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最高の組織である幻影旅団はなぜ鎖野郎と奇術師に壊滅させられようとしているのか?Missionドリブンで起こる組織崩壊。【HUNTER×HUNTER】
最高の組織として名高い『幻影旅団』。
通称『旅団』
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そんな旅団が、鎖野郎によって半壊させられ、奇術師によって全滅させられようとしています。なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
多彩な才能を集め、チームとしてもうまくワークしていた『幻影旅団』。その組織について深堀りしていきましょう。
1.幻影旅団の掟
旅団の掟はシンプルです。
そして優先順位があります。
最優先は
旅団を存続させること
です。
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意外じゃないですか?
あれだけ大きな影響を世の中に与え、欲しい物を手に入れるために虐殺し、全世界に名を知らしめている旅団の最優先する掟が存続であること。
しかもここに関して、団員での理解が驚くほど深い。
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クラピカからパクノダ1人で来ること、追跡はするな、と指示されているにもかかわらず、フィンクス、フェイタン、シャルナークは一切躊躇なく追いかけます。
それはイコール団長が殺されるということ。
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心情的には、団長に死んでほしくないと思っているシズクでさえ、この掟に従ってます。
何か旅団を存続させ続けたい理由があるのでしょうか?
この部分がMissionと深く関わってきます。
その他、最優先の掟を守った上で、守るべき掟がいくつかあります。それらをまとめると
旅団の掟
①旅団を存続させる
②リーダーの命令は最優先
③ロールを明確に
④生死は問わず、手段は好きに(暗黙)
⑤団員同士のマジギレ禁止
⑥もめたらコイン
①と矛盾しない限り、②以下は守られます。
これらの掟は下記のMission実現に向かうために設計されました。
2.幻影旅団のMission
連載で明かされたのですが、
─ネタバレを含みます。未読の人は帰ったほうがいいかと─
旅団のMissionは
①サラサの復讐
②サラサのような被害者を出さないようにする
です。
悲しいMissionですね。
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そしてそのためのHowとして、世界中の人間が恐れ慄く程の悪党になる。
具体的には
・流星街のデザイン
・幻影旅団のデザイン
を行う。
流星街部分については割愛しますが、成功していると言えるでしょう。
幻影旅団についても、クロロが14歳になってから約12年。同世代の代表的悪役として確固たる地位を築いているといえます。
この段階で、サラサの復讐がすでに果たされているかどうかは不明ですが、サラサのような被害者がでないような状態は作れているのでしょう。
11歳。純粋無垢な少年であったクーちゃん。
14歳。幻影旅団の団長として悪党として生き始めた。
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そうして出来上がったのが、上記の掟です。
再掲すると。
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①旅団を存続させる
②リーダーの命令は最優先
③ロールを明確に
④生死は問わず、手段は好きに(暗黙)
⑤団員同士のマジギレ禁止
⑥もめたらコイン
幻影旅団を永続させることが、必要なデザインだったとすると①のルールもうなずけます。ある意味で幻影旅団のMissionは達成するものというよりも、追い続けるものという位置づけなのでしょう(サラサの復讐は達成可能)。
クロロがMissionの達成のために決めた方法は、もしかしたら今なら他のやり方があったのかもしれません。だけど、11歳当時。自分たちが持っているもの持っていないもの、使えるもの使えないもの、それらを精査し、時間内に達成するために最適だと考えたのが悪党になることであるなら、それを誰が批難できるんでしょうか。少なくても僕はできません。
そんな幻影旅団のMissionと掟が明らかになったところで、存続が危ぶまれた2つの大きなトラブルについて見ていきましょう。
3.鎖野郎というトラブル
幻影旅団だけをターゲットとし、それに命をかけているクラピカという存在に、結成当初からいた、ウボォーギンとパクノダは殺されてしまいます。
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ウボォーさんが死んだときの気持ち、パクちゃんが死んだときの気持ち、クロロ視点で見た際、クラピカというトラブルは旅団の存続の危機であるとともに、クロロ自身の内面を大きく傷つける現象だったはずです。
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では、このような事態はなぜ起こったのでしょうか?
まずは、ウボォーギン。
これはシンプルに敵の力量を見誤った。強化系の最強クラスに位置づけられるウボォーギンですが、操作系、具現化系と戦った場合、その強化系の強みを活かすこと無くやられる場合があります。もちろん、それらの敵さえ今までは蹴散らしてきたのですが、幻影旅団に特化して準備してくる、強い念使いの存在によりやられました。
そのようなリスクを見越してかクロロは、基本的には2人1組での行動を指示しています。
ここで難しいのは、旅団のMission達成のためには、戦闘系メンバーは強くなければなりません。さらにその上で、それらの人が死んだとしても代替可能なものでなければなりません。クロロも頭でそれはわかっています。だけど、本当にそんなに割り切れているのでしょうか?
この部分については、おわりにでもう少し掘り下げます。
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まとめると、ウボォーギンの死亡については、部分的なミスはあったにせよ、致命的なものではなく、想定内の事態だったということができるでしょう。
続いて、パクノダ。
こちらはMissionやルールと関連して複雑な意思決定がなされています。
象徴的なのは、
A.クロロを生かすためにパクノダ1人で向かう
or
B.クロロを殺してでも付いていって鎖野郎を殺す
という二項対立の場面です。
「フィンクス、フェイタン、シャルナーク」と「パクノダ、マチ、ノブナガ」が対立します。
これら初期メンは、旅団のMissionを知っています。というか、そのMissionのためにクロロに付いていくことを決めたメンバーです。
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一見すると前者が「旅団存続」という掟に従っている冷酷なメンバー、後者が「クロロが好き」という温かいメンバーのような構図に見えるのですが、必ずしもそうではありません。
結成当初からいたこれらのメンバーは、昔のクーちゃんを知っています。その上で、クロロになった瞬間を知っています。その覚悟を知っています。
で、あるならば、このような事態になった際、「クロロを見捨てる」という覚悟を自分たち自身で強く持っていたのではないでしょうか。でなければ、一切の躊躇なく付いていく決定をすることはできなかったと思います。むしろ前者の3人は、クロロの想いに殉じるために、予めクロロ自体のことを見捨てる覚悟をしていた(すごい痛みとともに)メンバーだったと言えるのかもしれません。
どっちが温かいとか優しいとかでは語れない関係性が彼らの中にはありますね。
このことを一瞬で見抜き、AorBの二項対立から、目的とルールに立ち返り、1つ上レベルで止揚させたフランクリンは偉大です。
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結果、クロロは戻ってきます。
しかし、その代わりとしてパクノダは死にました。
ここにクロロ最大の思い違いがあったのではないでしょうか。
悪党として生きることを覚悟して以来、クロロにとって死は常に隣りにあるものでした。しかし、パクノダ、いやパクちゃんにとって、みんなの弟クーちゃんの死はそんなに簡単に受け入れられるものではありませんでした。
パクノダも死ぬ必要なかったんです。
鎖野郎なんてほっとけばよかったんです。
でもあの時あの瞬間、記憶弾を打ったパクノダを誰が責められるんでしょう。極限での意思決定。あとであーだこーだ外野がいうのは野暮です。
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まとめると、パクノダの死についても、旅団としての大きなミスはなく、想定内の出来事だったということができます。
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4.奇術師というトラブル
団長と戦うために旅団に紛れ込んだヒソカという男に、シャルナークとコルトピが殺されてしまいました。
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クロロは、ヒソカを戦闘能力という1点で旅団に加えていました。もちろん、自分と戦うことを目的にしていると把握もしていたでしょう。そのうえで、制御しきれる、そういう判断があったんだと思います。
このことは当初うまくワークします。
クロロは常に2人以上の団員と行動を共にすること、作戦のあとは姿をくらますことでうまくヒソカをコントールします。
そして、ヒソカが明確に戦う意思を表して以降は、除念師を探させ、能力を集めて確実に勝てる場をセットし、実際勝利します。
その上で、奇跡的に生き返り、死後強まった念でさらに戦闘狂になったヒソカの行動を予想して対策しろというのは流石に酷です。
しかし、能力だけを見てMissionに共感しない人を採用した場合、短期的には効果が出ても、長期的にはマイナスになるものです。
今回の件に関しては、本来クロロとだけ戦えれば十分だったヒソカの攻撃対象を旅団全員に広げてしまったのは、ある意味では、一度でも採用してしまったことによる弊害と言えるでしょう。おそらく、採用段階で弾いていれば、全員狩るというアクションをヒソカはしません(自分より弱いやつに興味ないから)。
ただ、その程度です。
致命的なミスがあったというほどではないでしょう。
5.おわりに
では、幻影旅団は大したミスをしていないにも関わらず、壊滅しつつあるのでしょうか?
より深く潜ってみましょう。
Missionと掟を再掲します。
旅団のMission
①サラサの復讐
②サラサのような被害者を出さないようにする
旅団の掟
①旅団を存続させる
②リーダーの命令は最優先
③ロールを明確に
④生死は問わず、手段は好きに(暗黙)
⑤団員同士のマジギレ禁止
⑥もめたらコイン
結成時点の9人は、このMissionを知っています。
それ以外の人はおそらく知りません。
掟は、全て団長としてクロロが決めたことが伺えます。
頭もロールの1つとして位置づけている以上、自分がいなくなっても旅団が動き続けることを想定しているのだと思います。
クロロは結成時点のメンバーにそれぞれ役割を与えました。
自分は頭。
ノブナガやウボォーギンは「特攻」。
シズク、パク、シャルは「情報・処理部隊」。
のように。
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僕はここにクロロ最大の失敗があったと思っています。
Mission達成のために、最適な役割を決め、突き進む。合理的です。そして人の生死を取り扱う以上、その役割の中に「死ぬのも仕事の1つに含まれる」こともあるでしょう。非常に真っ当です。頭で考える最高到達点かもしれません。
でも、そもそもこのMissionはなぜ立ち上がったんでしょうか?
クロロを頭に、死ぬまでみんながついていくのはなぜなんでしょうか?
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仲間への気持ち。
それがあったからじゃないですか。
感情が全ての始まりだったわけです。
もちろん、僕たちと生きてる時代も生き方も違います。
すべて同列に語るのはナンセンスでしょう。
ただ、クロロは自分の感情を、仲間の感情をしっかり受け止めたあと、役割を作ったのでしょうか?
本当に本当に、「死ぬのも仕事の1つに含まれる」と感じていたんでしょうか?
僕はそうは思いません。
合理的に、理知的に考えたら死ぬのも役割。だから作った。
だけど、感情はついていっていない。だから行動が矛盾する。
クロロ自身、初期メンが死ぬ前までは割り切れると思っていたんでしょうね。自分は冷静で合理的だ。Mission達成のために最短ですすめる、と。
しかし、ウボォーギンが死に、パクノダが死に、シャルナークが死んだとき。
ウボォーさんが死んじゃって、パクちゃんが死んじゃって、シャルが死んじゃったとき、自分がそれを受け止められるほど冷静で合理的でいられるわけではなかったことに気が付きます。
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鎖野郎を放っておくという決断ができたクロロ。
奇術師には無理でした。
これはもはや幻影旅団の団長としての命令ではありません。
奇しくもクロロがノブナガに言い放った
「旅団の立場を忘れてダダをこねてんのはオレとお前どっちだ?」
が返ってきます。
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でも、旅団の他のメンバーも気持ちがわかるからこそ、そこに異を唱えません。
初期メン以外が自分たちで倒すことを辞め、クロロと組むのも象徴的です。彼ら彼女らからすると、ヒソカを倒すことは旅団の在り方とは矛盾するのかもしれません。
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今、クロロが。
いや、初期メンバー全員が旅団の在り方を忘れて、新たな復讐に駆り立てられているのはある意味では仕方ありません。この状態になってしまったのであれば、もはややむを得ないでしょう。
おそらく旅団は全壊します。
ここから1年以内に悪の最高峰であった『幻影旅団』は消えてなくなります。
クロロや初期メンバーが、いかに極悪非道なブランディングをしていたとしても、それぞれ個々人が絶対に替えの効かない仲間であることを結成時点で気づけていたら、対話ができていたら、この結末は変わったかもしれません。
これが幻影旅団、最大の失敗です。
©『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博)
反響
沢山いただけたので、一部ご紹介。この人たちみんなハンタ好きだと思うとほんとうれしい。ありがとうございます!
めちゃくちゃ勉強になる内容でした…!
— 加治木 基洋|【親孝行の会社】Piety CEO (@KajikiMotohiro) March 23, 2023
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山田さんのこれ、とてもすごく面白かった!
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— ハダ (@hada_tomohiro) March 1, 2023
幻影旅団崩壊の謎、めちゃくちゃ良かった!人は感情の生き物、感情を無視してルールやミッションを策定すると、平常時は機能しても混乱時に機能しなくなる。「感情ベースの組織づくり」と「違和感を見逃さないシステム」…しっかり考えないと。まずはHUNTER×HUNTERをポチッとな。 https://t.co/R2KiE0edeu
— Shigeo-Naka (@Shigeo_Naka) March 2, 2023
やまださんが自分でケッサクケッサク言ってたから、こちらとしては半端な気持ちで読めず、今更ながら読んだのだけど、これは傑作だな。
— 藤田圭一郎 | VC・家業・起業 (@keiichilo) May 6, 2023
ミッション達成の為にそのミッションが生まれた原体験を否定するようなアクションを取り続けば、チームに歪みが生じてくるのはスタートアップでも同じ。… https://t.co/dQV9VCxw77
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フランクリンは指を切り落とし、もう終わってもいいとゴンはいった制約と誓約。覚悟が生み出す爆発的な成功法則。
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