもの
会話の節々に嘘を重ねた。
私が言う本当のことは、年齢と故郷が真っ白な田舎町だということぐらいだった。
そんなときにあなたに出会った。
今まで出会ったことのない理系タイプで、
仕事内容を聞いてもちっともわからなかった。
とにかくぱっと見じゃわからない社会の細部、裏の部品を作る会社の技術職をしているらしい。
髪の毛がくるくるなセンターパートは、天然らしく、写真を撮るのが好きで、趣味で星をみている文化人ぽい雰囲気の人だった。
会う前夜にした電話では、
とにかく面白くて驚異の6時間も話していた。
だからこそあなたとの待ち合わせで、
『はじめまして』という言葉に違和感を感じたのを覚えている。
あなたは相変わらず面白くて、聞き上手だった。
男性的な見た目とは裏腹に、
女性的な性格面があなたを作り出しているんだろうなと思った。
女々しいという訳ではなく、
繊細な人なんだろうなと思った。
もちろん髪の毛がくるくるの長髪ということも相まっているが、気配りができる人だった。
私は、今までマッチしてきた人と彼が、何もかもが違うことに気づいてしまった。
とても楽しかったから。
楽しくて、嘘ばかり偽りばかりではいられなかった。
むしろ全てが本当すぎたのかもしれない。
今までは、年上のお姉さんが好きと言われれば、自分のことを何も語らない架空人物『きょうかさん』を演じたし、
聞き役に徹しながら、ホテルへの誘いを
『今日はだめなの。また今度ね』と頬にキスして帰るぐらい、架空人物に酔っていた。
何度か会うと告白をしていただけたこともあった。一から十まで私の思考を説明するなんて
そんなことあってはならないと、
どこに向けていいかわからない正義感でお断りをした。
身勝手でごめんなさい。
でもあなたと会ったときにしまったと思った。
初めて、自分のことをべらべらと話してしまった。
時折り、嘘と本当を行ったり来たりして、
自分でも訳が分からなくなってしまった。
今更誠実であろうと振る舞う自分に乾くように笑った。
『きょうかちゃんは、そうだな。曖昧な人だね。そこがすごく好きだけど。』
と彼は言った。
『港区とかにいる“どうやって生活してるの?”っていう感じの人いるでしょ。そういう見た目だね。これ褒め言葉だよ。』
と続けた。
『それよく言われるの。』
と私は笑ったと思う。
そしてあなたもまた、私みたいな人には会ったことがないって笑ってた。
彼を知りたいと思った。
私を知って欲しいと思った。
彼に触れたいと思った。
私に触れて欲しいと思った。
私は、アプリをはじめるとき自分と2個約束していた。セックスはしないことと、仮想世界だと楽しむこと
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