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『架空の犬と嘘をつく猫』寺地はるなが描く、泣ける家族小説。毎日に疲れた時におすすめの1冊
遊園地のない世界は、つまらんもんね、と父は続けた。人間は、食うたり寝たりするだけでは、生きられん。
ほんとに。
文化を手にしてしまったわたしたちは、生きていく上で「拠り所」がとても重要な要素になってしまった。それは、物語だったり、アイドルだったり、はたまた仕事や家族だったりと、十人十色だけれど。
今回ご紹介する『架空の犬と嘘をつく猫』は、それぞれが「嘘」をつき続けて「拠り所」を守ろうとした、羽猫一家の物語です。
「正しくなくても、俺はいい、と思った」
お話のメインになる羽猫家は、6人家族。
帯にあった家族紹介を載せておきます。
祖父:遊園地を作ろうと思いつく空想人。
祖母:嘘を売る人。比較的まとも。
父:すぐ逃げる。たばこの煙より軽い男。
母:自分の世界を作り、そこに閉じこもる。
姉:嘘と噓つきが嫌い。だから家族みんなが大嫌い。
僕:家族を肯定するために、その嘘に寄り添う。
みんな、何かしら嘘をついているの。すべての発端というわけではないけれど、この家族には、過去にある悲しい出来事が起こったのです。そのせいで、ずっとギクシャクしてしまってて。
でもね、主人公の僕、山吹が大人になって、みんなの嘘が解かれる瞬間が来るの。そして、家族としてかたちをなしたとき、その温かくて優しい世界に、読んでいるこちらの気持ちまで澄んでくる。そんな話でした。
ふっと肩の力を抜いて読める、優しい気持ちをまとった1冊
物語には、それを書いた人の思いや、願いが、たくさんつまっています。物語のかたちをとって伝えようとした思いや願いは、ぜったいに嘘でも架空でもなく、そこにあります。
すてきな言葉。だからわたしたちは物語を欲するのでしょうね。
じつは初めて読む作家さんで、文体になれるまで少し時間がかかったんだけど。やわらかくて、優しい作品を書く作家さんだなと思いました。気を抜いてたら、ほろり泣いちゃったよ。
3年前に単行本の初版を買っていたのに、積み続けてたのもったいなかったな!気づいたら、もう文庫化されとるがな。積み本あるある。
日常に疲れてしまったとき、肩の力を抜いて読める作品です。「あーもうなんか疲れちゃったな」ってなったら、週末に読んでみて。
■ところで、表紙がカワイイなぁって思いませんでした?
表紙のイラストを描かれたのは、北澤平祐さん。他にもいろいろな作品の表紙画を担当されています。わたし、ほかの作品でこの方の表紙画に出合ってから、すっかりファンになっちゃって。
イラストがきっかけで、この寺地はるなさんの『架空の犬と嘘をつく猫』にも出合えたし、こういうことがあるから、本のジャケ買いは楽しい。
楽しさを伝えたくて、まとめ記事まで作りました。お時間あれば。
■次はこれ読んでみて!おすすめ作品
・『正欲』朝井リョウ――著者の作家生活10周年記念作品。多様性が礼賛される社会で、その歪みと違和感に焦点を当てた作品
・『1ミリの後悔もない、はずがない』一木けい――初恋と後悔の物語。椎名林檎も大絶賛した、R-18文学賞受賞作。
・『噛みあわない会話と、ある過去について』辻村深月――親との確執、子どもの頃の許せない記憶。怒りは消えない、それでいい。
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